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令和7年(2025年)1月5日(日) / 日医ニュース

「最近の医事紛争事案の現状」をテーマに開催

「最近の医事紛争事案の現状」をテーマに開催

「最近の医事紛争事案の現状」をテーマに開催

 令和6年度都道府県医師会医事紛争担当理事連絡協議会が昨年12月5日、日本医師会館小講堂とWEB会議のハイブリッド形式で開催された。
 担当の濱口欣也常任理事の司会で開会。開会に当たりあいさつを行った松本吉郎会長は、医事紛争への対応や日本医師会医師賠償責任保険制度(以下、日医医賠責保険)は会員の支えになる制度であるとして、その運営に対する尽力に謝辞を述べた上で、最近の医療現場におけるSNSによる誹謗(ひぼう)中傷や暴力行為の被害等、医事紛争事案が複雑化していることに言及。「本制度を更に円滑に機能させ、安心して医療が行える環境を整えることがより求められており、日本医師会としてもそのための対策や支援にしっかり取り組んでいきたい」と述べた。
 あいさつに先立ち、事務局より、(1)日医医賠責保険の運営に関する経過報告、(2)連絡事項(付託書類、ファイル共有サーバー等)―について説明を行った。
 (1)では、令和5年度の新規付託・解決状況等について説明。令和5年度の審査会件数及び有責率が前年度と比較して増加傾向にあることなどを報告した。
 (2)では、まず付託書類について、提出される付託書類の約8割強に不備があるとして、委任状を始め各付託書類の記載時の注意点を説明し、付託案件の精査・審査対応の早期進行に向けて協力を求めた。
 また、ファイル共有サーバーについては、これまでの医事紛争に関する書面によるやり取りに対し、ペーパーレス化の要望を受けて設置することを決めたことなど、これまでの経緯を概説。今後に関しては、一律の導入はせず、まずは移行環境が整った都道府県医師会から新規付託事案を順次移行する考えを説明するとともに、「本サーバーによる業務効率化や情報管理強化等のメリットをぜひ享受して欲しい」として、その活用を呼び掛けた。
 議事では、最近の医事紛争に関連する講演が日本医師会医賠責調査委員会委員3名から行われた。
 向井秀樹東邦大学医療センター大橋病院皮膚科医師は、「鉄剤の血管外漏出による色素沈着」と題して、鉄剤点滴漏れによる色素沈着の事案が増加傾向にあることに触れ、その背景について、鉄欠乏性貧血の治療薬において、鉄分の高用量薬が登場したことにより、その使用頻度が急増する一方で、患者に対するインフォームド・コンセントの欠如などがあると説明。併せて、その治療法等も紹介し、血管漏出の予防策を提案した。
 落合和彦東京都医師会理事は、「生殖補助医療における医事紛争」と題して、生殖補助医療による出生数は年々増加しており、全出生数の約10人に一人に当たる7万件に達し、患者の期待値が高い反面、医事紛争に発展しやすいことを指摘。また、培養胚が乾燥した付託事例を報告するとともに、日医医賠責保険での胚移植に関する見解を説明した上で、日医医賠責保険の対象として対応する方向性を示した。
 更に、生殖補助医療に関する事案を紹介し、最近では患者誤認等の単純ミスが多く、培養士が関与する事案や倫理的な面を含む事案があることにも注意を促した。
 木﨑孝弁護士/日本医師会参与は、「賠償責任論に関する法的整理」と題して、まず日医医賠責保険の審査について、三審制度であることを説明した上で、法律上の損害賠償義務や注意義務違反をどのように判断しているかを解説し、その際には前方視的に検討して判断することを重要視しているとした。
 更に、因果関係の判断については、「適切な医療行為が行われていれば、結果を回避できた高度な蓋然性(がいぜんせい)がある」として有責とする一方で、高度な蓋然性は認められないが、「相当程度の可能性」の存在が証明される際には、慰謝料の支払いを命じられる判例も増えていることを報告した。
 引き続き、富山、鹿児島、埼玉、広島の各県医師会から事前あるいは当日に寄せられた質問・要望事項(日医医賠責保険の対象となる医療行為や指導・改善対象医師への指導要領、弁護士の選任基準に関する質問、特約保険の補償対象医療施設に関する意見、紛争処理における委任の定義・範囲や医事紛争未然防止対策における取り組みとツールに関する要望)に対し、濱口常任理事と事務局から回答を行った。
 最後に、茂松茂人副会長が、「日医医賠責保険制度の安定的な運営の継続が、医事紛争の円滑な解決や紛争防止につながると考えており、引き続き、医療の質の維持・向上に寄与していきたい」と閉会のあいさつを行い、協議会は終了となった。

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