選択肢に関する情報

診療の際に、頭に浮かんだ複数の選択肢。どれか1つを選ぶために、どんな情報がほしいでしょうか?

ここまで、医師の仕事の大部分は「患者さんと共に意思決定を行うこと」と言えるとお伝えしてきました。そして、より良い意思決定を行うためには「選択肢に関する情報」と「患者に関する情報」の2つが必要だとわかりました。

さて、このページでは、「選択肢に関する情報」とはどのようなものなのか、考えてみたいと思います。ここでは、医師が得ることのできる「選択肢に関する情報」を、さらに3つに分けて整理します。

教科書的な知識

まず、医師にとって最も根本的で、基盤となる情報を「教科書的な知識」と呼びましょう。これは、言い換えれば基礎的な医学知識のことです。

医学生のみなさんは、普段から教科書に沿って、人体の構造や病態生理、各疾患の概念や治療法などを学んでいると思います。医師になったら、まずはそのような基礎的な医学知識に基づいて意思決定をしていくことになります。知識がなければ、患者さんを診ても、どこに注目すればいいのかわからず、何が問題なのかを判断できません。だからこそ、医学生のうちから「教科書的な知識」をしっかり身につけることが非常に重要なのです。

はじめは「教科書的な知識」に頼らざるを得ない医師ですが、臨床経験を積むうちに、活用できる情報が増えていきます。これを「自分の経験知」と名付けましょう。

自分の経験知

「自分の経験知」とは、医師が自分で直接経験したことから得られる知識のことです。例えば、「この症例では、今まで何度もこの治療法が功を奏してきた」などの、自分で練り上げた持論や、「この症例を多く経験している医師が、この方法がいいのではないかと勧めてくれた」といった先輩医師からの助言などが、「自分の経験知」に当たります。これらも、診療のうえで選択肢を探り出し、どの選択肢をとるのがいいか意思決定するための材料になります。

さて、「自分の経験知」は確かに重要ですが、医師がそれだけに頼って診療を行っていたらどうなるでしょうか。一人の医師が経験できる症例には限りがありますから、自身の経験に偏りがあるかもしれないということを考慮に入れなければ、とるべき選択肢を見誤ってしまう可能性もあるでしょう。では、「自分の経験知」を補完する情報は、いったいどこから得られるのでしょうか。そこで重要な役割を果たすのが、「外的な根拠」です。

外的な根拠

「外的な根拠」とは、自分の直接経験以外から得られる情報、すなわち様々な臨床研究の成果である論文や、それらの成果をもとに構成された診療ガイドラインなどを指します。数多くの医師の経験の集大成を参照することで、「自分の経験知」だけに頼るより、遥かに確からしい意思決定を行うことができます。また、「外的な根拠」を活用すれば、経験の乏しい若手の医師であっても、より妥当な意思決定に近づくことができるでしょう。

このように、医師は、「教科書的な知識」を基盤とし、「自分の経験知」と「外的な根拠」を照らし合わせながら、患者さんにとって最良の意思決定とは何なのか、常にとことんまで考える必要があるのです。