令和6年度都道府県医師会「警察活動協力医会」連絡協議会が2月22日、日本医師会館とWEB会議のハイブリッド形式で開催された。
連絡協議会は細川秀一常任理事の司会で開会。
冒頭、ビデオメッセージであいさつした松本吉郎会長は、まず、日頃の「警察医」「警察協力医」の活動に感謝の意を示した上で、昨年度本協議会の名称を正式に「警察活動協力医会」としたことで、取り組みが新たな段階に進んだと説明した。
また、昨年7月に国の「死因究明等推進計画」が策定され、本年2月6日には、海上保安庁と日本医師会、日本歯科医師会、法医学関連の学会等、計6者の間で、大規模災害、海難の際等の検視などに備えた、相互協力の協定(相互協力協定)(別記事参照)を新たに締結したことを紹介。「死因究明の分野とその中核をなす警察医の先生方が、地域住民の暮らしと社会を支えるために果たされている役割は、日増しに重要性を増してきている」と述べ、警察医などの業務も地域医療を面として支える「かかりつけ医機能」の重要な部分であることを強調した。
連絡協議会
(1)報告
報告では、まず、佐藤達彦厚生労働省医政局医事課死因究明等企画調査室室長補佐が、令和2年の「死因究明等推進基本法」施行、令和3年の「死因究明等推進計画」閣議決定から、昨年の同計画見直しに至るまでの流れを概説。年間死亡数の増加や死因究明等に係る人材の不足が課題となる中で、①死因究明等に係る人材の育成、確保方策②死因究明等に係る専門的な機関の全国的な整備方策―等が見直されたとして、引き続きの警察医活動への理解と協力を要請した。
引地信郎警察庁刑事局捜査第一課検視指導室長は、警察の死体取扱業務について、「犯罪死の見逃し防止等に当たっては、医師の協力が不可欠」と強調。令和6年の警察取扱死体数が20万体を超え過去最多となる中、①積極的な薬毒物検査の実施②死亡時画像診断を実施可能な医療機関との協力関係の強化・構築③必要な解剖を確実に実施するための法医学教室等との協力関係強化・構築―が重要になるとした上で、医師会に対し、検視・死体調査の立ち会いや大規模災害への備えに対する協力を求めた。
好本晃雄海上保安庁警備救難部刑事課専門官は、関係団体との相互協力協定の締結に至るまでの経緯を紹介。「本協定により、派遣や協力に当たっての調整・手続き等の迅速化だけでなく、医師、歯科医師との情報共有も充実するのではないか」と述べ、大規模災害等における検視や身元確認が効果的に進むことに期待感を示した。
細川常任理事は、①協力医会の設置状況②検案研修会修了者の情報共有―等について報告。①では、5年ぶりに実施した協力医会等の設置に関する実態調査の速報値から、警察医組織の一体化・一本化が十分にできていない地域が依然として見受けられることを指摘。その詳細や背景について、会内の警察活動協力業務検討委員会で今後検討していく考えを示した。
②では、警察医業務を引き受ける医師を見つけることが困難な地域がある一方で、研修を修了したのに依頼がないという医師の声もあることから、厚労省等と連携しながら、地域で検視立ち会い等が可能な医師に関する情報を共有することができないか検討していることを説明した。
(2)地域医師会の取り組み事例
地域医師会の取り組み事例の紹介では、まず、西野好則岐阜県医師会理事が、「岐阜県版死体検案マニュアル」による検案充実の取り組みについて紹介。今後、診療所医師数の減少に伴い検案医師数も減少することが確実であるため、「検案に習熟した医師数を増加させる必要がある」と指摘した上で、死体検案の経験がないまま開業する医師もいること等を踏まえ、全ての医師が検案できるようにエッセンスをまとめ、現場で使いやすいように工夫した同マニュアルを、医師だけでなく警察とも議論しながら作成し、役立てていることを説明した。
水谷暢秀静岡市静岡医師会副会長・静岡県警察協力医会理事は、大規模災害時における検案体制が確立されておらず、平時の死体検案においても警察協力医が不足していたことから構築した、同医師会における新たな死体検案体制について解説。当直制ではなく輪番体制であることが特徴とした上で、災害時、平時それぞれの検案体制が確立されたことでストレスなく検案できるようになったとともに、協力医師の増員・年齢低下も実現し、今後も持続可能な体制を構築できたとの見方を示した。
(3)都道府県医師会からの質疑応答・意見交換
事前に寄せられた都道府県医師会からの質問には、日本医師会役員及び講師が回答した。
学術大会―基調講演と4題の一般講演
続く学術大会では、近藤稔和日本法医病理学会理事長/和歌山県立医科大学法医学講座教授が、「死体検案の実際と問題点―より良い死因究明体制の樹立を目指して」と題して基調講演を行った。
近藤教授は、警察取扱死体が増えている一方で明らかな犯罪死体は減っており、高齢者の増加、単身者(独居者)の増加、特異例(老老介護、認認介護など)の増加によって、異状死が増えていることを紹介。
その上で死体検案の難しさとして、死体外表の観察のみで判断するために不明な情報も多いことから、医学的(科学的)推定にとどまることを説明した他、同様の別事例の死因見逃し等を防ぐ観点から、死体検案は個人に対してだけでなく社会に対しての責任も伴うことを強調した。
更に、近年死体検案で活用が進むCTを始めとした画像検査について触れ、「役立つものであるが過信はしてはいけない」と述べ、頼りすぎることで死因見逃しが起きないよう留意する必要があるとした。
その後は、一般公募で選ばれた①死体検案における側頭下穿刺による髄液採取法②心筋トロポニンT簡易検査の中止による死因診断の変化とその対策③死後心臓血BNP値測定の意義④死後画像診断研究会開催の試み―の4題の講演が行われ、大会は終了となった。
参加者は、現地とWEB合計で連絡協議会は102名、学術大会が141名。