日本医師会定例記者会見 6月21日
松本吉郎会長は、6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる「骨太の方針2023」や「規制改革実施計画」等が閣議決定されたことを受けて、「骨太の方針2023」を中心に日本医師会の見解を説明。物価高騰と賃上げへの対応に関し、前向きな姿勢が示されたことを評価した。
(1)令和6年度トリプル改定
今回の閣議決定では「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う。」とされ、6月7日開催の第8回経済財政諮問会議に示された「骨太の方針2023」の原案にあった「抑制の必要性」が「影響」に修正されるとともに、「患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう」という文言が新たに追加されたことを説明。
日本医師会として物価高騰と賃上げへの対応を求め、四病院団体協議会・全国医学部長病院長会議との連名での要望書、日本歯科医師会・日本薬剤師会との連名での合同声明、日本看護協会・全国老人保健施設協会など12団体連名での合同声明、医療関係を中心とした41団体による国民医療推進協議会総会における決議等をもって働き掛けを展開してきたことが実を結んだものと評価し、前向きな議論となるものとの受け止めを語った。その上で、今後は「物価高騰・賃金上昇、経営状況、人材確保の必要性」に基づいた改定が実現するよう、引き続き政府に働き掛けていくとした。
(2)かかりつけ医機能
「骨太の方針2023」では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進」と記されているが、本制度整備に関しては、5月19日に公布された「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」をもって一定の整理がなされたものとの見解を示し、「引き続き国民のために、かかりつけ医機能が更に発揮されるよう着実に推進していく」と述べた。
(3)医師の働き方改革
原案では注釈に書かれていた、「医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進する」「大学病院の教育・研究・診療機能の質の担保を含む勤務する医師の働き方改革の推進」といった文言が本文に明記されたことを評価。①医師の健康確保②地域医療の継続性③医療・医学の質の維持・向上―の三つの重要課題にしっかりと取り組んでいくとした。
(4)医薬品関係
今回の「骨太の方針2023」では、「経済安全保障推進法の着実な実施と取り組みの更なる強化を行う。」とされたものの、医薬関係は、他業種に比べ予算規模も小さく、その対策は十分ではないことを指摘。日本に新薬が入ってこない上に、後発品の供給不安も続いているとして、「医薬品の安定供給には国による産業への関与が必要不可欠である」と述べ、国の強いリーダーシップに期待を寄せた。
また、「医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。」とされていることに対しては、「国民目線をもって極めて慎重かつ丁寧に議論することが大切」だとした。
(5)マイナンバーカードによるオンライン資格確認
マイナンバーカードによるオンライン資格確認について、「用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め、2024年秋に健康保険証を廃止する。」と記されていることに関しては、信頼性を高めることが最も重要であるとして、国や保険者、システムの運営主体である社会保険診療報酬支払基金に対し、データの正確性の確保に全力で取り組むことを要請。その上で、問題等が生じた際に報告・相談する窓口を拡充することや、その周知等も求めた。
(6)医療DX
医療DXに関しては、従来以上に安心・安全で、より良い医療を提供することと、医療現場の負担を軽減することが大変重要だとし、日本医師会も全面的に協力していることを強調。ただし、この前提として、マイナ保険証に本人の資格情報が正確にひも付けられていることを挙げた。
(7)介護における多床室の室料負担
「骨太の方針2023」では、「介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る。」とされ、注釈で多床室の室料負担について触れられている。これについては、「介護保険施設では食費・居住費は自己負担化されており、老健、介護医療院の多床室には室料は存在しないと整理されている」と説明。老健、介護医療院の入所者は「自宅」をもっていることや、老健、介護医療院は医療法の下の医療提供施設であることから、単なる「生活の場」や「住まい」ではないとの見解を改めて述べた。
(8)少子化対策・こども政策
「日本医師会は、少子化対策・こども政策については、大変重要な政策であるが、その政策に用いる財源を確保するために、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはならないと一貫して主張してきた」とした。その上で、一部のマスコミにより、日本医師会が少子化対策・こども政策に関する財源確保に反対している旨の報道がなされたことに触れ、「社会保障の財源をしっかりと確保することは不可欠である。また、少子化対策・こども政策の財源は社会保障財源とは別に確保することも必要だと考えている」と強調。政府には、社会保障と少子化対策・こども政策の両方の視点をもって取り組むよう、引き続き求めていくとした。
(9)ナースプラクティショナー
ナースプラクティショナーに関しては、「骨太の方針2023」と同日に閣議決定された「規制改革実施計画」で、在宅領域など地域医療における医師―看護師のタスクシェアについて、「制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする。」との文言が記載されたことを受け、新たな資格を創設することは国民の医療安全の観点から認めることはできないとの立場を改めて表明。在宅医療における課題解決は、地域連携の強化と特定行為研修の推進、オンライン診療(D to P with N)等により対応していくべきだとした。
最後に松本会長は、「これから財務省より令和6年度予算の概算要求基準が示され、夏に各省から概算要求の提出等が行われる予定だが、『国民の生命と健康を守る』という医師の使命を果たせるような予算確保が実現するよう、引き続き政府に働き掛けていく」との姿勢を示した。
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