令和5年(2023年)11月2日(木) / 「日医君」だより / プレスリリース
令和6年度診療報酬改定について~財政制度等審議会財政制度分科会「社会保障」の議論を受けて~(総論)
松本吉郎会長
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松本吉郎会長は11月2日に記者会見を行い、前日の財務省財政制度等審議会財政制度分科会での社会保障についての議論に反論するとともに、令和6年度診療報酬改定に向けた日本医師会の考えを改めて説明。地域医療を守っていくための賃上げは、診療報酬改定の中において別枠で行うことが必要だと強調した。
松本会長は、財政審において、直近2年間の診療所の損益率が極めて高水準で、経常利益率も急増し、利益剰余金が積み上がっているとの前提で議論がなされたことに対し、「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、特に、コロナ特例による上振れ分が含まれている。そもそもコロナ禍で一番落ち込みが厳しかった2020年をベースに比較すること自体がミスリードであり、儲かっているという印象を与える恣意的なものである」と指摘。コロナ特例については、5類感染症への移行後、既に半分以下と大幅に引き下げられており、こうした一過性の収益を前提に恒常的なフローについて議論するのは極めて不適切であるとした。
その上で、「TKC医業経営指標(M-BAST)」を基に独自に分析した診療所の医業に関する利益率を取り上げ、コロナ特例などのコロナ対応分を除くと3.3%程度となり、コロナ流行前よりも若干悪化している可能性があるとして、報酬特例の見直し等によって経営環境が悪化していくことを懸念。他業種と比較しても診療所の利益率は特段高いものではなく、医師が一人のみであるなど比較的事業規模が小さいことを考えると妥当な利益率だと主張した。
更に、財政審が診療所における利益剰余金が約2割増えたとしていることに対し、「利益剰余金を削る、もしくは減らすということは、通常はその法人が赤字に転落することを意味するが、赤字になれば必要な返済や投資ができなくなり、新たな借入れも難しくなる」と強調。そもそも利益剰余金は大規模修繕等に充てる他、法人が解散する際、最終的には国庫等に帰属するなど、医師、役員に帰属するものではないことを説明した。
また、開業後しばらくの間は借金返済のためにストックがほとんどない状態であることから、地域医療において人材をしっかり確保していくための賃上げなどの原資はフローから出すべきとの見解を改めて述べ、「『医療機関の賃上げは公定価格の中では対応しない』『利益剰余金を取り崩して実施しろ』という姿勢はあまりにも理不尽であり、地方の医療提供体制の弱体化を招くことを財務省はしっかりと認識すべきだ」と訴えた。
これらを踏まえ松本会長は、診療報酬改定に向けた日本医師会の考えとして、(1)秋の新たな経済対策の中で、入院中の食事療養等の補助金や光熱費等の物価高騰に対する継続支援を要請しているが、あくまでも当面の対応であり、今後は報酬改定で対応すべきである、(2)財政審では「現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と主張されているが、診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない―と主張。賃上げという岸田政権の重要政策を踏まえて、今年の春闘や人事院勧告の上昇分との差を埋めるだけでなく、更に上がると見込まれる来春の春闘に匹敵する対応が必要であると述べた。
過去30年近く類を見ない物価高騰や賃上げの局面を迎えている現状は、これまでとは明らかにフェーズが異なっているとして、「岸田総理は、『コストカット型経済』からの完全脱却とも述べられたが、診療報酬改定においても、コストカット型から完全に脱却し、異次元の対応が必要となる」と改めて強調。
賃上げは利益剰余金のようなストックではなく、高齢化の伸びのシーリングに制約された従来の改定に加えて、診療報酬改定の中において別枠で行うことを求めた。
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