10年目のカルテ

自分の腕も大事だが共に学び、相談しあえるネットワークが重要。

【循環器内科】川崎 大輔医師(取材時:国立病院機構指宿病院 循環器科)ー(前編)

循環器科を選んだ経緯

10年目のカルテ

――早速ですが、今の専門(循環器科)を選んだのはなぜですか?

川崎(以下、川):僕は最初から循環器に決めていたわけではなくて、消化器か循環器のどちらかだろうな…くらいに漠然と考えていたんです。だから、消化器と循環器のどちらも揃っている第二内科(当時)の医局に入りました。そこで、内科全般を経験してから、4年目に鹿児島医療センターに行ったんです。以前は九州循環器病センターと呼ばれていた循環器の専門病院で、心臓カテーテルも年間数百件は行っています。心カテでは、心筋梗塞で心臓が止まりかけている人の生命をダイレクトに助けることができるんですよね。これはすごいと思い、専門にしようと決めました。

ちなみに、いろいろ見てから専門を決めたのはよかったのですが、専門医を取るにはその分野の学会に入ってから一定の経験が必要なので、僕は今やっと専門医を取れるんです。学会に入るのが遅れると専門医を取るのも遅くなるので、早くバリバリやりたい人は早めに学会に入った方がよいでしょう。

10年目のカルテ

これ以外に、月に1~2回の病院当直、月に2回程度の循環器当直。
※鹿児島医療センター時代の1週間のスケジュールを紹介しています。


10年目のカルテ

自分の腕も大事だが共に学び、相談しあえるネットワークが重要。

【循環器内科】川崎 大輔医師(取材時:国立病院機構指宿病院 循環器科)ー(後編)

10年間の軌跡

――循環器を専門に決めてからのことを教えて下さい。

川:鹿児島医療センターでは、カテーテル治療が中心でした。週に2~3件は関わるので、年間で150例くらい。最初の半年は助手としてつくだけですが、だんだんと自分が主治医の場合はオペレーターもやらせてもらえるようになります。この病院は指導医も専門医も充実していたので、メインでやる時も上の先生が見ていて、いろいろと指導されるんです。厳しいけれど、ここで循環器やカテーテルの基礎が身につきました。

――その後、7年目には奄美大島の病院に異動していますね。

川:うちの循環器チームは、鹿児島医療センターで修行してある程度の力がつくと、地域の関連病院に出して実践経験を積ませるんです。県立大島病院では、病棟を事実上2人で診ていたので、基本的には自分の責任で診療していました。外来にも出るし、技師がいないのでエコーも自分でやり、心臓カテーテルもやりました。

――地方の病院だと、一人でやることが多くて、プレッシャーも強くなかったですか?

川:最初に地方の病院に出た2~3年目の時は、当直の時も心細くて上にすぐ相談していましたね。地方だと、3年目でも「朝まで救急は任せた」というノリですが、上も心配しているから夜中に電話で相談してもちゃんと対応してくれます。ちょっと機嫌悪そうだったりはしますけどね(笑)。

けれど大島に行く頃には、医療センターで鍛えられたおかげで一人で大体できるだろうという自信がついていました。

――今の勤務先(指宿病院)での仕事について教えて下さい。

川:ここは指宿地区の中核病院で、周辺で急性期を扱えるところはうちしかありません。循環器科としては、エコーやペースメーカーはやっているんですが、カテーテルに関しては機器がないので鹿児島市内の病院に送るしかないですね。(今年度にはカテーテル機器を導入予定とのこと)

ですから、今は内科全般の医療に携わっているという感じです。この地域は高齢者も多く、患者さんも平均して80歳くらい。メインの疾患以外にも合併症や他の病気も持っている人が多く、肺炎をこじらせて来る人もいます。専門外であっても、この地域にはうちしか頼れる病院がない以上、合併症・感染症・救急処置まで僕たちが診ないといけないんです。

――循環器の医師として、その状況をどう思っていますか?

川:もともとジェネラル志向はあったし、ここでの働き方にやりがいは感じています。もちろん、もっと循環器らしい仕事もしたいですが、次の勤務先は循環器の専門病院で、カテーテル治療も多く手がけられます。それに今も週に1日は鹿児島医療センターでの勤務があり、カテーテル治療の最前線にも触れているので安心です。ずっと離れていると忘れてしまいますからね。

医局に所属するメリット

――先生のように医局に所属していると、上の指示で数年ごとに異動することになります。医局に所属していて、どう感じますか?

川:僕は医局にはメリットも多いと感じています。最初に話したように、一つの医局の中にいろんな臓器の専門家がいるので、育てられる過程で様々な科の先生と関わります。専門ごとにチームが分かれてはいますが、医局全体が一体感を持っているので、他科の先生でも気軽に聞くことができます。

医者は「自分の腕」ももちろん大事ですが、実際にやってみて感じるのは「ネットワークが大事」ということ。先輩や他科の専門家に相談しながらでないとやれないことがたくさんある。だから医局のような、ある程度の繋がりの中で育った方が、結果的に患者さんにとっての「良い医者」になれるのではないかと僕は思います。

それこそ、鹿児島県内の病院なら「お前に内科を任せる」と言われてもなんとかやれる気がしますが、ネットワークのない他県では無理です。やっぱり10年目とはいえ、指導してもらえる、相談できるという体制の中にいるから、安心して仕事ができるんです。


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