令和6年度全国医師会産業医部会連絡協議会(主催:日本医師会、日本産業衛生学会、後援:厚生労働省、労働者健康安全機構、産業医科大学、産業医学振興財団、中央労働災害防止協会)が6月5日、「認定産業医制度における生涯研修会の積極的開催に向けた実務支援」をテーマとして、WEB会議との併用で日本医師会館大講堂において開催された。
当日は会場に集まった参加者46名の他、オンライン参加者213名の合計259名が聴講した。
協議会は神村裕子常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、日本医師会認定産業医制度の役割について、働く人々の健康課題が多様化する中で、労働者のメンタルヘルス対策を始め、高年齢労働者の労働災害対策、治療と仕事の両立支援、女性就業者の増加に伴う女性の健康課題への対応など多岐にわたるようになっていると指摘。「今後認定産業医の社会的評価を高めていくためにも、その量と質との両面で一層の向上が求められる」として、引き続きの協力を求めた。
その上で、「各地域の産業医部会においては、本協議会の各講演内容を各地域での産業医研修に生かし、認定産業医の研修会の質の向上につなげ、社会の要請に応える産業保健活動への取り組みを推進して欲しい」と要望するとともに、日本医師会としても、本協議会を構成する団体と協力して、現場で活動する産業医のニーズに応えられるよう努めていく姿勢を示した。
中央情勢報告
続いて、森晃爾日本産業衛生学会理事長からあいさつが行われた後、中央情勢報告では、松岡輝昌厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長が、最近の労働衛生行政の動向として、新しい化学物質管理におけるリスクアセスメント対象物健康診断の枠組みや、個人事業者等の安全衛生対策について説明した他、一般健康診断の検査項目等の見直しやメンタルヘルス対策の強化について、現在検討会で議論を重ねていることを報告した。
また、職場における熱中症による死傷者数が微増傾向にあることを紹介し、その対策として、厚労省が事業者向けに配布しているリーフレット『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド』の活用を求めた。
シンポジウム
続いて、相澤好治日本医師会産業保健委員会委員長/北里大学名誉教授を座長としてシンポジウムが行われた。
神村常任理事は令和4・5年度日本医師会産業保健委員会答申における提言項目について説明。産業保健の課題となっている従業員30人から49人の小規模事業場への産業医の選任義務化について、「現状では難しいが、国と連携して30人から49人の小規模事業場であっても希望する事業場には産業医の選任を推進するとともに、地域産業保健センターを充実させることで、30人から49人の小規模事業場への産業保健の提供を拡充する必要がある」と述べた。
更に、今後については、「行動する産業医」の育成に注力していく考えを示すとともに、本協議会との連携や研修を通じて、引き続き、産業医活動を支援していきたいとした。
武林亨日本産業衛生学会副理事長は、研究会活動、専門医制度の運営などの日本産業衛生学会の主な活動と、北海道から九州まである九つの地方会との連携について報告。地方会との連携を強化するため、学会総会や全国協議会を地方会が持ち回りで開催していることや、地方会と地域の医師会が共同で研修会を開催していることなどを紹介し、産業保健活動を推進するためにも、地方会や各医師会との緊密な連携が今後も重要になると強調した。
堀江正知日本医師会産業保健委員会副委員長/産業医科大学副学長は、認定産業医の生涯研修制度について「最大の目的は、単位の更新を通じて知識と能力の維持向上を図ることにある」と指摘。今後の課題としては、全国で年間約3500回の生涯研修会が実施されているが、専門研修が多く、実地研修や有害業務管理に関する研修が不足しているため、研修を実施する地域の医師会の企画力の強化が挙げられるとした。
指定発言
指定発言を行った搆健一中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター副所長は、化学物質規制の見直しによる産業医の役割の変化に言及。企業は自律的に化学物質を管理する必要があるため、産業医は職場巡視で適正な管理が行われているかを確認した上で、対策を一緒に検討したり、衛生委員会でリスクアセスメントや措置の審議、労働者からの意見聴取をしたりすることなどが求められるとする一方で、企業からの要望に応えきれない場合には、行政が出しているQ&Aなどの外部リソースの利用を企業に促すことを求めた。
同じく指定発言を行った圓藤吟史中央労働災害防止協会大阪労働衛生総合センター所長は、産業医の実務における課題と対策について、産業医は臨床医と比べて症例検討の機会が少ないため、セミナー等を通じた双方向の指導とともに、産業医と企業とのマッチングを支援する取り組みが必要になる他、化学物質管理には直接関与はしないものの、関係者への助言や事業者への意見・勧告の役割があるため、研修会等で啓発を行うことが求められると説明した。
最近の活動報告
最近の活動報告については、玉城研太朗沖縄県医師会理事が、令和3年に設立された沖縄県医師会産業医部会の取り組みを紹介。沖縄県では中小企業が多いため、産業保健活動の推進が課題となっているとした上で、現在は65歳未満の働き盛り世代の死亡率改善プロジェクトの推進のため、有所見者への介入、健康経営の推進、県民向けイベント等を実施していることを報告。また、沖縄県の平均寿命が全国平均と比較して低いことに触れ、その対策として生活習慣の改善や健診受診率の向上が重要になると強調した。
協議
その後の協議では、事前に寄せられた都道府県医師会からの質問に神村常任理事が回答した他、笹本洋一常任理事からは、新会員情報管理システム「MAMIS」における認定産業医制度及び認定健康スポーツ医制度のデジタル化について説明がなされ、閉会となった。