医師偏在、診療科偏在問題が大きく取り上げられるようになってきました。
4月のNHK日曜討論には横倉義武名誉会長と武見敬三厚生労働大臣が出演され、医師偏在問題の議論が行われました。武見厚労大臣は「医学部の地域枠の設定などの対策をしているがいまだに解消できていない。地域ごとの医師数の割り当てを検討する必要がある」と述べられました。これに対して、横倉名誉会長は「強制的に医師を地方に勤務させることは難しいのではないか」と答えられています。
平成30年の医療法及び医師法の一部改正においては医師偏在対策が盛り込まれ、医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度、都道府県における医師確保計画の策定などが開始されていますが、なかなかうまくいっていません。
医師が都心部に集まることは全世界的な問題であるようで、フランスにおいても同様の問題が起きています。同国における対策は日本にも参考になると思いますので、一部ご紹介します。
フランスの医療は日本と同様、社会保険方式で運営されています。日本との違いは2004年にGP(General Practitioner)制度を取り入れた点にあります。
医師偏在問題はフランスにおいてはGP制度に伴って顕在化し、医師少数区域においてGPに自分を登録してもらおうと思っても、これ以上引き受けられないということで、GPから住民が登録を断られることが頻発してきました。こうした事態は医療難民問題として評されているようです。
フランスでは研修医の研修先を国家試験の順位によって決定します。一般的に、上位成績者は都心部、そうでない者は地方で研修を受けることになります。しかし、研修期間が終わると、地方で研修を受けた者が都心部に戻ってくるという問題が以前から指摘されていました。
若い医師や医学生への財政支援策も10年ほど前に創設されました。公共サービス従事契約(CESP)により、若い医師や医学生は月額1200ユーロを支給されますが、手当を受け取った期間と同じ年数(最低2年間)医師少数区域にて勤務することが義務付けられます。
この制度は2010年に始まっていますが、2021年までの12年間で4122人が本制度に参加しています。その後、646人がその地域に定住しているそうです。
このように手当を支給する制度を実行しても、医師少数区域に残るのは7人に1人程度しかいません。フランスの当局者によれば「このような手当をしないと、地方勤務医がゼロになるかも知れない。何もしないよりはまし」ということのようです。
更に、開業医については別の方法を採用しており、CDE(Contrat de début d'exercice)という契約があります。これは、医師少数区域に開業をする医師に対して、一定期間の収入保障、有給(病欠、産休、育休など)の付与などを行うものです。
また、GP研修を受ける研修医については、1年間の医師少数区域での研修が義務化されたそうです。
どの国においても、医師偏在対策は一つではなく、複数の対策が必要なのでしょう。
本邦においても、勤務医の偏在対策について、フランスのように希望する全ての医学部生や研修医に奨学金支給制度を設け、受給者に一定年数の医師少数区域での勤務を義務付けるなどといった施策は可能ではないでしょうか。
また、医師少数区域に開業する医師については、一定期間の収入保障、休みを取りやすくする方策、休みの際の代診医派遣などをセットで提供することも有効でしょう。
本邦における医師偏在対策は、各国の先行事例を参考に、文化や国民性等の特性を加味しながら、実効性のある方法を模索することが求められます。
(日医総研副所長 原祐一)