華道では先生を師匠と、生徒を弟子と、また茶道では先生を師匠と、生徒を社中(しゃちゅう)と呼びました。師匠にはいろいろな型がありますが、大きく次の三つの型に分けられるように思われます。
 A.誰もが認める程の実力があり、そして指導の仕方(稽古のつけ方)が上手である、B.実力はそれなりだが、指導の仕方が上手である、C.実力はあるが指導の仕方はイマイチ、の3型です。
 華道での師匠の実力とは、今ある花を用いて、それぞれの約束事に従い空間を意識して、花が持っている本来の美しさを自由に表現して楽しむことができることです。茶道での師匠の実力とは、お点前(てまえ)が上品であることは当然のことで、更に季節を感じる心が豊かであることです。季節の表現はお軸、主菓子(おもがし)、棗(なつめ)、水指(みずさし)、香合(こうごう)、茶花(ちゃばな)などをそろえることにより、季節との調和が美しさを表現できることです。
 まとめると華道も茶道も自然との調和を大事にするという精神です。春夏秋冬という四季の変化を、五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)を働かせて自然との調和を感じ取ることです。
 まさこシェンシェは15歳頃から生け花とお茶に親しみ始め、正式に華道と茶道に入門し修行を重ね、自然との訓和の心を磨きました。30歳代で生け花(華道・池坊(いけのぼう)流)とお茶(茶道・裏千家)の師匠になりました。お弟子さんや社中さんは親しみを込めて師匠を「まさこシェンシェ」と呼んでいました。
 生け花にしてもお茶にしても、まさこシェンシェは特別な教授法(お稽古)をしているわけではなく、生け花のお稽古では季節感には特に気を使い、花の持つ自然の形を生かしました。お茶のお稽古では漫然とお点前をするだけではなく、「形は心である」ので作法をしっかり体得させ、雰囲気による感動を抱かせることに気を配りました。
 まさこシェンシェはお弟子さんや社中さんとはお友達という付き合いで、ベテラン(習熟者)にも新人にも精神的な距離を無くして、いつも「教えることは教わることである」の気持ちで接していたと推察されました。言葉を換えれば、華道でも茶道でも先生と生徒の関係はお互いの気持ちを理解し合うことが基本であると思われました。
 まさこシェンシェのこのような考えに共鳴して、弟子や社中になりたいと多くの人が慕ってきました。その一方でまさこシェンシェは弟子や社中の感性と理解力を見極めて上手に上達させたのです。そのために師匠と弟子や社中との信頼関係は更に密になり、弟子や社中は師匠を一層慕うようになったのです。
 まさこシェンシェは不治の病に侵され、平成27年に86歳で亡くなりましたが、今でも命日にはお弟子さんと社中さんが、教室であり稽古場であった雅庵(みやびあん)に集まり、花を活けてお茶を点てて遣徳を偲(しの)んでいます。





