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令和7年(2025年)4月5日(土) / 日医ニュース

「子育て支援とゼロ歳児からの虐待防止を目指して」をテーマに開催

「子育て支援とゼロ歳児からの虐待防止を目指して」をテーマに開催

「子育て支援とゼロ歳児からの虐待防止を目指して」をテーマに開催

 「子育て支援フォーラムin和歌山」が3月1日、日本医師会、SBI子ども希望財団、和歌山県医師会の共催により、和歌山市内で開催された。
 本フォーラムは子育て支援とゼロ歳児からの虐待防止に向けて、平成23年度より、全ての都道府県での開催を目指して行ってきたもので、通算35回目となる。コロナ禍により久しぶりの開催となった今回は170名の参加者が集まり、社会全体で子どもを虐待から守るべく熱い議論が交わされた。
 当日は、濱田寛子和歌山県医師会理事の司会で開会。冒頭のあいさつで松本吉郎会長(渡辺弘司常任理事代読)は、全国の児童相談所に寄せられる児童虐待に関する相談件数が、統計を取り始めた平成2年度から増加の一途をたどっていることに触れ、「この悲惨な現実から医療者を始め、多くの関係者が協力して子ども達を守っていかなければならない」とし、医療関係者、福祉・行政関係者、地域住民が一堂に会する本フォーラムの意義を強調した。
 続いて、あいさつした平石英三和歌山県医師会長は、「子どもに対する虐待は、いかなる理由があろうとも、決して許されるものではない。全ての子ども達が健やかに育つことが大切であり、虐待を未然に防止し、早期発見、早期対応に取り組むことが重要である」と述べた。
 引き続き行われた基調講演(座長:平石和歌山県医師会長)では、「子ども虐待・チャイルドマルトリートメントに対応するこれからの展望~子どもに焦点を当て、家族を中心にした、地域における予防策~」と題して、柳川敏彦南紀医療福祉センター院長が講演。
 子どもの虐待には、(1)身体的虐待、(2)性的虐待、(3)ネグレクト、(4)心理的虐待―があるが最近では、チャイルドマルトリートメント(避けるべき困った子育て)といった子どもの安全を顧みない、もしくは想定していないケースや、一生懸命育てているものの親の知識不足により子どもの成長に影響が出るケースなど、「管理責任の欠如」も問題となっているとした。
 また、令和2年の改正児童虐待防止法の施行により親権者からの体罰が禁止された一方、民法の懲戒権との齟齬(そご)が生じていたため、令和4年には親権者による懲戒権の規定が削除されたことを説明。子どもの虐待は「子どもの権利の侵害」であることを強調した。
 更に虐待の成因として、①被虐待歴、精神疾患などの親側の要因②愛着形成不全、先天異常など子ども側の要因③夫婦不和、経済的不安定など家族の要因④心理、社会的孤立―を挙げ、「子育ての大変さに共感しながら、その背景にある問題にアプローチしていくべき」と述べるとともに、「Child Protection」を養育者との対立ではなく、"支援を必要とする子どもとその家族"への援助・支援の概念と捉えていくべきであると主張した。
 その後のシンポジウム(座長:木下智弘和歌山県医師会副会長、奥村嘉英同理事)では、まず、「障害児虐待の現状と課題」と題して、愛徳医療福祉センター小児科の下山田洋三氏が講演した。
 障害児については、その養育負担の大きさが虐待の要因となるが、障害児虐待件数や虐待された障害児の年齢、虐待の種類などの調査が行われていないため、最近の実態は不明であるとした上で、平成13年の在宅の障害児虐待の調査では、非障害児の4~10倍の頻度で虐待が起きていたことを報告。児童虐待防止全体の枠組みの中に障害児虐待を位置付けることを求めるとともに、障害の有る無しにかかわらず子育てを親任せにせず、社会全体で子どもを育てる意識を持つことが大事であるとした。
 「支援が生きる児童保護システムの構築に向けて」と題して講演した鈴木玲和歌山県中央児童相談所長は、死亡に至ってしまう虐待事例では、その根底に養育者自身の成育歴上の困難な経験がストレス耐性や認知機能に影響を与えていることも多く、養育者への指導強化だけでは必要な支援が届けられないことを強調。まずは家族の背景を理解することが大切であり、家族の怒りや不安を受け止め、解決努力を労(ねぎら)うことで家族のストーリーを聞くことができると述べた。
 「家庭内子ども虐待の現状・課題と求められる新たな子ども家庭福祉~保護から養育へのパラダイムシフト~」と題して講演した加賀美尤祥社会福祉法人山梨立正光生園理事長は、虐待相談件数が急増している一方、要保護児童数は横ばいであることを問題視。代替養育を必要とする子どもの実数を把握することが、今後の子ども家庭福祉制度設計において不可欠であるとした上で、在宅支援を基本とする新たな社会的養育システムの構築や、虐待の世代間伝達の防止のため乳幼児期の個別的なケア環境(養子縁組・里親等)の充実が求められるとした。
 「レジリエンスを育む保護的・補償的体験~児童心理治療施設における関わりから~」と題して講演した衣斐哲臣児童心理治療施設みらい施設長は、安全・安心を妨げる小児期逆境体験をもっていても、保護的・補償的体験によってレジリエンス(回復力、立ち直っていくプロセス)が育まれることを強調。保護的・補償的体験には、親以外の信頼できる大人の存在や、信頼して一緒に過ごせる友達など「対人関係に関するもの」と、衣食住の充足、学び、生活ルールなど「資源に関するもの」があるとして、その活用を求めた。
 5名のパネリストによる総合討論では、妊娠期からの母親への対応のあり方や、子どもの第3の居場所づくりをどのように進めるかなどについて議論が交わされ、最後に世耕久美子SBI子ども希望財団理事長が「虐待が起きない社会をつくっていきたい」との意気込みを示して、フォーラムは終了となった。

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