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令和5年(2023年)7月5日(水) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

財政制度等審議会の建議について

日本医師会定例記者会見 6月7日

 松本吉郎会長は、財政制度等審議会が5月29日に公表した「歴史的転機における財政」、いわゆる「春の建議」の中の医療等に関する主張について日本医師会の見解を述べるとともに、セーフティーネットとしての医療制度を揺るがしかねないその主張内容に対して反論した。
 まず、同建議における「コロナ補助金などにより病院の純資産が増加している」との指摘に対して、病院団体の調査によると、2022年度の医療機関の経常利益は、コロナ、物価高騰関連補助金を除くと72・2%が赤字で、補助金を含めても51・6%が赤字になると説明。「コロナ補助金は、あくまで不眠不休で未知のウイルスに立ち向かった医療従事者への一時的な支援」とした上で、昨今の物価高騰や賃上げ要請は恒常的なものであることから、診療報酬で対応すべきとの認識を示した。
 また、医療法人の「経営情報データベース」について、職種別の給与に係る情報の提出を義務化すべきとの主張に対しては、報告対象となる医療法人や介護サービス事業者に過度な事務負担が生じないよう、負担軽減策も講じるべきとの認識を示すとともに、現状把握した上で慎重に対応していくことが必要と述べた。
 更に、介護老人保健施設、介護医療院の多床室室料負担見直しの主張に対しては、「介護保険施設では食費・居住費は自己負担化されており、多床室に室料は存在しないと整理されている」と述べるとともに、老健や介護医療院は医療法の下の医療提供施設であり、単なる「生活の場」や「住まい」ではないとの認識を示した。
 続いて、同建議の参考資料において言及された、以下の6点について、それぞれ日本医師会の見解を述べた。

(1)後期高齢者窓口負担の2割負担を拡大

 2022年10月より、一定以上の所得のある後期高齢者を対象として窓口2割負担が導入されたばかりであることに触れ、後期高齢者は一人当たりの医療費が高く、年収に対する患者一部負担の割合は既に十分高くなっていると指摘。「患者一部負担割合の引き上げにより、受診控えが起きる恐れもあるため、十分な検討が必要」との認識を示した。

(2)病床機能報告と診療報酬の関係

 財務省が地域医療構想の病床機能報告と絡める形で、看護配置を要件とした現行の急性期一般入院料の廃止の検討を提言していることに対しては、「地域医療構想の病床機能報告は、地域ごとに最適な機能分化を進めるためのものであり、診療報酬とは直接関係しない」と指摘。その上で、入院料の要件は中医協で議論されるべき問題であることを強調した。

(3)薬剤の種類に応じた保険給付範囲の見直し

 保険給付範囲については、「必要かつ適切な医療は保険診療により確保する」という国民皆保険制度の基本的理念に照らして考える必要があるとした上で、「必要かつ適切な医療」を給付範囲から除外するような見直しは容認できないと主張。
 また、「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助で対応すべき」との意見に対しては、公的保険として適切ではないと反論した。
 その上で、わが国の患者3割負担は、国際的に見て高い水準であり、諸外国の仕組みを一面的に参考にした提案については不適切とするとともに、負担を給付から患者負担に移し替えるだけの単なるコスト・シフトは政策手段としても不適切であると主張した。

(4)診療所の新規開設への踏み込んだ対応

 外国の例を基に、診療所の新規開設について踏み込んだ対応が必要との主張に対しては、わが国では国民皆保険制度の下、「自由開業制」が採られており、「フリーアクセス」と並び、医療保険制度の根幹を成すものであると強調。その上で、少子高齢社会の進展により人口減少局面に突入していく中で、わが国の医療提供体制の長所を堅持しながら、慎重に検討を進めていく必要があるとした。

(5)医療DX利活用等による重複投薬、重複検査等の効率化

 日本医師会は、安心・安全で質の高い医療提供並びに重複投薬・検査等の効率化のための医療DXの利活用には協力していく意向を表明。ただし、その推進に当たっては、医療現場に混乱や負担が生じることのないよう配慮することを求めた。

(6)リフィル処方箋(せん)のさらなる推進

 リフィル処方箋の更なる推進の提案に対しては、まず、日本医師会の考える「安心・安全で質の高い医療」とは、「症状が安定している慢性疾患の患者であっても、定期的に診察を行い、疾病管理の質を保つこと」と強調した上で、リフィル処方箋の拙速な普及・促進は、医療の安心・安全を脅かし、質を低下させかねないと懸念を表明。
 また、ジェネリック医薬品を中心に医薬品の供給不足が続いているため、臨床現場ばかりでなく、患者も困っている現状を指摘し、「まずは医薬品の供給体制を立て直すことが必要」と主張した。
 更に、同建議でOTC類似薬について、薬剤師の判断でリフィルへの切り替えを認めることの検討が提案されていることに対しては、「医師法によって、処方権は医師にのみ認められている」と指摘した上で、引き続き医師による定期的な医学管理を通じてリフィル処方箋の利用可否を判断することが、国民の生命と健康を守るためにも大切であるとの認識を示した。
 その上で、松本会長は「春の建議」の各論には、他にも多くの問題が含まれており、医療の現場を脅かしかねないと懸念を表明。「低所得者層の貧困化が社会問題となる中、財政上の理由から保険給付範囲を縮小することは、受けられる医療に貧富による格差を生じさせかねず、社会の安定性が損なわれる恐れがある」とし、セーフティーネットとしての国民皆保険制度の理念は、今後とも堅持していくべきと主張した。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

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