物価の上昇が止まらない状況が続いています。
物価を示す指標はいくつかありますが、多く使用されるのは「コアCPI」です。これは、消費者物価から生鮮食料品を除いて計算される指標です。生鮮食料品を除くのは、天候などによる一時的な価格変動でインフレが起こっているように見えることを避けるためです。
2010年代のコアCPIはほぼプラスマイナス0%の範囲内で推移していましたが、2022年頃から急激に上昇を始めました。
これは、コロナ禍初期に需要が減少し物価が下がった反動や、円安による輸入品価格の上昇が主な原因です。特に2022年10月から12月には、前年比プラス4・5%まで上昇しました。
インフレの上昇には二つの要因があります。
1.ディマンド・プル型インフレ(良いインフレ)
需要が増え、モノやサービスの価格が上がることによるインフレです。例えば、10個しかない商品に15人の買い手がいる場合、売主は高い値を付けた人を優先します。この需要増による価格上昇がディマンド・プル型インフレです。
2.コスト・プッシュ型インフレ(悪いインフレ)
資源高や円安により、輸入品の価格が上がることで生じるインフレです。ウクライナ情勢やガザ紛争に伴う原油高や円安が、ガソリンや電気代の高騰を引き起こしています。
現在のインフレは主にコスト・プッシュ型要因によるもので、私達が支払ったお金が海外に流れ、日本の経済に還元されない構造となっています。このようなインフレは日本の医療機関にも大きな影響を与えています。
医療機関では診療報酬が2年間固定で設定されており、2年間は物価が上がっても収入には変化がありません。既にギリギリの経営をしている医療機関にとって、コスト・プッシュ型インフレは極めて大きな負担となっています。
現在、大幅に増えている支出項目には、給食費、水道光熱費、外注費、物品費、人件費などがあります。また、今後更に増加が予想されるのは、医療DX関連の費用(DX機器、通信費、クラウド費用)、土地価格の上昇による賃料と固定資産税、円安による医療材料費です。円安が更に進むと、これらの費用は今以上に上昇する可能性があります。
一般消費者物価が高騰する中、他の業界との競争を考えれば、人件費も引き上げざるを得ないでしょう。その結果として今年6月には赤字病院の割合が70%を超えたという報告もあり、予断を許さない状況です。
1973年のオイルショック時、2年ごとの診療報酬改定の間に「期中改定」を行い、物価高に対応しました。現在の中東の情勢も、当時と非常に似通ってきています。
次の診療報酬改定は2026年6月で、あと1年半も先です。1年半も現在の収入のままだと、多くの医療機関の運営は今以上に極めて厳しい状況になります。
日本医師会は医療機関の現状を打開するために補正予算における補助金の大幅増による支援を要請していますが、今後の状況によっては期中改定も必要と考えます。
(日医総研副所長 原祐一)