令和6年(2024年)9月20日(金) / 日医ニュース / 解説コーナー
特別寄稿 医師の働き方改革から半年「知って頂きたい2024年施行の医師の働き方改革~A水準の医療機関に向けて~」
全国社会保険労務士会連合会 働き方改革推進特別委員会
委員 社会保険労務士 小川美也子、浅見 浩
- 000
- 印刷
2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制の適用が開始され、医師の働き方改革制度が本格的に始動しました。
医師の働き方改革では労働時間を特例的な取り扱いとする医師や医療機関がクローズアップされがちですが、特例水準とならない医師・医療機関である、いわゆるA水準の医療機関においても健康確保のためのルールや兼業・副業の労働時間の通算といったものは、水準を問わず全ての医療機関に求められるため確認しておく必要があります。
はじめに
医療機関は医師の時間外労働の上限時間等により、5区分に分類され、それぞれの区分ごとに新しい労務管理が必要となります。5区分のうち、かなりの割合を占めるA水準適用の医療機関であっても例外ではありません。
そこでA水準の医療機関の皆様に向けて、再確認項目をまとめてみました。
1.労働時間の適正な管理
労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれて労務を提供している時間を言い、この労働時間を適切に管理することが義務付けられています。
医療機関では職員の労働時間管理について、時代の変化とともにタイムレコーダーや勤怠システム等を使用したPCでの労働時間管理が主流になりつつあり、始業・終業時刻の管理、残業時間等の管理支払いについては進んできているように思います。
しかし、医師についてはどうでしょうか。労働時間管理の複雑さ(兼業・副業、自己研鑽(さん)の問題等)があるためか、取り残されている職種の一つになっていると思われ、いまだ印鑑の出勤簿というところも少なくありません。
まずは、医師の労働時間管理について、少なくとも把握するところから始めてみましょう。
2.兼業・副業の労働時間管理
労働時間については、異なる事業主の指揮命令下で働いた場合、通算されることになっています。主たる勤務先のA医療機関と、従たる勤務先のB医療機関で働いた場合は、AとBが合算されて、個人の労働時間となります。主たる勤務先では960時間以内の時間外労働であっても、合算すると960時間を超えることになってしまう場合も考えられます。
3.宿日直許可
宿日直の許可を取った医療機関で、宿日直業務として働いた場合は、宿日直業務自体が労働時間ではないため、主たる医療機関の労働時間に通算されることはありません。
ただし、宿日直業務の途中で、通常業務と同程度の業務を行った時間がある場合、その時間に対する時間外労働が発生し、宿日直手当とは別に時間外手当等を支払わなければならないことは、留意が必要です。
4.自己研鑽の取り扱い
医師の労働時間を管理する場合に特に問題となっているのが、自己研鑽の時間です。
自己研鑽を労働時間か否かで考えた場合、業務上必須の自己研鑽であれば労働時間に該当し、業務上必須でない自己研鑽は、自由な意思による自己研鑽として、原則、労働時間に当たりません。
従って、業務に付随する自己研鑽が所定労働時間外に行われた場合は、時間外労働として通算され、時間外手当を支払うことになります。
5.A水準医療機関における面接指導
2024年4月から、時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師全員に対して、新しい面接指導が始まりました。
この面接指導は、1カ月の時間外・休日労働が100時間に達するまでの間に実施されるもので、具体的には、ある程度の疲労蓄積が想定される80時間前後を目安に実施することが推奨されます。
これはA水準医療機関でも同様に実施することが求められますが、A水準医療機関では、疲労の蓄積が認められない場合は100時間以上となった後、遅滞なく実施することでも可とされています。
この面接指導は、面接指導実施医師が行うものとされており、面接指導実施医師は勤務する医療機関の管理者でないことが要件とされていて、面接指導実施医師養成講習会の受講を修了していることが必要です。
従って、A水準医療機関においても、なるべく管理者を除く複数の医師に面接指導医師養成講習会を受講してもらう必要があります。
また、面接指導実施後には、健康確保措置について面接指導実施医師から意見を聞くこととされており、必要な場合は、面接指導対象医師の健康確保のため、労働時間の短縮、宿直回数の減少、その他の適切な措置を行うこととされています。
既述の必要な面接指導を実施しなかった場合には医療法違反となりますので、注意が必要です。2024年4月以降、面接指導の実施は医療法第25条に基づく立入検査の確認項目となっています。
6.医療法第25条に基づく立入検査の内容
2024年4月からの医師の働き方改革関係の医療法施行に伴い、医療法第25条に基づく立入検査において新たに必要な検査項目が追加されました。
A水準医療機関について、勤務間インターバル・代償休息に関する確認は除外されていますが、その他以下①~③の項目は対象となります。
①面接指導の実施(医療法第108条第1項)
②就業上の措置(時間外・休日労働100時間以上の見込み)(医療法第108条第5項)
③就業上の措置(時間外・休日労働155時間超)(医療法第108条第6項)
更に、その際には、次の資料の提示が求められますので、しっかり整備しておく必要があります。
①直近1年間における月別の時間外・休日労働時間数が100時間以上となった医師の一覧(既述の②も同じ)、長時間労働医師面接指導結果及び意見書、面接指導実施医師養成講習会の修了証書
②措置の要否や措置の内容について記載された記録
③直近1年間における月別の時間外・休日労働時間数が155時間超となった医師の一覧・労働時間短縮のための必要な措置について記載された記録
提示を求められる資料については、立入検査を実施する機関によって異なる場合がありますので、立入検査を実施する機関の指示に基づいて対応して下さい。
おわりに
現在、医師の皆様のおかげで安心・安全な医療を全国でくまなく受診できる医療提供体制となっています。
この安心・安全な医療を今後も持続可能なものとするためにも、「医師の健康確保」と「地域医療体制の確保」を両輪として、「医師の働き方改革」は始まったものと考えております。
従って、今回の医師の働き方改革が目指す本質は「地域医療体制確保のため医師を派遣する」「救急医療等を担う」「臨床・専門研修を担う」「高度技能の修得研修を担う」と言った特例水準の医療機関ばかりでなく、A水準の医療機関であっても当てはまるものであり、粘り強く取り組みを進めていく必要があります。