オンライン診療に係る情報共有会が昨年12月21日、令和6年度地域医療・情報通信担当理事連絡協議会を兼ねる形で、日本医師会館とWEB会議のハイブリッド形式で開催された。
冒頭あいさつした松本吉郎会長は、まず、「日本医師会はオンライン診療の重要性を認識し、適切な推進が必要との立場である」と述べた上で、「その推進に当たって何よりも重要なことは安全性の担保である」と強調。かかりつけ医には対面診療と適切に組み合わせ、補完的に使うことが求められるとした。
また、「オンライン診療の更なる普及には、医師の負担の最小化やシステム・通信回線、規則の整備といった環境面の充実に加え、オンライン診療に関する正しい情報を広めることも必要になる」との認識を示す一方、有事・災害時やパンデミックの際には、それらに加えて医療へのアクセスが確保されていることが重要と指摘。オンライン診療が、利便性のみを重視して進められることのないよう、その法令上の位置付けなどについて十分な議論や準備が求められると強調した。
続いて、来賓としてあいさつした自見はな子参議院議員は、特に地方において顕著である人口減少への対応策として、全国に2万4000局ある郵便局のネットワークを活用したオンライン診療の実証事業を進めていることを報告した。
議事(1)国、公益団体からの情報提供
①厚生労働省「オンライン診療の利用手順の手引き書」
間中勝則厚労省医政局総務課オンライン診療推進専門官は、令和6年10月1日時点における情報通信機器を用いた初診料等の届出医療機関数は約1万2500機関であり、依然としてその普及が進んでいるとは言えない現状を踏まえ、遠隔医療の普及活用と適正推進のため、「オンライン診療の利用手順の手引き書」等を作成したことを報告した。
②総務省「遠隔医療モデル参考書」オンライン診療令和5年改訂版
八代将成総務省情報流通行政局地域通信振興課デジタル経済推進室長は、「総務省における医療情報化の取組」として、遠隔医療の普及に係る実証事業を進めていることを報告。今後については、研究成果を踏まえて令和4年6月に策定した「遠隔手術ガイドライン」の改定を予定していることの他、ローカル5Gを用いた長崎県の遠隔医療の取り組みの実例を紹介した。
③へき地におけるオンライン診療について
梶野友樹厚労省医政局総務課長は、へき地医療を補完する方策の一つとして「郵便局におけるオンライン診療」の実施を促進していく上で必要なこととして、補助金の有効活用に加えて、実施医療機関や郵便局、都道府県、医師会等、多岐にわたる調整を挙げた。
神保一徳日本郵便株式会社地方創生推進部長は、全国に2万3512局ある営業中の郵便局の小学校区など、複数の集落が集まる基礎的な生活圏をカバーしているという強みを生かし、オンライン診療の拠点としての活用に向け、実証事業などを推進していることを報告した。
根上昌子ねがみみらいクリニック院長は、過疎化と高齢化が進むへき地においては、郵便局が地域医療のハブとしての役割などを果たすことが、今後ますます期待されていると強調。現在行われている実証実験では、今後の課題やその解決策などが明らかになりつつあるとした。
④能登半島地震におけるオンライン診療の活用の報告
間中専門官は、令和6年1月1日に発生した能登半島地震を受け、国と行政、医師会と薬剤師会、及び通信事業者が協力体制を構築し、1月30日には最初のオンラインによる診療を実現させたことを報告。医療機関と患者双方の満足度が高かったとするとともに、実施により浮かび上がった課題と対応策について情報共有を行った。
佐原博之常任理事は、自身の体験を基に、令和6年能登半島地震において、能登北部以南に避難した患者とかかりつけ医をつなぐために行われたオンライン診療が、かかりつけ医機能の維持に大変有効であったことを報告。国などの行政に対し、今回の経験を生かし、今後の災害の際には更なる迅速な対応を期待するとした。
⑤オンライン診療に関する医療法改正について
梶野総務課長は、オンライン診療はこれまで医事法制上、解釈の運用によって機動的・柔軟にその実施を図ってきたものの、適切なオンライン診療を更に推進していくため、その法制上の位置付けの明確化を現在進めていることを報告。今後は「オンライン診療を行う医療機関」に加えて、「特定オンライン診療受診施設」についても法律上の位置付けを明確化し、都道府県への届出や都道府県による指導監督を要件としながら、適切なオンライン診療の推進に努めていきたいとした。
議事(2)厚生労働科学研究での成果の紹介
原田昌範山口県立総合医療センターへき地医療支援センター長は、県土の約6割がへき地で、高齢化及び過疎化が進んでいる山口県の現状とともに、離島やへき地において地域包括ケアシステムの構築を実現するため、クラウド型電子カルテを導入したことなど、5年間にわたる実証事業の成果などを報告。実体験を交えながら、「D to P with N」に代表されるオンライン診療体制と、対面診療をどう組み合わせるかが今後の課題であると説明した。
議事(3)事例の紹介
西田伸一東京都医師会理事は、コロナ禍の中で開設した東京都医師会のオンライン診療システム(仮想待合室)について報告。PCやスマホでの受診申し込みを可能とし、診察の結果次第でオンライン服薬指導や、保健所に往診や救急要請を依頼する体制を構築し、新型コロナの5類感染症移行後は「臨時オンライン発熱等診療センター」を立ち上げたことなどを紹介した。
また、今後は、高齢化により外出できない患者が増加する見通しを踏まえ、コロナ禍で構築されたシステムをブラッシュアップしていく意向を示した。
議事(4)ディスカッション
指定発言を行った安藤健二郎仙台市医師会長は「D to P with N」の形が最適との認識の下、山間部のような医療へのアクセスが悪い場所でオンライン診療の拡大に努めている実例を交えながら、更なる推進に向けて取り組むべき課題などを示した。
その後のディスカッションでは長島公之常任理事が参加者に対し、①オンライン診療に対し、今後期待・希望すること②その実現のために国、医師会や医療現場等に期待するアクション―について意見を求め、参加者からはさまざまな意見が挙げられ、活発なやり取りが行われた。
最後に、角田徹副会長が総括し、情報共有会は終了となった。
参加者は251名であった。