日本医師会定例記者会見 1月26日・2月2日
中川俊男会長は、新型コロナウイルス感染症の感染状況や、治療薬、緊急事態宣言などについての見解を説明した。
医療従事者の安全確保
中川会長は冒頭、今年1月、埼玉県で訪問診療に取り組んでいた医師が立てこもり事件の人質となり死亡したことや、昨年末には大阪府の医師が放火により亡くなったことに触れ、「いずれも日本医師会の会員である。地域医療に邁進(まいしん)されていた前途ある医師が、このような形で命を失ったことは、極めて残念であり悲しい」と哀悼の意を表した。
その上で、医師はおおむね1人で外来診療を行っており、在宅医療も少人数で訪問することが多いことから、「日本医師会としてこれまでどおり、医師・医療従事者と、患者さんとそのご家族との信頼関係の向上のために尽力するが、今後、改めて医師・医療従事者をどう守るかしっかり考えていきたい」と強調。厚生労働省と共にプロジェクトを立ち上げる意向を示し、医師・医療従事者の安全確保のために尽くしていくとした。
国内の感染状況
国内の感染状況については、新規陽性者が全国で8万人を超えていることを報告。先行して感染が広がっていた沖縄県は減少傾向にあるが、70歳以上の高齢者の感染者の割合は、1月3日から9日までは2・9%だったものの、1月24日から30日まででは10・4%に増加し、中等症患者や重症者も増加しているとし、「沖縄県以外の地域では、まだピークアウトの兆しは見られない。ピークアウトしたとしても、中等症、重症の患者さんが遅れて増えることが懸念される」と述べた。
また、「まん延防止等重点措置」が1月27日から適用されている北海道の医療現場からの報告を取り上げ、(1)新型コロナ陽性患者数の増加に加え、大雪による転倒転落で外傷患者が増加し、救急患者の応需困難事例が増加している、(2)妊婦や透析患者の新型コロナ陽性者の増加が顕著なため、重点医療機関のみでは対応できず、これまで新型コロナ患者に対応していなかったかかりつけ医療機関での対応が急速に求められている、(3)保育所、小学校、中学校での感染流行による医療従事者の欠勤により、各医療機関の診療体制の維持に支障を来している、(4)感染が高齢者に広がり、重点医療機関ではコロナの治療より介護に重点がシフトし、大きな負担になっている―ことを説明。
その上で、オミクロン株について「重症化しにくい」「若者がかかりやすい」「ワクチン接種をしていても感染する」などの認識が広まっていることに警鐘を鳴らし、「オミクロン株はデルタ株と比べ、重症化割合は4分の1に減少しているが、全国の入院患者及び療養患者数は、1月31日時点で59万5410人であり、第5波の最大であった8月29日の23万1596人の2・6倍になっている。オミクロン株は手ごわいことを改めて認識して欲しい」と強調した。
厚生労働省等からの事務連絡
更に、中川会長は1月31日付けで厚労省と文部科学省からそれぞれ発出された事務連絡において、就業制限や待機期間を解除し、出勤・登校する場合に、職場や学校に陰性証明を提出する必要がないことが改めて明記されていると説明。「抗原定性検査キットの入手が難しくなっているにもかかわらず、陰性証明を求めて検査を希望される方が少なくなく、現場では大変苦労していたが、職場等での陰性証明は不要であることを企業でも徹底して欲しい」とし、検査キットは、発熱外来を始めとする医療機関に集中させるよう理解を求めた。
また、1月24日付けの事務連絡を受け、感染急拡大時の外来診療の対応について、濃厚接触者が有症状となった場合、検査をせずに臨床症状で判断し、経口薬を投与しても良いのかという疑義が呈されたことから、1月28日に再度、事務連絡が発出され、経口薬や治療薬を投与する場合や他疾患の可能性も相応に高く鑑別が必要な場合には、検査が当然必要であると修正されていると概説。この対応に対し、「感染の爆発的な拡大に対しての緊急避難的な対応として、やむを得ない面も理解しているが、現場に混乱をもたらすことがないよう、本内容をより明確にすることを政府に改めてお願いしたい」と述べた。
治療薬
塩野義製薬が治療薬として開発中の経口抗ウイルス薬については、「国内で有効かつ安全な医薬品を獲得するために、臨床試験の進展が待たれる。全国の医療機関は、新型コロナの更なる治療薬を待ち望んでおり、厚労省には、新型コロナの対応で多忙を極めている医療機関において陽性が確認された患者さんに、十分理解してもらった上で速やかに臨床試験に参加してもらえるよう、医療機関の体制の構築を支援して欲しい」として、治験コーディネーターや治験データを管理する企業が、医療機関の支援をしやすくなるような環境整備を要望した。
緊急事態宣言
緊急事態宣言の発令に関しては、「これまで、主に新型コロナの新規感染者数や病床利用率から緊急事態宣言の発令が判断されてきたが、判断に当たっては、コロナ医療についての医療提供体制が逼迫(ひっぱく)するかどうかだけではなく、コロナ以外の通常医療が守られているかどうか、例えば救急医療が逼迫していないかといった視点を加えることを提案したい」と強調。救急搬送困難事案の多くはコロナ以外の通常医療の患者であることから、病床利用率については、コロナ病床と通常医療の両方を考慮することを求めた。
問い合わせ先
日本医師会 健康医療第2課、地域医療課、総務課、医事法・医療安全課 TEL:03-3946-2121(代)