日本医師会定例記者会見 6月15日
中川俊男会長は、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針2022」を中心に、九つの項目に対する日本医師会の見解を説明した。
まず、「令和5年度予算編成に向けた考え方」について、「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」との記載があることに触れ、国民の生命と健康に直結する社会保障は「重要な政策」に含まれると認識しているとした上で、新型コロナウイルス感染症対策に最大限の取り組みを行っている医療、介護現場にも配慮し、しっかりとした対応を行うよう政府に要求。個別項目については以下のように見解を述べた。
(1)「医療DX推進本部(仮称)」の設置
政府に「医療DX推進本部(仮称)」を設置し、医療の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)化を強力に推進するとしていることに関しては、医療のデジタル化を進めていくことについて日本医師会は全く同じ方向性であるとした上で、業務の効率化や適切な情報連携などを進めることで、より安全で質の高い医療を提供できるよう、現場の意見をしっかりと届けていく意向を示した。
(2)マイナンバーカードの保険証利用等
今回掲げられた「全国医療情報プラットフォームの創設」や「電子カルテ情報の標準化」に対しては、日本医師会がこれまで主張してきたことと合致するとして、全面的に協力する姿勢を示す一方で、①オンライン資格確認の原則義務化、②保険証の原則廃止―等に関しては、それぞれ要望を行った。
①については、日本歯科医師会、日本薬剤師会と共に推進協議会を立ち上げ、普及促進に取り組んでいると報告した上で、「コロナ禍や機材の供給不足、ベンダーの対応能力等の状況を考えれば、2023年4月からの原則義務化は現場感覚としてはスケジュール的に難しい」と指摘。医療現場や国民に混乱を来すことのないよう、導入・維持に対する十分な財政支援、丁寧な周知・広報による国民・医療機関双方の理解の醸成を求めた。
②では、マイナンバーカードの取得が国民の義務ではないことを踏まえて、マイナンバーカードを取得しないことで保険医療を受けにくくなる国民が出ることのないよう配慮を求めた。
(3)予防・重症化予防・健康づくりの推進
日本医師会が現在、予防・健康づくりに関する大規模実証事業に参画し、「外食や加工食品等を頻繁に利用している働きざかり世代への尿中塩分測定」、「『やせと低栄養』、『月経困難症』等の女性特有の健康課題への健診」などを検証していることを報告。エビデンスが確認され次第、今後の政策に反映されることを要望した。
(4)AIホスピタルの推進
日本医師会で、医療AIサービス事業者や医療AIサービスの審査・登録を行う「日本医師会AIホスピタル推進センター」を設立したことを報告。医療の質の確保と医療現場の負担軽減などが期待できるとするとともに、今年度中に実施する第3期の試行運用では、更に多くの診療所や病院に参加してもらい、さまざまな医療AIを医療機関が利用できる環境を整備していく意向を示した。
(5)OTC医薬品・OTC検査薬の拡大
医薬品・検査薬を医療用から一般用へ転用することについては、「骨太の方針2022」と同時に閣議決定された「規制改革実施計画」にも挙げられているが、国民の利便性が向上する部分もある一方で、医療用医薬品には重大な副作用などがあり、検査結果は治療に大きな影響があるとし、日本医師会としては、国民の安全を最優先する観点から、今後も医療用から一般用への転用の検討に関しては、有効成分ごとに安全性に関して丁寧に議論すべきと強調した。
(6)診療報酬の特例
コロナ入院患者受入医療機関等に対する補助のあり方について、過去の収入に応じた支払方式も考慮して見直すと記載されていることについては、「概算払いを想定しているのであろうが、概算払いは事業環境の変動によっては、容易に医療費を抑制する手段になりかねない」と指摘した。
(7)かかりつけ医機能が発揮される制度整備
財政制度等審議会等では「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化する」ことを求めていたが、今回の「骨太の方針2022」では「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」とされたことに関しては、患者の医療へのアクセスが維持され、患者の健康状態がこれまでどおり守られるよう、国民視点、患者視点に立って検討を進めていくよう求めるとともに、地域の方々に「かかりつけ医」をもってもらうために取りまとめた「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」を改めて紹介した。
(8)医療法人の経営状況に関する全国的な電子開示システム
医療法人の事業報告書の届出及び閲覧をデジタル化することについては、事務作業の効率化につながる行政手続きの「デジタル化」には理解を示す一方、詮索(せんさく)を加えた営業目的での利用が広がりやすいなどの弊害を危惧。報告内容の「詳細化」についても、本来の政策目的とは異なる利用の恐れがあり、患者と医療現場に大きな混乱を生じさせるとして、電子開示システムの構築に当たっては、政策利用の趣旨に沿って集計・分析したデータのみを対象とするよう、今後の検討会等で主張していくとした。
(9)リフィル処方箋
リフィル処方箋(せん)については、医師の処方権に何ら変更はないことを強調するとともに、財政当局からリフィル処方箋が一気に進んでいないことを問題視する声が上がっていることに対しては、「症状が安定している慢性疾患の患者であっても、定期的に診察を行い疾病管理の質を保つことが『安心・安全で質の高い医療』である」と指摘。日本医師会は今後も国民に定期的な医学管理の重要性を理解してもらえるよう努めるだけでなく、かかりつけ医として、患者の病状を個別に、かつ総合的に考慮した上で、リフィル処方箋の利用を慎重に判断してもらえるよう、最大限支援していく姿勢を示した。
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