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令和5年(2023年)12月20日(水) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

財務省財政審「秋の建議」に反論

日本医師会定例記者会見 11月22・29日

財務省財政審「秋の建議」に反論

財務省財政審「秋の建議」に反論

 松本吉郎会長は、11月20日に財務省財政制度等審議会(以下、財政審)が公表した「令和6年度予算の編成等に関する建議」、いわゆる「秋の建議」における、医療等に関するさまざまな主張に対し、日本医師会の考えを「総論」「各論」に分けて説明。「医師であるあなた方は休日返上で働いて、その分もうけたからいいじゃないか。コロナによる一時的なもうけでしばらく食いつなぎなさい」という「心が折れる」建議であると強く反論し、30年振りの賃金上昇、物価高騰への対応のためにも、診療報酬の大幅なプラス改定が必要だと主張した。

【総論】

 松本会長は、まず、財政審がコロナ対応に奮闘した診療所や病院に対して、これを全く評価しないかのような建議を公表したことについて「大変遺憾である」と述べるとともに、財政審が主張するマイナス改定は現実的ではなく、大幅なプラス改定が必要であり、従来のコストカット最優先の主張は、岸田政権が掲げる「コストカット型経済からの完全脱却」という方針に背くものだと指摘した。
 また、コロナ対応で利益が上がったからといって報酬が削減されることになれば、災害対応で残業・休日手当が増えたとしても、災害対応後には災害対応前より賃下げすることと同様であると批判。「医療は税金だから引き上げないとする理由には無理があり、公共サービスの一翼を担うような運輸業や情報通信業と同様に、物価高騰、賃金上昇の中で、安全かつ質の高い医療を安定的に提供するためには、診療報酬の思い切ったプラス改定が必要だ」と述べるとともに、「診療所も中小零細企業であり、物価高騰や賃金上昇を価格に転嫁できずに大変苦しんでいる」と訴えた。

【各論】

 松本会長は、財政審の主張の中で、特に問題である以下の項目について、日本医師会の考えを説明した。

(1)診療所の医業利益率

 「2022年度の中小企業における平均経常利益率は全産業で3・4%、サービス産業で3・1%であり、診療所の平均的な経常利益率は8・8%に急増したとして、他産業とも比較して過度な経常利益率にならないよう報酬単価を引き下げる必要がある」としていることについて、新型コロナの特例的な影響を除いた場合の新型コロナ流行後3年間の医業利益率は3・3%程度であるだけでなく、コロナ特例は一過性のものであり、今年の5月、10月に大幅縮減されていることを考えれば、引き下げの余地は全くないことを説明した。
 その上で、医療・介護分野の賃金上昇は、他産業に大きく遅れを取っており、岸田政権が賃上げを重要政策に掲げていることを踏まえれば、今年の春闘の平均賃上げ率3・58%や人事院勧告の上昇分約3・3%との差を埋めるだけでなく、5%以上に上がると見込まれる来春の春闘に匹敵する対応が必要であると改めて強調。「医療分野における賃上げは、高齢化の伸びにとどまることなく、診療報酬の大幅なアップなしでは、成し遂げられない」とした。
 また、「経常利益」は一過性の補助金等も含めた収益であり、診療報酬による対応の必要性は「医業利益率」で見るべきとの考えを改めて説明。加えて、「利益剰余金」についても言及し、「固定資産や設備が含まれたものであり、現預金はそのうちの一部に過ぎない。通常、医療機関の資産のうち、固定資産が占める割合は半分程度であり、利益剰余金を賃上げの原資とすべきといった考えは荒唐無稽(こうとうむけい)である」と批判した。

(2)現役世代の負担

 「診療所の報酬単価の引き下げにより、年収500万円の者の保険料負担が年間5千円相当軽減される」という主張に対しては、3・3%の賃上げが引き続き実施されれば保険料も増え、保険料を除いた収入はそれ以上に増えることを解説。岸田政権が掲げる「コストカット型経済からの完全脱却」は、現役世代の手取りも増やしながら、社会保障は現在の保険料率のままで十分行うことが可能であり、デフレ下のコストカット型経済を踏襲し、国民に過度な不安をあおるべきではないと指摘した。

(3)地域別診療報酬

 この問題は解決済みとした上で、仮に診療所の不足地域と過剰地域で異なる1点当たり単価を設定するといった地域別診療報酬へ移行した場合には、都市部ほど窓口負担が安くなり、医師不足地域の住民は負担感を強いられることになり、結果として、都市部への更なる一極集中が進むなど、国が取り組んでいる地方創生に逆行した動きが加速されかねないことを重ねて説明した。

(4)賃上げ促進税制

 賃上げ促進税制の積極的な活用を求めていることに対しては、減税効果を得ることができる医療機関は実際にはほぼ無いばかりでなく、赤字法人でも賃上げを促進するための繰越控除制度が創設されても診療報酬が増えなければ、空振り規定に近い状態になると指摘。むしろ、医療機関が賃上げ促進税制を利用できるよう、基本診療料を中心とする診療報酬の引き上げが必要不可欠であるとの考えを示した。
 最後に、松本会長は、「賃上げ・物価高騰への対応は、高齢化の伸びのシーリングに制約された従来の改定に加え、診療報酬改定の中において別枠で行う必要がある」と改めて強調し、その実現に向けた理解と協力を求めた。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

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