日本医師会定例記者会見 1月11日
松本吉郎会長は新年に当たっての所感を述べるとともに、本年が卯年であることから、兎にちなんだ「兎の登り坂」「鳶目兎耳(えんもくとじ)」を挙げ、全力で国民の健康と生命を守る1年とできるよう、箱根駅伝のチームのような一致団結する強い医師会として、地域医師会と連携して難局に立ち向かい、全力で邁進(まいしん)していくとの決意を示した。
会見の冒頭、松本会長は、昨年日本各地で相次いだ大雨、大雪、台風等の自然災害の被害に遭った人々にお見舞いの言葉を述べるとともに、新型コロナウイルス感染症が収束を見ない中、そのような状況においても被災地で地域医療を懸命に支えている医師会員や、支援に取り組んでいる全ての人々に深い敬意の念を表明した。
本年の医療界における重要課題については、(1)新型コロナウイルス感染症、(2)かかりつけ医機能、(3)医療DX、(4)医師の働き方改革、(5)トリプル改定―を、また、日本医師会内における最重要課題に関しては「組織強化」を挙げ、それらの課題について概説した。
新型コロナウイルス感染症
(1)では、コロナ対応への国民の積極的な協力に感謝の念を伝えるとともに、引き続き基本的な感染防御を行い、コロナとの共生を図りながらも、コロナを引き続き"正しく恐れる"ことの必要性を強調。また、依然として、日本の人口当たりの重症者数や死亡者数が、特にG7諸国と比べて低く抑えられていることについて、国民、行政、医療関係者に対して、深く謝意を示した。
かかりつけ医機能
(2)では、これまでの議論の経緯を説明した上で、「かかりつけ医はあくまで患者さん自身が選ぶものであり、あらかじめ誰かによって決められるものではない」と、従来からの日本医師会の考えを改めて述べるとともに、フリーアクセスにおいて国民がこの制度を活用し、適切な医療機関を自ら選択できるよう支援を行っていくことが重要になると強調した。
また、医師も「日医かかりつけ医機能研修制度」を受講するなど、自己研鑽(けんさん)に努めることの重要性を強調。その上で、地域医療を「面」として支えるため、医師会としても、役割分担をしながら連携を進めていく意向を示した。
医療DX
(3)では、医療DXは安心・安全で質の高い医療の提供に資すると同時に、医療現場の負担軽減につながるものでなければならないとの認識を示した上で、日本医師会の考えと一致する医療DX政策については全面的に協力していく意向を示した。
一方、医療DXの推進が現場の負担増となること、医療機関に対するサイバー攻撃に警鐘を鳴らすとともに、「マイナンバーカードを取得していない人、使いこなせない人などが、保険料を支払っているにもかかわらず、保険診療を受けられないといった事態は絶対にあってはならない」とし、国に対して防止策を講じるよう要望していることを明らかにした。
医師の働き方改革
(4)では、2024年4月から「医師の働き方改革」の新制度がスタートすることに言及。日本医師会が、昨年4月に厚生労働省より「医療機関勤務環境評価センター」の指定を受けた後、10月から医療機関からの評価申請の受け付けを開始したことや、e-learning研修が開始されたことなどを紹介。日本医師会として、今後も「医師の健康の確保と地域医療の両立」という基本理念の下で、「制度ありきとならないよう、現場の声に耳を傾け、細心の注意を払って取り組んでいく」とした。
トリプル改定
(5)では、昨年末に行われた中間年改定において、薬剤費削減額が当初の約4900億円から約3100億円となったことと併せ、大臣折衝において、令和5年度予算における診療報酬上の対応として、①オンライン資格確認②医薬品安定供給対策―の関連加算の特例措置等が講じられたことに言及。物価高騰や医薬品の安定供給上の課題が日常診療に大きな負担を与えているなど厳しい現状がある中で、高度な政治的判断となったが、政府・与党を始め多くの関係者の理解を得られた結果、「一定のご配慮を頂いた」との認識を示し、謝辞を述べた。
また、2024年度には診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定が行われる他、医療に関わるさまざまな計画が開始されることにも触れ、「医療界にとって大変重要な年となり、年末に行われる予算編成では、その財源確保が重要な課題となる」との認識を示した。
更に、トリプル改定について、2025年には団塊の世代全員が後期高齢者となることから、「医療と介護が連携して、全ての世代が安心して暮らせる地域づくりの礎とすべき」とし、日本医師会役員が参画している厚労省の中医協、医療保険部会、医療部会の審議会や検討会等で議論を積み重ねていく中で、しっかりと日本医師会の考えを主張していく意向を示した。
組織強化
「日本医師会の組織強化」に関しては、医師会活動を自分事として認識、体験してもらうため、臨床研修医を対象に行っている会費の減免措置を、令和5年度からは医学部卒後5年目まで期間延長するとともに、同様の取り組みを全国の医師会に依頼していることを紹介。
また、業務量が増大し、多様化している日本医師会の会務について、広く役員を登用し適材適所に配置するため、会内の定款・諸規程検討委員会で議論が行われ、昨年12月には、常任理事を4名増員すべきとの答申を受けたことを報告(別記事参照)。医師会組織強化により、国民視点に立った医療の実現を目指すとともに、地域医師会と日本医師会との連携をより緊密にする中で、地域の声を踏まえた政策提言を行い、医師の期待に応え、国民の信頼を得られる日本医師会へとつなげていくとした。
更に松本会長は、「地域に根差した医師の活動」についても言及し、「そうした活動は、かかりつけ医が中心となって担い、また、地域医師会はそこに深く関与している。全ての医師は医師会に入会し、『地域にどっぷりつかる』活動、あるいは専門医として、連携して頂きたい」と述べ、医師会に入会することの重要性を強調した。
最後に、松本会長は会長就任時に、全都道府県を訪問し、各地域の医師会のさまざまな意見に耳を傾けるという目標を掲げたことに触れ、「既に30以上の都道府県を回っており、残る地域も訪問を予定しているが、それが終わったら、もう1回、全国を訪れたいと考えている。新たな政策提言、より良い医療提供体制の構築につなげるためには、やはり直接お会いして現場の声をお聞きすることが重要だ」と改めて決意を示した。
問い合わせ先
日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)