松本吉郎会長と長島公之常任理事は、2月16日に厚生労働省において加藤勝信厚生労働大臣と会談を行い、令和5年1月から運用が開始された電子処方箋(せん)に関し、その導入を進めるため、医療機関・薬局に対しては、医療情報化支援基金による補助金が整備されているものの、(1)補助率の低さ、(2)事業額上限の低さ、(3)導入期限の短さ―の問題があることを訴えるとともに、それらを解消するための取り組みを求める、日本医師会他7団体の連名による要望書を手交した。
会談ではまず、長島常任理事が要望書の概要を説明。(1)では、現在、病院は3分の1、診療所は2分の1に設定されている補助率が、令和5年度からは病院は4分の1、診療所は3分の1に引き下げられることに言及。「制度の趣旨からすれば、本来は10分の10(いわゆる実費補助)があるべき姿である」とした上で、医療機関の自己負担分ができる限り少なくなるよう、補助率の引き上げを求めた。
(2)では、現在補助対象とされている事業額の上限について、電子処方箋のシステムが明確化する前の聞き取り調査により定められた額であることを指摘。実態にそぐわない低めの金額に見積もられているとして、国に対して改めてシステム事業者に対する調査を行うとともに、実態を反映した事業額上限の引き上げを要望した。
また、(3)については、電子処方箋の導入が令和5年4月1日以降になる場合、補助率が低減する点について、公表と同年度内の導入は予算確保が困難であることを説明。更に、電子処方箋のモデル事業実施地域において、公表されている医療機関数が少ないことに関しては、「医療機関もシステム事業者も、電子処方箋の基盤となるオンライン資格確認(オン資)のシステム対応に追われているのではないか。このことからも電子処方箋対応のための開発や現場の受け入れ態勢整備が不十分なことは明らかだ」として、令和5年度以降に導入する場合の補助率低減の廃止、もしくは低減するまでの期限の大幅な延長を要望した。
一方、松本会長は、電子処方箋の導入に当たり、現場にはコストに対する強い懸念があることを訴えるとともに、事業者の体制整備や強化についても、国からの引き続きの働き掛けを求めた。
また、医師資格証の発行状況についても触れ、「電子署名手続きの際に必要となることもあり、1月末時点での発行数は約3万枚だが、発行審査中の申請数が約1万3000件となっている」と説明した他、厚労省で開催準備中の「電子処方箋推進協議会」については、日本医師会からも担当役員が参画するなど、電子処方箋の適切な推進に全面的に協力する意向を伝えた。
これらの要望に対して、加藤厚労大臣は、まずオン資の推進に当たっての日本医師会の協力に謝意を述べた上で、要望に一定の理解を示し、現在3月31日までとされている導入期限については延長する方向で検討を進めていることを明らかにした。
また、補助率や事業額上限の引き上げについても、実態の把握を進めた上で検討をしていく意向を示した。
その他、今回の会談では、オン資と電子処方箋の推進が国民にとってはより良い医療を受けられることに、国にとっては重複投薬の回避等により国民医療費の適正化に、それぞれつながるとの認識を共有。今後も協力関係を保ちながら、医療DXを推進していくことで一致した。
電子処方箋導入に伴う補助金の拡充に関する要望
厚生労働大臣
加藤 勝信 殿
令和5年2月16日
公益社団法人日本医師会 会長 松本 吉郎 一般社団法人日本病院会 会長 相澤 孝夫 公益社団法人全日本病院協会 会長 猪口 雄二 一般社団法人日本医療法人協会 会長 加納 繁照 公益社団法人日本精神科病院協会 会長 山崎 學 一般社団法人全国医学部長病院長会議 会長 横手幸太郎 一般社団法人国立大学病院長会議 会長 横手幸太郎 一般社団法人日本私立医科大学協会 会長 小川 彰 私たち医療関連団体は、令和5年1月から運用開始された電子処方箋について、患者の同意に基づく過去の処方・調剤情報のリアルタイムの共有や、重複投薬、併用禁忌の自動チェックが可能となることで、従来以上に正確かつ安心・安全な医療サービスの提供に寄与するものと考えており、その普及・啓発に取り組んでいるところです。 電子処方箋を導入する医療機関・薬局に対しては、医療情報化支援基金による補助金が整備されておりますが、「補助率の低さ」、「事業額上限の低さ」、「導入期限(令和5年4月以降は補助率がさらに低下する)」という3つの問題があることから、このままでは十分なインセンティブになり得ずに、普及が進まないことが想定されます。 電子処方箋の最終受益者は、より最適な医療を受けることができる患者であり、必要としない重複投薬の回避等により国民医療費の適正化を実現できる国であると考えます。一方で、医療機関側は、電子処方箋の導入は収益増につながるわけではありません。電子処方箋に限らず、医療DXを国策として推進するのであれば、現場のシステム導入や維持、それに伴い必要となるセキュリティ対策にかかる費用は、本来、国が全額負担すべきです。 以上のことから、電子処方箋導入に伴う補助金の拡充として、以下の三点を要望いたします(要望の詳細は別紙をご参照ください)。 1.補助率の引き上げ 2.事業額上限の引き上げ 3.補助申請期限の見直し 以上
【別紙】要望の詳細 1.補助率の引き上げ 補助率は、令和5年3月31日までに電子処方箋を導入した場合には、病院1/3、診療所1/2、令和5年4月1日以降に導入した場合には、病院1/4、診療所1/3となっており、医療機関側の負担が必ず発生する建付けとなっています。10/10(いわゆる実費補助)となるのが本来あるべき姿であり、医療機関の自己負担分ができる限り少なくなるよう、補助率の引き上げを要望いたします。 2.事業額上限の引き上げ 今回の補助対象となる事業額の上限は、大規模病院486.6万円、それ以外の病院325.9万円、診療所38.7万円となっております。この額は、電子処方箋のシステムが明確化する前に実施したシステム事業者への聞き取り調査を参考に決めた額と承知しております。その際、医療機関側が作業しなければならない工程が多めに設定されるなど、実態にそぐわない低めの金額に見積もられています。国として改めてシステム事業者に調査いただき、実態を反映した事業額上限の引き上げを要望いたします。 3.補助申請期限の見直し 令和5年4月1日以降導入の場合、補助率が低減することになりますが、公表と同年度内の導入を求められても、そのための予算を確保することは困難です。 現在、医療機関もシステム事業者も、電子処方箋の基盤となるオンライン資格確認の対応で余裕がない状況です。システム事業者においても、電子処方箋対応のための開発や現場の受け入れ態勢整備が全く不十分であることは、全国4カ所のモデル事業を見ても明らかです。令和4年度内に導入できる医療機関はごくわずかであると考えられますので、令和5年度以降に導入する場合の補助率低減の廃止もしくは低減するまでの期限の大幅な延長を要望いたします。 以上
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