新プログラムによる新たな専門医の仕組みについては、当初予定していた平成29年4月からの開始が1年延期され、平成30年度を目途として、19基本診療領域の全学会が一斉に開始するという方針が日本専門医機構(以下、専門医機構)から示された。 そこで、今号では、専門医機構の副理事長でもある松原謙二副会長に、これまでの経緯や今後の課題等について説明してもらった。 |
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Qまずは、これまでの経緯を教えて下さい
A新たな専門医の仕組みについては、厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」が取りまとめた報告書(平成25年4月)に基づき、専門医機構において、その準備が進められてきました。
この問題は、元々、医師のプロフェッショナルオートノミーをもって、専門医の仕組みを改革し、国民に更なる安心を約束するための取り組みのはずでした。
しかし、制度設計の概要が公になって以来、医療現場や地方自治体等から、指導医を含む医師及び研修医が、都市部の大学病院など大規模な急性期医療機関に集中し、医師の地域偏在が更に拡大するという懸念が相次ぎ、このままでは地域医療の現場に大きな混乱をもたらすのではないかと危惧する声が強まっていました。
これらの声を受けて、横倉義武会長は2月17日に記者会見を行い、「新たな専門医の仕組みについては導入時期を平成29年から延期することも視野に入れ、まずは地域の連携の状況を把握し、地域における研修体制の整備を優先し、地域医療への影響を極力少なくした上で専門医研修を始めること」を求めました。
その後は、あるべき地域医療提供体制と専門医機構が提案している仕組みとの間に齟齬(そご)が生じているのではないかなど、本源的な指摘も相次いで寄せられるようになりました。
各地域の不安の声もますます大きくなってきたことから、6月7日には、横倉会長が四病院団体協議会の各団体の会長らと共に合同緊急記者会見を行い、「ここは一度立ち止まり、広く関係者の意見を聞き、地域医療を崩壊させることがないよう十分配慮した上で、専門医研修を始めるべき」との考えを示しました。
これは、「拙速(せっそく)さがもたらす混乱により、国民に迷惑を掛けるようなことは断じてあってはならない。なぜなら、医療は国民のものであるからである」という強い思いがあったからです。
その後、専門医機構の役員の任期満了に伴う理事の改選が行われ、私も副理事長に選任されたわけですが、今回の方針は、専門医機構の新執行部体制の下で検討を行い、決定したものです。
「一度立ち止まり、広く関係者の意見を聞いた上で、地域医療を崩壊させることがないように、十分に配慮した専門医研修を始めるべき」との日医の主張が受け入れられたという意味では、一定の評価をしたいと考えています。
Q決定に当たっては、どのような手続きがとられたのですか
A専門医機構の中で、まずは19の基本診療領域の学会の理事長などにもご参加頂いて、地域医療への影響などについて意見をお聞きしました。
その上で、公衆衛生の専門家も加えて議論すべきとの意見が取り入れられ、尾身茂独立行政法人地域医療機能推進機構理事長にご参加頂くことになった専門医機構内の「専門医研修プログラムと地域医療にかかわる新たな検討委員会」において議論を行い、理事会の承認を経た後に、7月27日に開催した社員総会において最終的な了承を得ました。
Q来年度はどのような対応がとられるのですか
A研修医等に混乱が生じることがないようにすることが最重要課題と考えています。
そのため、専門医機構から各学会に対して、「プログラムについては、可能な限り、既存のプログラムを用いること」「新プログラム制に既に移行している学会には、暫定的なプログラムでの対応も認める。その場合には、基幹施設と連携施設の関係を再検討する他、指導医の資格を緩やかにする等、従来から専門医研修を実施していた施設が引き続き専門医研修を行うことができるような工夫をする」「地域医療を混乱させることがないように、専攻医の募集定員を昨年度実績の1・2倍に抑えるなど、都市部に専門医が集中することがないような配慮を行うこと」等を求めることにしています。
また、総合診療領域に関しては、専門医機構で制度設計を行っていますが、来年度からの実施は控え、研修医の混乱を回避するための暫定的な措置について、早急に検討を行うことになっています。
Q今後の課題等について教えて下さい
A課題としては、①各診療領域では地域医療への一定の配慮がなされていたが、一部の領域では問題が散見されていた②指導医の要件が厳しく設定されていたため、連携施設の要件を満たせない施設が相当数ある③多くの学会の定員数が実際の研修医の2~3倍程度となっており、大都市集中が懸念される④仕組みとしてサブスペシャリティ領域との協議が十分にできていなかった⑤総合診療専門医に関しての議論が十分でない⑥研修医の不安が募っている―こと等が挙げられます。
新たな専門医の仕組みの開始が基本的に1年先延ばしになったとはいえ、このように問題は山積しており、大都市への集中を回避するための是正策、指導医の基準の緩和策や、内科・外科のサブスペシャリティ領域の検討等を早期に議論していくことが必要です。
また、各地域において、各科ごとにどれくらいの専門医を必要としているのかを早急に把握し、その結果を基に、それぞれの地域において行政、医師会、大学、病院団体等の関係者が十分に協議することも必要だと考えています。
その他、総合診療専門医に関する問題ですが、その運用はどこが担うのかということも議論していきます。その際には、総合診療専門医はあくまでも学問的な面から評価したもので、今後も地域医療を守るのは、かかりつけ医であるとの考えを改めて強く主張していきたいと思います。
更に、専門医機構に関してですが、私が副理事長に、羽鳥裕常任理事が理事に、また、監事には引き続き今村聡副会長が就いたことで、日医の関与がこれまでより強まることになりました。
専門医機構のガバナンスを問題視する声も多く聞かれましたので、内部からもその改革を進めていくとともに、地域医療への影響を避けつつ、新たな専門医の仕組みを適切に運営していくためには、専門医機構が安定した運営を行っていくことが不可欠ですので、要請があった場合には、資金面等での支援もしていきたいと考えています。
Q最後に会員の先生方に一言
A新たな専門医の仕組みに関しましては、多くの会員の先生方にご心配をお掛けしましたが、ようやく一定の方向性を示すことができました。
医療は国民のためにあるものであり、国民の不利益とならないようにすることが大前提です。まずは、医療提供体制に急激な影響が及ばないよう、都道府県の協議会の了解を得ながら慎重に対応していきたいと思います。
また、専門医の更新に当たっては、地域医療で活躍している医師の更新に過度な負担を掛けないようにすることも大切であると考えています。
これらのことを前提として、今後も議論に臨んでいく所存ですので、会員の先生方には引き続きのご支援・ご協力をお願いいたします。
今回のインタビューのポイント |
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