

第34回日本医師会・日本臨床分科医会代表者会議が10月15日、都内で開催され、日本医師会から今村英仁常任理事が出席し、伊藤隆一日本小児科医会長を始め、出席した各会の代表者らと意見を交わした。
冒頭、あいさつした今村常任理事は、政治情勢が不安定になっている状況に言及。「日本医師会としては、どなたが総理になっても国民皆保険制度を守っていって頂きたい」と強調。「令和7年 診療所の緊急経営調査」の結果にも触れ、「病院のみならず、診療所も大変厳しい状況になっている状況をしっかりと発信し、政治の場において『次の改定まで待っていられない。大至急で何らかの補正予算を設けて対応して欲しい』と繰り返しお願いしている」と説明した。
続いて、12の医会からその取り組みや現状、課題などについて発表がなされた。
日本麻酔科医会連合は、麻酔領域でのAI化の状況を説明。具体的な事例として、血中濃度などで麻酔薬の投与量を調節するシステムや、低血圧を予測するソフトウェアを紹介した。
また、10月から東京都で無痛分娩に係る費用の助成が始まったことにも触れ、都内121施設(9月26日時点)が対象医療機関となっていることを報告。「骨太の方針2025」には「安全で質の高い無痛分娩を選択できる環境整備」が盛り込まれているとし、「東京都に限らず、日本中でこれから無痛分娩が広がるだろう」との見通しを示した。
日本放射線科専門医会・医会は、放射線科(画像診断)における人工知能について発表。現段階のプログラム医療機器は、検出や画像解析といった診断補助が主体であり、質的診断を含め、放射線診断専門医に置き換わるものは存在しないとする一方で、ChatGPTやClaudeなどの一般ソフトは、論文検索、画像診断報告書の文書整理、英文添削、研究デザインの提案などに活用できているとした。
日本臨床皮膚科医会は、初期研修を終えた医師が、専門研修を経ずに直接美容医療に従事する「直美」問題に言及。①若手医師が美容医療に偏ることで、本来必要とされる保険診療分野での医師不足が更に深刻化する②医師としての基礎的な経験や技術が不足している場合、未熟な施術による健康被害が発生する可能性が高まる―といった問題点を指摘した。
その上で、同医会としては、「美容医療の適切な実施に係るガイドライン策定及び公的報告制度の報告項目の適切性確立のための研究」のガイドライン策定班や検討会にも参加し、意見を述べていくとした。
日本臨床泌尿器科医会は、自由診療について、①科学的根拠に乏しい高額医療②美容など快適性を目的とした医療③制度的理由から、自由診療にとどまらざるを得ない医療―に大別できるとし、それぞれの問題点などを指摘。この他、「医療DX推進における構造的課題と俯瞰(ふかん)的制度設計の必要性に関する提言」についても紹介し、医療DXは制度基盤から再設計すべき医療システム全体の構造改革であり、制度・技術・経営を俯瞰した全体設計を確立することが不可欠であることなどを提言しているとした。
日本臨床脳神経外科協会は、人件費や医療機器などの高騰によって、病院が厳しい経営状況に陥る中で、顔認証などを用いた独自の会員制システムを導入するなど、経営課題の解決に取り組む先端的な事例を紹介。
この他、社会的共通資本としての医療のあり方などについても考える必要性にも触れた。
日本臨床内科医会は、釜萢敏参議院議員の同席の上、福岡資麿厚生労働大臣(当時)に対して新型コロナワクチン補助金継続の要望書を提出したことを報告した。
具体的には、①自己負担額の軽減に資する財政措置の継続・拡充②接種券の確実な全戸送付と周知徹底③A類疾病に準ずる恒常的な枠組みの検討―を要望。福岡厚労大臣は感染状況や株の変化があれば、必要に応じて対応を検討し、接種希望者に確実に情報が届く仕組みが重要と指摘した。
また、義務付けは難しいが、自治体への周知はしっかり行いたいとした他、接種者・非接種者の副反応も含め転帰などをデータベース化し、冷静な議論に資する情報提供を強化したいと応じたことにも触れた。
日本精神神経科診療所協会は、チェーンクリニックや大規模クリニックにおいて、非精神科医などが診療を行い、点数を取っている状況など、精神科をめぐる最近の問題を報告。オーバードーズやオンライン精神療法の他、カウンセリングなどの自由診療の課題なども指摘した。
日本臨床整形外科学会は、医薬品メーカーからの要望への対応をテーマに発表した。例えば、製薬企業から不採算品再算定の要望があった場合は、企業から必要な資料を提出してもらった上で、①学会名で要望書(薬価を引き上げるための再算定の要望)を発出する②要望書発出の可否を社会保険委員会で検討して決める③要望書を発出しない―のいずれかの対応を取るとした。
日本臨床耳鼻咽喉科医会は、最近の活動内容として昨年に引き続き、ACジャパンを通じた難聴啓発活動として、難聴に気が付いた時に改善方法(聴力改善術、補聴器、人工内耳)を紹介するキャンペーンを展開しているとした。
また、ヘッドホン・イヤホン難聴が進行すると、老年期を待たず深刻な難聴を来す可能性があることなどにも触れた上で、ヘッドホン・イヤホン難聴の情報発信の他、難聴啓発プロジェクトを進めていることも紹介した。
日本産婦人科医会は、RSウイルスワクチンの妊婦への接種について、接種率が上がらない要因として、①費用が高い②定期接種になっていない―ことを挙げるとともに、その重要性を訴えるため、厚労省への要望や市民公開講座の開催、政令指定都市の議員へのアプローチ、啓発動画の作成などに取り組んでいるとした。
また、HPVワクチンにも言及し、男性の定期接種化に向けた取り組み状況などを報告した。
日本眼科医会は、視野と転倒リスクについて紹介。視野欠損が視力の低下以上に転倒リスクに関連しているとし、眼底検査によるリスクの見える化の重要性を強調。視覚障害の原因疾患である緑内障などは視力検査では発見できないことにも触れ、目の健康対策として眼底検査を推進しているとした。
更に、眼科専門医と眼鏡作製技能士との連携強化に向け、日本眼科医会推奨眼鏡店制度の普及に取り組んでいることなどにも触れた。
日本小児科医会は、現在の課題として、学校医の担い手不足、集団学校健診や保育園の健診、予防接種・乳児健診のDXのあり方などを挙げた。
また、同医会の公式アプリ「育ナビ」を立ち上げたことも紹介し、子育てサポート動画などの機能を利用できるようになっているとした。
この他、当日は複数の医会が昨今のスイッチOTC化の動きに反対の立場を表明し、今村常任理事も同調した。



