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令和6年(2024年)9月5日(木) / 日医ニュース / 解説コーナー

特別寄稿 難聴の早期発見のため耳鼻咽喉科受診勧奨にご協力を

特別寄稿 難聴の早期発見のため耳鼻咽喉科受診勧奨にご協力を

特別寄稿 難聴の早期発見のため耳鼻咽喉科受診勧奨にご協力を

 『マッチ60歳、聴力検査デビューします!』という近藤真彦さんが出演するCMや広告をご覧になって頂けましたでしょうか。
 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は令和6年7月から難聴に関する啓発キャンペーンをACジャパンの支援の下で開始しました。主たるメッセージは「聞きかえし、聞き間違いが多くなったら、耳鼻科での聴力検査をお勧めします」というものです。
 加齢に伴って進行する難聴は誰もが経験することであり、生活の中で少し不便を感じるものの、大きな声で話してもらったり、テレビの音量を上げたりすれば良いのではないかという印象をおもちの方も少なくないと思いますので、なぜこのような大規模な難聴啓発キャンペーンを学会が始めたのか解説させて頂きます。
 加齢に伴って進行する難聴、すなわち加齢性難聴はコミュニケーションの低下にとどまらず、適切な介入を行わないことが、認知症・うつ病といった疾患リスクの増加、社会的孤立や就業機会の喪失といった社会課題に関連することが示されています。特に2017年にLivingstonらがまとめたLancet誌の委員会報告では、認知症を予防できる可能性が最も大きい因子が「中年期以降の難聴」の予防・介入であることが示され、2020年、2024年に最新データに更新されてもその結果は維持されています。
 世界保健機関(WHO)は2017年の第70回世界保健総会(World Health Assembly:WHA)において、「難聴および聴覚障害の予防(WHA70.13)」を採択、2021年3月3日には『World report on hearing』という難聴に関する予防と適切な介入に関する報告書を公開しました。
 予防に関しては、ヘッドホン・イヤホンによる強大音暴露回避のキャンペーンが開始され、介入に関しては加齢性難聴に対する補聴器装用によって認知症発症リスクが低下することが、大規模なデータベースを用いた観察研究や無作為化介入試験により示されました。
 予防や介入を行うためには聴覚機能を評価しながら適切な管理を実施する必要がありますが、日本国内においては聴力に関する健・検診は学校保健安全法施行規則に基づく学校健診と労働安全衛生規則に基づく労働者健診のみであり、非就業者や退職後の特定健康診査・後期高齢者健康診査において聴力に関する項目は問診を含めて一切含まれていません。
 国際的に質問内容が統一された大規模調査(JapanTrak及びEuroTrak)によれば、難聴の自覚率は欧州を始めとした諸外国と日本は同等(約10%)である一方で、難聴を自覚した際の医師への相談率は諸外国(50~80%台)と比較して、日本(38%)は低いことが示されました。その結果として、難聴自覚者における補聴器装用率が諸外国(40~50%台)と比較して、日本(15%)は非常に低いことも示されています。
 そこで日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、健・検診に聴覚に関する項目(問診及び検査)を加えるための働き掛けを行うとともに、一般市民の方に対しても聴覚に関する意識をもって頂けるように啓発活動を進めています。
 学会として80歳になっても30デシベルの聴力レベルを保つことを目的とした「聴こえ8030運動」を開始するとともに、前述のACジャパンの支援において行う難聴啓発キャンペーンを開始いたしました。更に、防音室が無い診療環境であっても聴覚に関するスクリーニングが実施可能な機器の開発も進めることで、幅広い診療科の先生方に聴覚診療へご参加頂くことも目指しています。
 さまざまな観察研究や介入研究の結果を合わせて、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、「中等度以上の難聴」並びに「軽度難聴であっても聞こえづらさを感じている」患者さんに対して補聴器装用を提案することをまとめた診療マニュアルを発行し、会員に周知しました。
 他診療科の先生方におかれましても、日々の診療の中で診察する患者さんで、高度な難聴ではなくても本人が聞こえづらさを感じていたり、周囲の方とのコミュニケーションに困難を認めたりした場合は、耳鼻咽喉科受診と聴力検査をお勧め頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。

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