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令和6年(2024年)12月20日(金) / 日医ニュース

「医師少数地域における医師確保」をテーマとして活発な討議

「医師少数地域における医師確保」をテーマとして活発な討議

「医師少数地域における医師確保」をテーマとして活発な討議

 令和6年度第2回都道府県医師会長会議が11月19日、日本医師会館大講堂で開催された。当日は、「医師少数地域における医師確保」をテーマに討議が行われ、国が進めようとしている規制的手法ではなく、教育やシステム整備による自律的な方法で医師確保を目指すべきとの意見が相次いだ。
 会議は城守国斗常任理事の司会により開会。冒頭、10月16日に逝去した中尾正俊大阪府医師会長/日本医師会理事に黙禱(もくとう)が捧げられた。
 続いてあいさつした松本吉郎会長は、9月の能登半島豪雨の支援として、11月19日現在、総額で1億3982万6930円の支援金が寄せられ、11月19日の第9回理事会で受領と石川県医師会への配賦が了承されたことを報告した。
 今回のテーマである医師偏在については、「一つの方策で大鉈(なた)を振るうような対応ではハレーションを来す」とし、さまざまな方策を組み合わせた総合的な対策とすべきだと強調。その上で、11月13日の財政制度等審議会財政制度分科会の議論における、医師偏在対策として診療所過剰地域の1点当たりの報酬単価の引き下げを行うとの議論に対しては、「理不尽で的外れな主張であり、会見で反論していく」との姿勢を示した。
 また、政府・与党で議論がなされている「新たな総合経済対策(仮称)(案)」では、医師偏在是正に向け、リカレント教育と広域マッチング事業に対し補正予算で予算措置がなされる見込みであることなどに触れ、日本医師会としても女性医師支援センターのノウハウを活用しながら取り組んでいくとするとともに、本会議では、実効ある医師確保策等について忌憚(きたん)のない意見を求めた。

Bグループが各地の取り組みなどを紹介して討議

 その後、安東範明奈良県医師会長が進行役を務め、「医師少数地域における医師確保」をテーマとしたBグループ(岩手県、茨城県、東京都、三重県、奈良県、岡山県、愛媛県、大分県)による討議が行われた。
 奈良県医師会は、財政審の「春の建議」で地域間偏在の対策として、地域別診療報酬を活用することが提案され、政府の「骨太の方針2024」では、医師少数区域等での勤務経験を管理者要件とすることが提案されるなど、規制的手法に偏った議論がなされていると指摘。そもそも住民の安全・安心のための医療体制に"過剰"という概念はそぐわないとし、医師充足地域においては診療科機能ごとの偏在対策を、医師不足の地域においてはアクセスの向上を、地域医療対策協議会などで検討すべきであるとした。
 岩手県医師会は、県内に1校しかない医大卒業生の定着率が約40%にとどまっていると報告。医師確保に向けて、(1)医師少数区域に奨学金養成医師を計画的に配置、(2)奨学金による医師養成等を通じ、産科及び小児科並びに救急診療科の医師を確保、(3)臨床研修医及び専攻医の受け入れのため、医療機能の集約化による症例の集中や研修指導体制、研修環境の整備―などに取り組んでいるとした。
 茨城県医師会は、医師の高齢化が進み、今後、ベテラン医師の退職に伴って、ますます医師確保が困難になることを危惧(きぐ)。奨学金やワークライフバランスの改善支援など、これまでの対策に加えて、「地域内の医療ネットワークの強化」「医療AIやロボットの導入支援」「遠隔医療やオンライン診療の積極的な活用」などに取り組んでいくとした上で、今の時代に合わせた大学による医師派遣がポイントになるとした。
 東京都医師会は、東京は一見医師数が多く見えるものの、人口当たりでは全国5番目であり、多摩地域や伊豆七島のような医師少数地域も抱えている上に、美容整形、美容皮膚科などの自費診療クリニックが増加している現状を説明。「公的資金が投入されている都立病院がもっと医師派遣機能を果たすべきである」と述べるとともに、高校生のうちから地域医療の大切さや医師の役割について学んでもらう重要性を指摘した。
 三重県医師会は、人口当たりの医師数が全国平均よりはるかに少ない状況の中で、行政・大学病院と連携して医師確保に取り組んでいることを説明。地域枠の学生には卒前と卒後に従事要件を守る誓約書の提出を求めているとしたが、入学時に将来の診療科を選ばせるのは酷であるとして、まずは「総合診療科」「総合内科」「一般外科」の3科から始めることを提案した。
 岡山県医師会は、地域医療に関心をもつ医師を育てていく重要性を強調。義務年限を過ぎた医師が地域に残るかどうかが課題であるとした上で、引き続き女性医師の勤務環境の改善に取り組むとともに、岡山大学(ダイバーシティ推進センター)と県医師会で女性医師の離職防止・再就業推進に向けて相談、研修、医療機関への啓発等に取り組んでいることを説明した。
 愛媛県医師会は、医学部の定員数を削減する動きがあることに危機感を表明。「地域枠の人数は全国一律のマクロの指標から算出するのではなく、地域ごとの需要を踏まえて議論すべきである。東京ですら充足しているとは言えない状況であり、医師の養成ニーズは高まっていく」と述べ、医局制度の利点も踏まえた是正を主張した。
 大分県医師会は、小児科や産婦人科などの診療科偏在解消のため、県・県医師会・大分大学医学部と連携し、研修資金の貸与、働き方改革、女性医師支援対策などを行っていることを紹介。現在は専門医がキャリアチェンジする際の研修支援の予算化を県に要望しているとし、日本医師会が提言している1000億円規模の「医師偏在対策基金」の創設に期待を寄せた。
 全体討議では、医局のあり方や大学病院の医師派遣機能を担保していく方策、専門医制度などについて意見が交わされた。

さまざまな手段で地域偏在に対応を

 引き続き、今村英仁常任理事が医師少数地域における医師確保について、日本医師会執行部に寄せられていた質問に回答した。
 同常任理事は、松本会長が8月21日の定例記者会見で、現時点での医師偏在解消に向けた対応として、(1)公的・公立病院の管理者要件、(2)医師少数地域の開業支援等、(3)全国レベルの医師マッチング支援、(4)保険診療実績要件、(5)地域医療貢献の枠組み推進、(6)医師偏在対策基金の創設―の六つの取り組みを提言したことを報告。「一つの手段で解決するような"魔法の杖"は存在せず、さまざまな手段を駆使して複合的に対応していく必要がある」と述べ、全ての世代の医師が地域偏在に対応しなければならないとした。
 国が「骨太の方針2024」で医師偏在対策に関する総合的な対策パッケージを年末までに決定する意向を示し、厚生労働省の検討会でも規制的手法や経済的インセンティブなど具体的な検討が行われていることについては、医師偏在指標、外来医師偏在指標などの画一的なデータだけでなく、各地の実情を考慮することを求めていると強調。
 更に、①外来医師偏在指標には病院の外来が含まれていない②医師少数区域等での勤務経験については、断続的な場合も認めるなど柔軟な対応とするべき③外来医師多数区域での新規開業医師に地域で必要な医療機能を担うよう要請する仕組みについては、地域医師会との協議の場を設けて十分に話し合うべき④外来医師多数区域で、地域に必要な医療機能を担わない場合に保険医療機関の指定を取り消したり、開業数の上限を設置することは自由開業の否定となる行き過ぎた規制である⑤大学病院本院が常勤医師や代診医の派遣、医師の卒前卒後教育等、広域な観点が求められる診療を総合的に行うことを、「医育及び広域診療機能」として担うことには賛成である⑥地域で必要な外来医療を提供するため、需要に応じながら、効率的な医療が提供できるよう連携する際には、地域医師会を始めとする関係団体がしっかり関与すべき―ことなどを主張しているとした。
 その上で、「地域の現状は地域の医師会がよく分かっている。医師偏在対策は地域でまず解決を目指し、国はそれを支えるために必要な財政支援や好事例の横展開、研修等を実施することが基本と考えている」と説明。都道府県医師会には引き続き、都道府県行政、大学、基幹病院等との調整役としての役割を求めるとともに、研修医、専攻医に対して、キャリアと希望に配慮しつつ継続した丁寧な関わりや支援を続けていくことが肝要だとした。
 また、医師養成過程を通じた偏在対策だけでなく、中堅・シニア医師が、期間を限定して勤務先を異動する取り組みを推進する必要があることを強調。このためには、派遣される医師ばかりでなく、派遣元の医療機関へもインセンティブを設けるなど、関係者の合意形成や環境整備も必要であるとした。
 今村常任理事は、最後に、医師確保のためには全ての都道府県・郡市区等医師会の協力が必要だとし、それが医師会組織強化にもつながるとして、引き続きの協力を求めた。
 続いて行われた質疑では、医師確保のための規制的手法について意見が交わされたが、その中で松本会長は、「専門教育を受けたい若い医師だけに負担が偏ってはいけないという意見も根強い」とし、医師少数区域等での勤務経験については、断続的に1年従事するなど、専門医資格取得の妨げにならない対応が必要との考えを示した。
 この他、当日は2025年4月から10月にかけて、大阪で行われる「EXPO 2025―大阪・関西万博」の概要について、茂木正経済産業省主席国際博覧会統括調整官より紹介がなされ、来場とともにその周知に関する協力が求められた。
 その後の閉会のあいさつでは、松本会長が建設的な議論に謝辞を述べ、「将来的に医師が過剰になるとの見解は変わっていないが、この1~2年は目の前の医師偏在の問題に力を注ぎたい」として引き続きの支援と協力を求めた。

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