諸冨課長
諸冨課長
令和8年度全国医師会産業医部会連絡協議会(主催:日本医師会、日本産業衛生学会、後援:厚生労働省、労働者健康安全機構、産業医科大学、産業医学振興財団、中央労働災害防止協会)が5月22日、「行動する産業医の養成と更なる活躍を目指して」をテーマとして、日本医師会館大講堂にてWEB会議とのハイブリッド形式で開催された。
協議会は松岡かおり常任理事の司会で開会し、松本吉郎会長と武林亨日本産業衛生学会理事長がビデオメッセージであいさつした。
中央情勢報告では諸冨伸夫厚労省安全衛生部労働衛生課長が登壇。産業医の解任時等の所轄監督署長への報告を義務付け、監督署が把握できるようにするための改正省令が本年8月1日に施行されることを報告した。
また、労働安全衛生法の改正によって、労働者数50人未満の事業場に対してもストレスチェックの実施が義務化され、令和10年4月1日に施行されることに言及。小規模事業者が円滑に制度改正に対応できるよう、医師の面接指導の受け皿となる「地域産業保健センター」(地さんぽ)の体制拡充などの支援を講じるとした。
さらに、労働施策総合推進法の改正により、①事業主に対し、職場における治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務を課す②当該措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備する―といった見直しが行われたことを紹介。
この他、令和8年度診療報酬改定で、療養・就労両立支援指導料の対象が「全疾患」に見直されたことなどに言及した。
その後、堀江正知産業医科大学学長を座長としてシンポジウムが行われた。
まず、松岡常任理事が、産業保健委員会が取りまとめた(1)答申、(2)嘱託産業医の心得と契約の手引き―を紹介。(1)について、認定産業医資格を有しながら産業医活動を行っていない医師が全体の半数以上を占めるとした上で、そのような医師が直面する心理的・実務的なハードルである「1社目の壁」の要因として、「事業場を見つけることが困難」「契約交渉への強い苦手意識」「相談相手・ノウハウの不在」などを挙げた。
さらに、産業医のマッチング等支援の動向に触れた他、産業医への支援の好事例として、佐賀、三重、沖縄の各県医師会並びに渋谷区医師会の取り組みを紹介した上で、①『嘱託産業医の心得と契約の手引き』の活用②適正な間接契約の活用③地域における「1社目の壁」を越えるための懇談会の実施推進―の三つの方策を推進する重要性を指摘。「こうした方策を推進することで、産業医の組織化を進め、全国的な産業医活動を更に活性化していただきたい」と訴えた。
(2)では、嘱託産業医の1年間の職務を取り上げ、①職場巡視②衛生委員会・安全衛生委員会の出席③健康診断結果の就業判定④高ストレス者への面接指導⑤長時間労働者への面接指導⑥治療と就業の両立支援⑦労働者からの健康相談―といった職務の手順などを解説した。
相澤好治産業保健委員会委員長は、嘱託産業医の心得について概説。産業医の質向上と、産業医が職務を円滑に行うために実務上留意すべき心得として、産業保健委員会が昨年4月、①働く人の人生に向き合おう②職場環境や働き方を知ろう―など5項目を作成したことを報告した。
①については、働く人の大半は健康上の問題がない場合が多いが、生活習慣に偏りがある人が多いことから、「そのような人が病気にならないようにすることも産業医の使命だ」と指摘。そのためには職場環境や人間関係、性格、考え方、ライフスタイル、家庭環境など、全人的に把握する必要性があるとした。
②に関しては、会社のホームページ等を通じて、会社の歴史や活動内容、業績やトップの考え方を知ることや、組織図や配置図を入手することの他、作業管理・作業環境管理にも適切な助言を行う観点から、職場巡視を行う重要性も指摘。職場巡視のポイントとしては、職場責任者や衛生管理者等と共に巡視した結果を衛生委員会で報告し、事業場全体に適用することなどを挙げた。
圓藤吟史大阪市立大学名誉教授は、嘱託産業医の契約の留意点について解説。
まず、産業医の契約を結ぶ理由として、(1)産業医の職務、(2)産業医の立ち位置、(3)専門的立場―を明確にできるとし、産業医が産業医学の専門的立場から、独立性・中立性をもって効果的な活動を遂行することが重要であるとした。
その上で、今期の産業保健委員会で改訂を行った「嘱託産業医業務委託契約書(参考例)」の内容と留意点の説明を行った。
産業医の職務内容については、基本的職務として①健康診断の結果に基づき、就業上の措置に関する意見を述べる②職業性疾病を疑う事例の原因調査と再発防止への関与や助言、指導をする―など7項目を挙げた。
②では、「臨床医が長時間の過重労働の判断はしかねるため、産業医が臨床医からの情報と職場での勤務状況を照らし合わせて、職業性疾患であるかを疑い、関与していただきたい」と説明した。
職務内容のうち、個別対応を要するものとして、「長時間労働者に対し面接指導を行い、就業上の措置に関する意見を述べる」など5項目を挙げた上で、「これらの職務も産業医が行うことが最も望ましいものだが、個別に相応の時間を要するため、時間や件数等に応じた報酬が担保されるような契約にする必要がある」と述べた。
続いて、森永幸二佐賀県医師会副会長が「産業医が『1社目の壁』を超えるために」と題して講演。「佐賀県における産業医活動現況調査」の結果に触れ、産業医未経験者に対して、「産業医として活動していない理由」を調べたところ、「多忙」が35%、「契約方法が不明」が30%、「活動への不安」「必要を感じない」がそれぞれ9%、「その他」が17%であったことを紹介。
また、令和7年から「産業医未経験者を集めた会」を発足したことにも言及。未経験者が参加しやすい場を提供することを第一として、経験者が研修単位の取得目的で参加できないように、産業医の研修単位を付与しない懇談会を開催しているとし、「リラックスできるように食事をしながら、1時間から1・5時間程度を目安に、産業医としての心得や職務などの説明を行い、ベテラン産業医や最近壁を越えた産業医に講演いただいた」と振り返った。
さらに、1社目の壁を越えるステップとしては、①情報提供②産業医活動を始めやすくするための環境整備―を挙げた。
②について、佐賀県では企業から産業医部会へ産業医の依頼があった場合、郡市医師会を通して、マッチング支援を行っていることなどに触れた上で、「産業医部会が中心となって、産業医部会の場とつながりにより、マッチングを行うことが理想的ではないか」と述べた。
その後の協議では、事前に寄せられた都道府県医師会や郡市区医師会からの質問に対する回答が行われた。
閉会では、茂松茂人副会長のあいさつに続いて、急きょ会場に駆け付けた松本会長もあいさつを行い、本連絡協議会について、自身が産業保健の担当常任理事だった頃に立ち上げたことに触れ、「『いかに産業医活動の魅力を伝えられるか』『産業医活動に資するような、実践的なスキルアップを図る』といったコンセプトを連絡協議会でどう発信するかに尽力した」と振り返った上で、この姿勢は今も変わっていないと強調。「今後もこの連絡協議会をしっかりと続けて、皆様に少しでも役立つものにしていきたい」と述べた。



