令和2年度第1回都道府県医師会長会議が9月15日、テレビ会議システムを利用して開催され、「新型コロナウイルス感染症の検査体制」「新型コロナウイルス感染症対応による医療提供体制の影響」をテーマとして、活発な討議が行われた。 |
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本会議はこれまで、事前に都道府県医師会より寄せられた議題について、執行部が答弁を行う形式で開催されてきた「都道府県医師会長協議会」を、中川俊男会長の発案により、都道府県医師会長から積極的な政策提言を求める機会となるよう改変し、その名称も変更して行われたものである(別記事参照)。
会議は松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした中川会長は、今回、開催形式の見直しを行った趣旨を説明した上で、今後の課題として、①新型コロナウイルス感染症の影響による医療機関の経営状況の悪化への対応②季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症との臨床的鑑別が難しい中で、次のインフルエンザ流行に備えた体制整備―の2点があると強調。「これらの課題について、引き続き厚生労働省など関係各所と協議の上、迅速に対応していきたい」と述べるとともに、本日の会議での提言等を参考として、地域の実情に即した取り組みを推進していく姿勢を示した。
その後、都道府県医師会を四つのグループ(A~D)に分けたうちの、今回はAグループ(北海道、秋田県、埼玉県、東京都、富山県、長野県、滋賀県、奈良県、岡山県、香川県、佐賀県、宮崎県)、Bグループ(青森県、山形県、群馬県、神奈川県、福井県、静岡県、京都府、和歌山県、広島県、愛媛県、長崎県、鹿児島県)による討議並びに全体討議が行われた。
Aグループ 「新型コロナウイルス感染症の検査体制」
Aグループでは尾﨑治夫東京都医師会長が議長、久米川啓香川県医師会長が副議長をそれぞれ務め、「新型コロナウイルス感染症の検査体制」をテーマとした議論が行われた。
長野県医師会からはPCR検査について、(1)民間検査の拡充とともに、(2)保健所が行う「行政検査」、県と委託契約し保険診療で検査を行ういわゆる「みなし行政検査」と「保険診療」が混同され、現場が混乱しているとして、その改善が求められた。
釜萢敏常任理事は(1)について、「拡充できるようしっかり国に訴えていく」と回答。(2)に関しては、「基本的には医療機関で行う検査は全て行政検査であると整理されている」と説明。中川会長は日本医師会が厚労省と交渉を重ねた結果、9月9日付で厚労省から事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査の委託契約について(再周知)」が発出されたことを紹介。「このことにより、委託契約の締結はしやすくなった」として理解を求めるとともに、日本医師会としてもその仕組みを分かりやすく説明した文書を再度、都道府県医師会宛てに発出する意向を示した。
PCR等検査を担う医療機関名を公表するか否かの問題については、釜萢常任理事が「公表することによって、医療機関に風評被害等、大きな負担が生じる恐れもあることから、一律に公表すべきではないというのが日本医師会の考え」と説明した。
福井県医師会からのPCR等検査を行う医療機関への補償を求める要望に対しては、中川会長が何らかの補償が受けられるよう厚労省と協議中であることを報告。「医療機関名を公表することが補償の要件になることはない」とした。
更に、今村聡副会長は医療従事者が補償が受けられるよう、支援制度の創設に向けて引き続き厚労省等と協議を行っていく考えを示した。
その他の医師会からは、「年末年始の検査体制に関する方針の策定」(石川県医師会)、「抗原・定性検査の安全性に関する情報提供」(宮城県医師会)、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER―SYS)の入力方法の見直し」(香川県医師会)等を求める要望も出された。
最後にコメントした釜萢常任理事は、9月4日付で厚労省から発出された事務連絡「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」に触れ、「保健所が役割を果たしていないとの批判があるが、検査で陽性となった場合の対応方法等は保健所が考えることになっている」と説明。また、唾液を使ってインフルエンザと新型コロナウイルスを同時に検査することに関しては、今シーズンの導入は難しいとの見通しを示した。
Bグループ 「新型コロナウイルス感染症対応による医療提供体制への影響」
Bグループでは池田琢哉鹿児島県医師会長が議長、松井道宣京都府医師会長が副議長をそれぞれ務め、「新型コロナウイルス感染症対応による医療提供体制への影響」をテーマとして、主に(1)新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ体制の構築、(2)医療機関経営への影響―について議論が行われた。
(1)では、長崎県医師会が軽症者や無症状者への対応方針について質問。釜萢常任理事は、入院は中等症以上の患者とするのが現時点での国の方針であると説明した。
群馬県医師会が認知症患者や高齢者が医療機関や施設内で新型コロナウイルスに感染した場合の対応について質問したのに対して、鹿児島県医師会が国立病院の協力を得たこと、長崎県医師会が定員50名以上の施設に対して感染予防の指導を行うとともに、事前の予防策としてPCR等検査を積極的に実施していることなどをそれぞれ紹介した。
(2)では、京都府医師会が府内の全医療機関を対象として7月に行ったアンケート調査の結果を基に、厳しい経営状況にある医療機関の窮状を報告。今後は医療機能に応じた役割分担、医療現場に対して安心感を与えることが必要だと訴えた。
神奈川県医師会は、国の緊急包括支援交付金の対象が4月からとなっており、2月、3月分が外れていることを問題視。猪口雄二副会長は、対象となるよう国に対して働き掛けを行っていくとして、理解を求めた。
その他の医師会からは「新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ体制を考える際には、公的病院と民間病院を分けて考えるべき」(広島県医師会)、「医療機関への支援に関して、診療報酬、補正予算での更なる支援だけでなく、5年、10年先を見据えた医療提供体制の見直しが必要なのではないか」(福井県医師会)といった意見や、有事に備え、県所有の防災船を病院船として活用することも考えていること(静岡県医師会)などの紹介も行われた。
議論を踏まえてコメントした釜萢常任理事は、当日触れられなかった課題として、「新型コロナウイルス感染者の後遺症への対応」「検査が増える中で、陽性と判明した患者を他の人に感染させずにどのように移動させるか」―等を挙げ、その解決に向けた理解と協力を求めた。
総括を行った中川会長は、「各都道府県医師会長の生の声をお聞きすることで、全国のリアルタイムの情報を共有することができた」と述べ、本会議の意義を強調。その上で、医療機関の厳しい経営状況の改善を図るため、新たに誕生した菅政権に対しても強くその支援を求めていくとした他、「みんなで安心マーク」の普及に対する更なる協力を求め、会議は終了となった。
次回の本会議は11月17日にCグループ、Dグループの府県医師会による討議を行う予定となっている。