日医定例記者会見 2月20・27日
今村聡副会長は、都内の病院で勤務していた乳腺外科医師に対して、2月20日に東京地方裁判所から無罪判決が言い渡されたこと(※東京地検は判決を不服として後日に控訴)を受けて、同日に記者会見を行い、日医の見解を明らかにした。
本件は、全身麻酔による乳腺腫瘍の摘出手術を担当した40歳代の乳腺外科医師が、手術が終了した30分後に、女性患者の乳頭を舐めた容疑で、平成28年8月に逮捕・勾留され、東京地方裁判所に起訴されたというものである。
弁護側が、科学捜査研究所によるDNA鑑定はずさんで証拠能力に乏しく、女性は術後せん妄の状態にあり、幻覚を見ていたとして無罪を主張したのに対して、検察側は主治医としての信頼を逆手に患者の身体を欲望の赴くままに弄(もてあそ)び、反省が見られず、再犯の可能性があるとして懲役3年を求刑していた。
当日の会見で同副会長は、まず、(1)医師による診療を騙(かた)ったわいせつ行為で有罪判決を受けたケースでは、患者に対するわいせつ行為を何度も繰り返していたり、診療と全く関係なく性的な接触を持ったり、写真撮影しているケースが多く、外来診療中のケースがほとんどであること、(2)無罪判決を言い渡された乳腺外科医師は、事件前には週に222~280人の患者を診察し、これまで、約500例の手術を担当し、患者からのクレームは一切なかったこと、(3)プロポフォールの使用量が多く、体内に残存していたこと―等を説明。
その上で、「本件を機に、術後のせん妄は、臨床上広く見られる症状で、これに伴う幻聴・幻覚はしばしば現実の感覚を伴うことを理解して欲しい」と述べるとともに、医療従事者に対しては、事前にせん妄があり得ることを説明するだけでなく、もし、せん妄が見られた場合には、その症例に適したケアをとってもらうことを要請。「術後せん妄であるにもかかわらず、再現性の乏しい科学鑑定によって、患者と医療者の信頼関係が崩れたとすれば、双方にとって極めて不幸な出来事であり、早期に収束することを願っている」として、今回の東京地裁の判決を強く支持する意見を述べた。
また、同副会長は、平成20年以降で医師による診療を騙ったわいせつ行為について有罪判決を受けたケースは、日医が把握する限り8件あることにも言及し、「こういった犯罪行為は、国民の医療に対する信頼を著しく損ねるもので、絶対にあってはならない」とするとともに、日医としても関係機関と密に連携を取り、厳正に対応していくとした。