日医かかりつけ医機能研修制度令和6年度応用研修会(第1回)が9月16日、日本医師会館小講堂で開催され、24都道府県医師会の受講会場にも同時中継された。
冒頭あいさつした松本吉郎会長は、「かかりつけ医は地域の医療・介護・福祉を支える要の役割として、今後もかかりつけ医機能を発揮することがますます期待される」と述べ、地域で活躍しているかかりつけ医が患者や地域医療に貢献し続けられるよう、本研修制度の更なる充実を図っていく姿勢を示した。
続いて、6題の講義が行われた。
講義1「かかりつけ医の糖尿病管理」では、鈴木亮東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学分野主任教授が、2型糖尿病の治療並びに療養計画書作成に当たって必要な知識を解説。
同教授は、まず、糖尿病の基礎知識及び診断までの流れ・注意点を説明し、「糖尿病を早期発見し、合併症の状態を速やかに評価して適切に治療することは、糖尿病の無い人と変わらない寿命とQOLを達成する上で極めて重要」と強調した。
目標体重・目標HbA1cの設定については、『糖尿病診療ガイドライン2024』等を基に、肥満・肥満症の診断、治療プランの立て方について説明し、「患者と一緒に達成可能な目標を、期限を決めて、患者自身が主体的に決めた目標だと思えるように対話することが理想的だ」と述べた他、療養計画書の書き方も示した。
また、食事と運動の目標設定と指導に関しては、「初診時にこれまでの食習慣を聞き出し、明らかな問題点がある場合にはまずその是正から進めるべき」とした上で、適切な運動療法の進め方についても説明した。
講義2「かかりつけ医の脂質異常症管理」では、吉田博東京慈恵会医科大学附属柏病院長・教授が、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』等を基に、生活習慣改善のエッセンスや令和6年度診療報酬改定への対応について解説。
同教授は、2017年版の同ガイドラインから2022年版への主な変更点を示した上で、危険因子であるトリグリセライド(中性脂肪)についての知見や、検査値・症状に応じた治療薬の選択など、動脈硬化性疾患予防の包括的リスク管理を行うに当たって必要な知識を説明した他、生活習慣改善のために重要な、「禁煙」「飲酒」「肥満・メタボリックシンドローム対策」「食事療法」「運動療法」に関する指導のポイントを示した。
また、令和6年度診療報酬改定を踏まえ、「生活習慣病管理料」を算定するに当たって、脂質異常症に関する療養計画書の具体的な書き方を詳説した他、治療管理における、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、管理栄養士等との多職種連携の重要性も強調した。
講義3「栄養や口腔におけるかかりつけ医との連携」では、西岡心大長崎リハビリテーション病院栄養管理室長が、地域包括ケアにおける栄養ケアのあり方を示した上で、医療、介護における栄養とかかりつけ医の連携について解説した。
同室長は、まず、高齢者や入院患者における低栄養の現状を概説し、リハビリ・栄養管理・口腔管理の三要素を一体的に実施する重要性を指摘。どれか一要素でも問題が生じた場合は、他の二要素も評価することが望まれるとした。
次に、令和6年度診療報酬改定で低栄養の判断基準となった「GLIM基準」の概要や、生活習慣病管理料の療養計画書の書き方・指導のポイントについて説明。診療報酬と介護報酬における栄養食事指導では、栄養ケア・ステーションや他の保険医療機関等の管理栄養士と連携して実施することが可能であることに留意を求めた。
渡邊裕北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室准教授は、健康と口の関係や口の健康に関する医科歯科連携について解説。
同准教授は「おいしく飲食ができること」は自分が健康だと判断する際の重要な要素であり、咀嚼(そしゃく)能力と健康余命には大きな関係があると指摘。「8020運動」で多くの歯を有した高齢者が増加した一方で、歯があっても食事が摂れない高齢者も増加しているとして、その改善の必要性を強調した。
また、今回の診療報酬改定において、生活習慣病管理料の算定要件として、糖尿病のある人には歯科への受診勧奨を行うことが追加されたことを紹介した他、入院(所)中及び在宅等において療養中の患者に対する口腔の健康状態を確認する時に基本となる考え方と、かかりつけ医が口腔に関して指導する際のポイントを示した。
講義4「リハビリテーションにおける医療と介護の連携」では、三上幸夫広島大学病院リハビリテーション科教授が、リハビリテーション実施計画書の記入方法について解説。「ICF(国際生活機能分類)とICD(国際疾病分類)に基づいたリハビリテーション実施計画書の作成、定期的なカンファレンスでの再評価等、PDCAサイクルを回すことで治療目標を目指すことが肝要になる」と述べた。
また、医療と介護の連携の実態と課題については、医療保険と介護保険のリハビリテーション連携の実態調査結果を基に報告。リハビリテーション実施計画書の共有が不十分で連携が不足していることを紹介した。更に、退院後のリハビリテーション開始が遅滞することで機能回復が遅れること等が明らかとなっていることを踏まえ、令和6年度の診療報酬・介護報酬改定において情報連携や退院前カンファレンスへの参加が推進されるようになったことに触れた上で、医療と介護の連携に当たっては医療には生活の視点が、介護には医療の視点がそれぞれ求められると強調した。
講義5「認知症の方への意思決定支援とプライマリケア」では、田中志子内田病院理事長・院長が、認知症の方が自らの意思に基づいて生活できるよう支援することの重要性について説明。具体的な取り組みとして、「身体拘束をしない介護」「環境調整の工夫」「就労的活動の提供」「地域交流の促進」などを紹介するとともに、「認知症患者の生活歴を知ることで、不愉快な態度や言葉遣いを避けることができる」と述べた。
その上で、生活歴についてはかかりつけ医が一番詳しく、「どんな仕事をしているか」「どんな家族に支えられてきたか」「通えなくなった時に誰が一番支援をしたか」といった情報を、ケアマネジャーや介護施設に共有し、バトンタッチして欲しいと要望した。
講義6「かかりつけ医の高血圧症管理」では、大屋祐輔琉球大学病院長が『高血圧治療ガイドライン2019』や最新の知見に基づき、高血圧に対する生活習慣の改善及び薬物治療、血圧が下がらない場合の対処法等について説明した。
また、生活習慣の改善に関しては、「生活習慣病療養計画書」の記入手順に倣った、食事・運動・喫煙等の各目標の立て方を例示し、「患者自身の意欲を引き出し、自身で目標を設定し行動してもらうことが大事になる」と述べた。
更に、血圧が下がらない場合の対処法については、服薬アドヒアランスや生活習慣の確認、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング、降圧薬の用量や組み合わせの変更の検討に加えて、他の薬剤の影響や二次性高血圧の可能性も考慮する必要があると概説した。
最後に釜萢敏副会長が閉会のあいさつを行い、研修会は終了した。
なお、日本医師会では本研修会と同様の内容の研修会を10月6日、11月4日にもWEBにより開催する予定としている。