第45回産業保健活動推進全国会議が10月24日、日本医師会館大講堂で、WEB会議システムを用いてハイブリッド形式で開催された。
開会に先立ち、福岡資麿厚生労働大臣(代読:佐々木孝治厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長)、松本吉郎会長、大西洋英労働者健康安全機構理事長、相澤好治産業医学振興財団理事長がそれぞれあいさつを行った。
松本会長は、新型コロナウイルス感染症の影響により、産業医研修会の開催縮小などさまざまな不便がある中で、産業医活動に取り組んだ認定産業医の方々へ改めて謝意を示した上で、労働者のメンタルヘルス、高年齢労働者の安全衛生、治療と仕事の両立、女性就業者の増加に伴う女性の健康課題、化学物質による健康被害など、産業医が働く人々のために対処すべき課題が多様化していることに言及。労働者の健康を守る産業医に期待される役割は、これからますます重要になるとした上で、「日本医師会認定産業医制度は、労働者の健康を守ることを通じて、日本の産業社会が将来にわたり発展していくための基盤であり、認定産業医の社会的評価を今後一層高めるためにも、量と質の両面での更なる向上が期待される」と述べた。
中央情勢報告
中央情勢報告では、佐々木厚労省労働衛生課長が中規模事業場(労働者数30~49人)を対象とした産業医活動支援モデル事業を紹介。地域産業保健センターが郡市区等医師会と協力し、登録産業医を事業場とマッチングさせ、産業医によるパッケージ支援を提供することとなっているが、その中では、必須のサービスとして「産業医と事業者の意見交換」を、選択的サービスとして「職場巡視や健診結果の意見聴取」などを実施することになっており、これらの取り組みを通じて、自主的な産業医の選任が強く求められる中規模事業場での産業医選任を促進することを目指しているとした。
また、一般健康診断と、ストレスチェック制度に関する二つの国の検討会の中間取りまとめについても報告。一般健康診断では、女性特有の健康課題に関する問診を追加することなどが提案された他、ストレスチェック制度については、50人未満の事業場への義務化が適当とされたが、実施マニュアルの作成や体制強化が今後の課題であるとした。
続いて、中岡隆志労働者健康安全機構理事の司会の下、産業保健総合支援事業に関する活動事例報告として、(1)山形産業保健総合支援センターのメンタルヘルスの取り組み(神村裕子山形産業保健総合支援センター所長)、(2)石川県における産業医の産業保健活動のレベルアップの取組み(大川陽平石川産業保健総合支援センター副所長)、(3)東京中央地域産業保健センター活動報告(内田和彦東京中央地域産業保健センター運営主幹)―について、それぞれ紹介が行われた。
シンポジウム
引き続き、笹本洋一常任理事が司会を務め、「産業医の資質向上に向けた研修会の開催について」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
松岡かおり常任理事は「認定産業医の資質向上の必要性と全国における産業医研修会の傾向」と題して講演した。
同常任理事は、コロナ禍で研修会の開催数が大幅に減少したことから、認定産業医の更新期限を延長する特例措置が取られていたが、2028年3月末をもってこの特例が終了することを説明。更新率が85%程度で推移すると、通常の更新者に加え、今後4年間で約1800人が更新を行う見込みであり、更新率が90%を超えると4000人近くが更新する可能性があるため、受講希望者の大幅な増加に対応できるよう研修会の確保が必要となっているとし、「その対応策として、都道府県医師会においてはWEB研修会の実施、サテライト会場の設置、日本医師会の助成金活用、関係団体との協力、受講定員数の増員など、さまざまな対策を講じて頂きたい」と要請した。
中岡労働者健康安全機構理事は、全国の産業保健総合支援センターで実施している産業医向け研修に関して、研修の開催回数と受講者数の推移、内容と形式、受講者のニーズを反映した研修テーマの設定などについて詳説。研修の利便性を高めるため、県庁所在地以外の場所や土日・夜間での開催、オンデマンド配信、WEB会議の活用など、さまざまな形態の研修が行われている他、職場巡視を含む実地研修なども取り入れられているとした。
井上真産業医学振興財団事務局長は、産業医研修会における実地研修の開催に向けた施策について、産業保健実践講習会と産業医学専門講習会の概要、実地研修の重要性、コロナ禍における実地研修の課題と対策、都道府県医師会への委託研修の状況などを説明。実地研修の受講者数を増やすために、入れ替え制の導入や意見収集方法の工夫、産業医役と労働者役に分かれた産業医面談のロールプレイの実施など、さまざまな取り組みを実施していることを紹介した。
堀江正知産業医科大学副学長は、「認定産業医の知識・能力の維持と向上が重要だ」とした上で、認定産業医の研修実施状況の分析結果から、産業医学の本質的な内容を扱う研修が不足していることを問題視。地域医師会の研修を支援するため、日本医師会を通じて地域医師会から産業医科大学に講師派遣を依頼する仕組みを設け、講師派遣の申し込みフォームの試行運用を令和7年度から開始する予定であることを明らかにした。
続いて、笹本常任理事が、医師会会員情報システム「MAMIS」(10月30日公開)について、2025年4月から、マイページで研修会の申し込み・単位取得状況の管理、認定医の新規申請・更新、参加可能な研修会情報や取得単位の詳細が確認できるばかりでなく、証書の印刷等も可能になる予定であることなどを説明した。
質疑応答
その後、堀江産業医科大学副学長の司会の下に、佐々木厚労省労働衛生課長、松岡常任理事、中岡労働者健康安全機構理事、井上産業医学振興財団事務局長の4名が、埼玉県、新潟県、大阪府、奈良県の各府県医師会から事前に寄せられていた質問に対する回答を述べた他、都道府県医師会との間で活発な質疑応答が行われ、会議は終了となった。