平成29年(2017年)2月20日(月) / 日医ニュース / 解説コーナー
今村副会長に聞く かかりつけ医による効果的な診療を推進しエビデンスの構築を目指す
「かかりつけ医のための診療所糖尿病データベース研究事業(J-DOME)」をパイロット的にスタート
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今号では今村聡副会長に、日医がパイロット的に取り組みを開始した「かかりつけ医のための診療所糖尿病データベース研究事業(以下J-DOME(ジェイドーム))」について、事業を開始した背景やその仕組み、今後の展望などを説明してもらった。 |
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Q J-DOMEの開始の背景は?
A 日医では、かかりつけ医機能の強化を重要課題ととらえ、昨年より「日医かかりつけ医機能研修制度」を開始し、多くの会員の先生方にご参加頂いています。
本研修カリキュラムの柱の一つが、糖尿病を含む生活習慣病ですが、実際、わが国の糖尿病の患者数は316万人に上っています。糖尿病は、さまざまな合併症を併発し、国民の健康に多大な悪影響を与えることは言うまでもありません。国も糖尿病重症化予防を重要課題の一つとしており、日医では、昨年、厚生労働省、日本糖尿病対策推進会議と重症化予防の横展開に向けた三者協定「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」を締結しました。
そして、臨床現場では、特に、診療所を受診する糖尿病外来患者の増加が顕著です。外来受診する糖尿病患者のうち、診療所を受診する患者さんは65・1%を占め、その割合は増加傾向にあり(図1)、診療所における糖尿病外来診療が一層重要になってきています。
糖尿病の非専門医も含めたかかりつけ医による診断・治療を、医師会として多面的に支援する上で、自身の診療を客観的に把握することができるデータを収集することが必要と考え、本研究事業(J-DOME:Japan Medical Association Diabetes database Of clinical MEdicine)をパイロット的に開始しました。
日本糖尿病学会でも、糖尿病患者の病態を全国的に把握するためのデータが不足していたため、大学病院などの糖尿病専門医を対象とした糖尿病症例収集が大規模に開始されています(図2)。しかしながら、患者さんが最初に診療を受ける診療所での全国的な糖尿病症例収集は行われておらず、課題となっていました。
かかりつけ医の診療データが不足しているわが国で、データ収集を行い、非専門医を含むかかりつけ医の糖尿病診療の向上に寄与できることを期待しています。
Q 症例収集の目的と全体の流れは?
A J-DOMEの目的は、糖尿病非専門医を含む「かかりつけ医」による、より効果的な糖尿病診療を推進することです。ご登録頂いた症例から実態把握を行い、糖尿病の診断・治療をサポートできる仕組みやデータをつくりたいと思います。そして、解析結果をフィードバックし、観察研究を実施して参ります(図3)。「初期段階の患者さんにそれぞれどういう治療を行うのが最適か」を明らかにして、糖尿病患者のQOLの向上と人工透析を含む合併症の予防を目指します。
それではJ-DOMEの症例収集の手法について、説明したいと思います(図4)。
J-DOMEの対象は、診療所で2型糖尿病と診断された患者さんであり、以前から通院されている患者さんも初診の患者さんも対象として、症例登録をお願いしています。
実施期間ですが、今のところパイロット研究として、平成30年度までの2年間を予定しており、医療機関には収集ソフトを日医から無償で提供する予定です。
患者情報の登録は、患者さんの受診時に口頭で同意を得て頂き、基本情報の一部を登録して頂くことになりますが、スタッフの方が入力を行う医療機関に向けては、患者さん用の問診票も用意しています。
入力された情報はその後、完全に匿名化及び暗号化された上で、セキュリティの高いデータベースに送信され、蓄積されることになります。
入力項目を表1に示しました。収集項目は、体重などの基本情報、合併症などの情報、処方内容、検査値ですが、処方内容と検査値の入力は不要で、自動的に取り込まれます。更新に関しては、初回の入力から、基本的に6カ月後(可能な場合は2~3カ月後)の受診時に行うことになります。
J-DOMEでは昨年、日医倫理審査委員会の承認を得て登録を開始し、現在、首都圏、広島県を中心に数百の症例をご登録頂いています。現時点で収集ソフトが稼働する環境は、レセコン、電子カルテ、診療支援ソフトそれぞれ1種類〔日医標準レセプトソフト(ORCA):〔日本医師会ORCA管理機構(株)〕、MEDICOM:〔パナソニック(株)〕、RS_Base:〔(株)メディカルイン〕〕に限られていますが、今後はソフトに関係なくご入力頂ける基盤を用意する予定です。
また、より簡易で包括的なデータ収集に向けて、臨床研究等ICT基盤構築研究事業(日本医療研究開発機構より日医が受託)と互換性を高めながら協調していきたいと考えています。
Q 今後の予定は?
A 収集し匿名化したデータは、診療所における糖尿病患者の病態や合併症の実態把握に使用するだけでなく、個別にフィードバックを希望される施設に対し、患者さんの病態、処方内容、検査値について、他の地域との比較分析を提供していく予定です。
現在、検討している研究には、次のようなものがあります。
まず、治療方法の有効性の検証の前向き研究です。糖尿病合併症、脳卒中、認知症の有無の実態把握を行い、治療内容(例えば、食事指導、運動療法、処方薬)が、その後の患者アウトカムに与える影響を観察研究により検証します。
特に、年齢、病態で患者さんを層別化した解析により、処方薬(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬等)、食事指導等の介入が1年後の検査値(HbA1c、eGFR)に及ぼす影響を把握します。
次に、介入による患者アウトカムの検証も行います。
具体的には、現在、専門医と非専門医の先生方に開発頂いている「かかりつけ医向けの診療アルゴリズム」の利用の有無が、患者さんのアウトカムに及ぼす影響を検証したいと思います。
Q 最後に会員の先生方に一言
A ご参加頂くことのメリットとしては、自院と他医療機関、地域間の診療の実態を把握できること、糖尿病対策への取り組みを地域の医療機関に示し、病院などとの地域連携強化が期待できることだと思います。開発中の診療アルゴリズム等、糖尿病診療に役立つツールもご利用頂きたいと思います。
また、それに加えて、今後は、日医生涯教育の単位付与を検討すると同時に、将来的には診療報酬面にもつなげていきたいと思います。データを提供することが、経営上のメリットにつながることも重要と捉えています。
地域では、さまざまな形で糖尿病対策や研究が進められていますが、可能な範囲で連携や協業を行うことによって、わが国全体の糖尿病データの収集と分析が効率的になり、より効果的な診療を推進できると確信しています。今後は、地域医療の充実に資する研究事業となるよう、地域の医師会、糖尿病対策推進会議、医療機関、行政、研究会や研究者グループなど関係者の方々との連携についてもご相談をさせて頂きたいと思います。
繰り返しになりますが、本パイロット研究は、かかりつけ医による効果的な診療を推進するため、エビデンスを構築していく取り組みの最初の一歩です。現場の先生方のご理解を得た上で、今後は地域の医師会や学会等での説明会を実施し、ご協力をお願いしていく予定です。会員の先生方におかれましては、引き続きJ-DOMEに対するご理解をよろしくお願いします。
なお、J-DOMEに関する詳細は、公式ホームページ(http://jdome.jmari.med.or.jp/)をご覧頂くか、日医総研J-DOME担当係(TEL:03-3942-7215(代) FAX:03-3946-2138 E-mail:jdome@jmari.med.or.jp)にご連絡頂ければと思います。
今回のインタビューのポイント |
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