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令和7年(2025年)6月5日(木) / 日医ニュース

看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告

看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告

看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告

 令和7年度医師会立看護師等養成所会議(都道府県医師会医療関係者担当理事連絡協議会)が5月16日、日本医師会館小講堂とWEB会議のハイブリッド形式で開催され、看護師等養成所における厳しい現状が共有される一方、自治体に地域医療への貢献をアピールしてふるさと納税の寄付先に追加された事例など、新たな取り組みも紹介された。
 会議は江澤和彦常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで松本吉郎会長は、「今、一番苦労されているのは学生の確保だと思う。少子化や大学志向の影響に加え、他産業と比べて十分な処遇改善ができていないことも、大きな要因である」と指摘。命を預かる職務の内容に見合い、医療・介護現場で貢献したいと思う気持ちに応えられるような処遇改善に向け、引き続き政府に財源の確保を求めていくとした。

(1)医師会立看護学校の存亡

 須藤英仁群馬県医師会長/日本医師会医療関係者検討委員会委員長は、群馬県において医師会立看護学校はこの数年で3校減少し、現在6校となっていることを報告。高崎市と前橋市を除く4校は山間部の医療過疎地域にあることから、「山間部の准看護学校が閉校すれば、将来的に看護職員の供給は見通しが立たなくなる」と強調。
 その中の安中市医師会立安中准看護学校は、卒業生が同市看護職の43%を占めるものの、現在は定員24名の充足にも苦労している状況で、同校は安中市医師会から毎年2000万円近く援助を受けているなど、風前の灯火(ともしび)であるとした。
 地域の看護学校存続のためには、オンラインによる同一講義で講師陣の人員削減や看護教員の効率的配置を図りつつ、実習は地元医療機関で行うことが考えられるとし、各地の看護大学や看護学校のサテライトとして活用していくことも提案。看護教育においては、看護の醍醐味(だいごみ)を早く経験することが離職防止につながるとの見解を述べた。

(2)看護学校におけるパワハラ問題について

 水方智子日本看護学校協議会長は、近年の各地の看護学校におけるハラスメント報道について触れた上で、全国看護学生はぐくみネットの調査から、行為者は圧倒的に教員が多く、「単位をあげないよ」「看護師に向いていない」などの発言例を紹介。18歳人口の減少とともに養成所入学のボーダーラインが下がったとして、「看護学校で授業をする中で、ここまで言わないと分かってもらえなくなったかと感じるが、それはハラスメントの理由にはならない。私達教員が変わらないと看護学校の未来は無いと非常に危機感を覚えている」と主張した。
 その上で、教員が上で学生が下、医療者が上で患者が下という前時代的教育観をアップデートするためにも、教員の研修を活用していくことを求め、「看護がどれだけ尊く、素晴らしい仕事かということを学生達に伝えて頂きたい」とした。

(3)医師会立看護師等養成所の事例報告

 泉佐野泉南医師会看護専門学校の野上浩實校長は、平成14年に設立された同校において、延べ720名の卒業生の9割が地元の医療機関に就職していることを説明。いかに地域医療に貢献しているかを行政首長に訴え、泉佐野市のふるさと納税の寄付先に加えてもらったことで一定の収入を得ているとした。
 実習病院については、在宅医療を含め地域の診療所・介護施設などと連携して確保しているとし、ハイテク人形を用いたシミュレーション教育の充実やオンライン実習などを取り入れ、学生に興味を持たせつつ病院側の負担軽減も図っていることを紹介。また、アメリカ研修、五島列島研修など、さまざまな課外授業も取り入れ、魅力ある授業づくりに取り組んでいるとした。
 上野雅子教務主任は、コンセプト・ベースド・ラーニングを導入したことを紹介。領域横断的に学習を組み立てるもので、「例えば、典型的な事例を使って、その看護の思考のプロセスを学習していく。教員が"教える"から学習者が"学ぶ"に軸足を変えた授業スタイルである」と説明。卒業後も自己研鑽(けんさん)できる主体的な学習者の育成を目指しているとした。
 更に、新しいカリキュラムでどのような学生を育てたいかという視点から、教員の行動指針として「Happy/Smile/Humor」が生まれたとし、事務職員も含めた教職員の組織づくりを行ってきたことを紹介。自主運営型組織を目指し、教職員から出されたコミュニケーションや業務、休暇などに関するさまざまなアイデアを採用しているとした。
 この他、地域創成看護の実践として、地域ボランティアを教科外活動として取り入れたことで、ボランティア先の人が学校を応援してくれるなど、地域密着型カリキュラムが奏功している状況を紹介した。

(4)福井県「看護師養成所学生確保重点支援事業」について

 池端幸彦福井県医師会長は、武生医師会が運営する武生看護専門学校が、廃校の危機を回避した経緯を報告。定員40名だが令和元年より欠員となり、令和6年には同校のパワハラ問題の影響もあり、15名と定員を大幅に割り込んだとした。
 それを受けて武生医師会の臨時総会では、安定経営の見込みがなければ募集を停止することが承認されたものの、募集を停止しても在校生が卒業するまで数億円の財源の工面が必要であったと説明。
 一方、県知事や市長・町長を何度も訪問し、看護職が最も少ない丹南医療圏での同校の地域医療への貢献度を訴えるとともに、県立看護専門学校との併合もしくは運営資金の大幅増額と継続的支援を求めた。再度、地元市長と共に知事を訪問し、丹南医療圏の救急搬送が増加している状況なども示しながら、丹南医療圏唯一の養成校である同校が廃校になった場合に想定される看護職不足への対応等を求めるなど厳しい折衝を経て、福井県の「看護師養成所学生確保重点支援事業(新規)」が予算化されたと説明した。同事業は、2年以上連続して定員充足率90%未満の民間立看護師養成所を支援するもので、学生確保につながる環境整備や広報活動の支援の他、従来の運営費に上乗せして人件費や光熱費等を支援する内容となっている。池端会長は「県はかなり危機感を持って対応されたと思う。県医師会としてもしっかり支援をしていきたい」と述べた。

(5)諸問題に関する協議

 協議では、各都道府県医師会から事前に寄せられていた、パワハラ問題への対応、運営、財政支援などに関する質問・意見・要望や、フロアからの質問に対して、江澤常任理事と習田由美子厚生労働省医政局看護課長が回答した。

250605e2.jpg  最後に、釜萢敏副会長がビデオメッセージで、「看護学校の運営は非常に厳しいが、地方にとってその存在は本当に大切であり、無くしてはいけない貴重な資源である」と述べ、日本医師会として現場の意見や要望をしっかり受け止め、国と折衝していく姿勢を示した(写真左)

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