会長挨拶
令和7年3月30日
第158回日本医師会臨時代議員会 1.はじめに 第158回日本医師会臨時代議員会にご出席を頂き、誠にありがとうございます。 また、日頃より日本医師会の会務運営に特段のご理解とご支援を頂いておりますことに対し、この場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。 本日の臨時代議員会では、来年度の事業計画及び予算の報告に加え、1件の議案を上程いたしております。慎重にご審議の上、何卒ご承認賜りますよう、お願いを申し上げます。 2.医療機関経営の危機的状況の改善に向けて 現在、病院をはじめとする医療機関の経営は大変厳しい状況にあります。入院も外来も在宅医療も、いずれも経営的に非常に厳しい局面にあるにもかかわらず、一方で政治の世界では医療費削減ありきを出発点とした主張もあります。医療費削減のために何をするかという提案が安易になされることに、心から憤慨しております。 こうした危機的状況を国民の皆様方に訴えるべく、日本医師会は、3月12日に6病院団体と合同記者会見を開催し、そこで合同声明を公表いたしました。 賃金上昇と物価高騰、更には日進月歩する医療の技術革新への対応には、十分な原資が必要であり、補助金や診療報酬による機動的な対応も行わなければなりません。 著しく逼迫した経営状況を鑑みますと、まずは補助金での早期の適切な対応が必要であり、更に、診療報酬で安定的に財源を確保しなければなりません。令和8年度診療報酬改定の前に、期中改定をも視野に入れて、補助金と診療報酬の両面から対応を求めて参ります。 これから令和8年度診療報酬改定へ向け、「骨太の方針2025」の議論が本格化いたします。医療の危機的な状況を打開するために、「骨太の方針2025」の取りまとめに向けて、3つの対応が必要と考えています。 1つ目は「『「高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という社会保障予算の目安対応の廃止」です。 「骨太の方針2024」において「経済・物価動向等に配慮しながら」という文言が本文に記載されましたけれども、それではまだ弱いことから財政フレームを見直し、別次元の対応とする必要があり、更にそれを強めた文言とするよう、現在、全力で政府・与党に要望しております。 2つ目は、「診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」です。 医療・介護業界でも他産業並みの賃上げができるよう、賃金・物価の上昇を踏まえた仕組みを導入していく必要があります。 現在の医療機関の経営状況では、これ以上の賃上げは到底不可能であり、このままでは人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなってしまいます。 3つ目は、「小児医療・周産期体制の強力な方策の検討」です。 2024年の出生数は69万人弱とされており、好転の兆しは見えていません。小児医療・周産期体制については、著しい人口減少により対象者が激減しており、全国津々浦々で対応するための強力な方策の構築が必要です。 3.組織強化 組織強化につきましては、私が日本医師会長に就任して以来、力を入れて取り組んで参りました。その結果、昨年7月末には初めて会員数が17万7千名を突破しました。ご協力頂いた全国の医師会の先生方には改めて深く感謝申し上げます。 この組織強化の一環として、新たに医師会会員情報システム「MAMIS」を構築いたしました。昨年10月から地域医師会への導入が順次始まっており、12月末までに全国の医師会に導入されております。これにより、これまで書類で行ってきた入会・異動等の手続きをWeb上で行えるようになり、負担が軽減されました。従来は異動時の手続きの煩雑さが退会検討理由の一つになっておりましたが、この課題はMAMISの導入で解消に向かうものと考えております。今後は入会促進ツールの一つとしても活用を進めて参ります。 医師会の組織強化の眼目は、現場に根差した提言をしっかりと医療政策の決定プロセスに反映させていく中で、医師の診療・生活を支援し、国民の生命と健康を守ることにあります。対外的にも医師会のプレゼンスを一段と高められるよう、日本医師会は引き続き組織強化に努めて参ります。 4.新たな地域医療構想等の医療法改正 新たな地域医療構想につきましては、新たに「医療機関機能」報告が加わりますが、2025 年度に国で関係ガイドラインを作成し、都道府県において2026 年度に新たな地域医療構想の策定、2027 年度以降に順次取組を開始する予定となっております。日本医師会からは、介護との連携なくして医療提供体制の議論は完結しないとの考えから、地域医療構想に介護を含めるよう提案し、介護事業を運用する市区町村行政の調整会議への参画が明示されるなど、そのコンセプトは実現いたしております。また、現行の「回復期機能」に代えて、高齢者救急等を受け入れ、リハビリ・栄養・口腔管理の一体的取組等を推進し、早期の在宅復帰等を提供する「包括期機能」を提案し、これも実現にいたっております。 これらにつきましては、3月19日に開催いたしました「新たな地域医療構想・医師偏在対策担当理事連絡協議会」でもご説明申し上げております。 新たな地域医療構想に加え、医師偏在対策、また、いわゆる「直美」問題の美容医療への対応や、適切なオンライン診療の推進等を含む医療法等の改正法案が取りまとめられ、現在開会中の通常国会に提出されております。 5.医師偏在対策 医師偏在対策についても、「重点医師偏在対策支援区域」を対象とした「医師偏在是正プラン」の策定や、外来医師過多区域における新規開業希望者に対する地域で必要な医療機能の要請など、各地域での実効性ある取組が求められております。 厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」の「医師偏在対策に関するとりまとめ案」には、「地域の実情」という言葉が何度も使われ、こうした考え方が盛り込まれたことは評価しております。 一方で、日本医師会は、昨年8月21日に医師偏在対策に対する6項目の提案を行いました。これにより議論が相当進み、昨年の12月25日には、厚生労働省より「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」が公表されました。総合パッケージには、日本医師会の提案内容がおおむね盛り込まれており、基本的には評価できると考えております。 また、かねがね「医師偏在を一つの手段で解決するような『魔法の杖』は存在せず、その解決のためには、あらゆる手段を駆使して複合的に対応していく必要がある」と述べて参りました。今回の総合パッケージでは、その考えも踏襲し、「医師偏在は一つの取り組みで是正が図られるものではない」と認識した上で、「経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成課程の取り組み等の総合的な対策」を基本的な考え方にしております。中堅・シニア世代に対する、総合的な診療能力などのリカレント教育にも、日本医師会としてしっかり取り組んでいくことが大事だと思っております。今回の総合パッケージは、若手医師だけではなく、全ての世代の医師へのアプローチもうたっており、そうした点でも評価しております。 なお、総合パッケージにあります「全国的なマッチング機能の支援」については、3月21日に厚生労働省より事業公募がなされ、日本医師会女性医師支援センターで、応札に向け、現在対応しているところでございます。 6.かかりつけ医機能が発揮される制度整備 本年4月より、かかりつけ医機能報告制度が施行され、地域における面としてのかかりつけ医機能の更なる発揮に向けた取り組みが始まります。 私が会長に就任して以降、日本医師会は、令和4年11月に「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~」を提言し、令和5年2月には「かかりつけ医機能の制度整備にあたっての日本医師会の主な考え方」をお示しするなど、かかりつけ医機能に関する議論を深めて参りました。 かかりつけ医はあくまで国民が選ぶものです。財務省等が主張するように、「国民にかかりつけ医を持つことの義務付け」や、「フリーアクセスの阻害に繋がるかかりつけ医の制度化」には明確に反対です。 地域を面で支えるためにも、かかりつけ医機能報告制度には、多くの医療機関に手を挙げて参画頂きたいと考えており、日本医師会としても尽力して参ります。 一方で、医師側も自ら「かかりつけ医」として選ばれるよう研鑽を積み、国民に理解頂くことも重要です。日本医師会は「かかりつけ医機能報告制度にかかる研修」を新設し、地域に根差して活動をされている医師の経験も十分考慮し、研修修了者に対しては修了証を発行する予定です。 これらにつきましては、3月26日に開催いたしました「都道府県医師会かかりつけ医機能担当理事連絡協議会」でもご説明申し上げております。 7.医療DX 医療DXにつきましては、国民・患者の皆様への安全・安心でより良い医療の提供と、医療現場の負担軽減に資するものでなければならないと考えております。加えて、ITに不慣れな方であっても、日本の医療制度から国民もまた、医療者も誰一人取り残すことがあってはなりませんし、拙速になることなく、現場の状況を見ながら着実に進めていくことは重要なことであると考えています。 その観点から、昨年末、電子処方箋について、一部の医療機関等におけるシステム設定時の不備により、薬局側で医師の処方と異なる医薬品名が表示される問題が起きた際には、厚労省に根本的な対応と、実情に応じた普及目標の再設定を改めて強く申し入れました。その結果として、現場の負担増と混乱を招く五月雨式の機能追加をストップさせることができました。 また、中医協において日本医師会から強く働き掛けをいたしまして、「医療DX推進体制整備加算」に電子処方箋導入が要件とならない点数を新設させることができたことは大きな成果であると思っています。 今後も、医療機関の業務負担、費用負担を減らすための医療DXとなるよう、尽力して参ります。 8.医薬品をめぐる最近の状況について 医薬品の安定供給につきましては、これまで日本医師会が主張して参りました、ドラッグロス・ラグ解消、医薬品供給網の強化や供給に関する情報共有の促進、後発医薬品の安定供給の確保などの施策を進めるために、厚生労働省は薬機法改正案を取りまとめ、現在開会中の通常国会に提出されております。特に、製薬企業への供給計画の義務付けや流通管理の厳格化は重要な改正事項です。しかしながら、依然として医療現場では医薬品供給不安が続いており、更なる実効性の向上や迅速な対応が求められるため、補助金等の十分な予算措置も含め、現場の声を踏まえた意見・要望をしっかりと国に伝えていく所存です。 一方で、昨今、社会保険料を下げることを目的に、OTC類似薬の保険適用除外を求める動きが見受けられます。 日本医師会は、医療機関への受診控えによる健康被害や自己負担の経済的増加、薬の適正使用が難しくなるといった問題点を、2月13日の定例記者会見で指摘させて頂き、重大な危険性が伴うとして強い懸念を表明いたしました。保険料を支払っているにもかかわらず保険を使えなくなり、結果として自己負担が増えることや薬の適正使用が難しくなる仕組みは、国民にとって望ましくありません。その結果、国民皆保険から離脱する若者が出るなど、相互扶助である公的医療保険制度の根幹を揺るがす問題に発展する懸念さえあります。 9.7月の参議院選挙 7月に予定されている参議院選挙は、「医療の未来を左右する重要な選挙」であり、日本医師連盟は、7月の参議院議員選挙に本会の釜萢敏副会長を組織内候補として擁立することを決定しており、既に自民党からも公認を得ております。 釜萢先生は、6期11年にわたり日本医師会の常任理事・副会長として幅広い業務を担当され、医師会業務に精通し、特に新型コロナウイルス感染症対応では、アドバイザリーボード構成員等を務められるなど、医療界の主張を代弁して頂きました。また、政治に対する造詣も深い釜萢先生は、地域医療に携わり、地域医療が抱える課題にしっかりと取り組んでおられるだけではなく、幅広い人脈をお持ちです。今後も新たな人脈を築いていかれるであろうこと、更には行動力、決断力もあり、余人をもって代え難い存在であります。 釜萢先生が大きく飛躍して今後も十分に活動できるよう、本日ご出席の先生方をはじめ会員の皆様におかれましては絶大なる応援をお願したいと思います。 10.おわりに 財政健全化の立場から「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」との主張も一部にありますが、日本医師会はそれには反対しております。国民生活を支える基盤として、「必要かつ適切な医療は保険診療により確保する」という国民皆保険制度の理念を今後とも堅持すべきであり、給付範囲を縮小すべきではないと考えております。 低所得者層の貧困化も社会問題となる中、所得などによって、必要な医療を利用できる患者さんと利用できない患者さんの間での分断を生み出してはなりません。 日本医師会はこれまで、「税金による公助」「保険料による共助」「患者さんの自己負担による自助」の3つのバランスを取りながら進め、自己負担のみを上げないこと、併せて、低所得者への配慮が重要であることを主張して参りましたが、今後もその主張を続けて参ります。 高齢化の伸び等により財政が厳しいことも承知しておりますが、安全性や公平性を損なわないよう、慎重な議論とバランスの取れた政策が求められます。 結びに当たりまして、今後とも国民の生命と健康をしっかりと守るべく、本会執行部に対しまして皆様からの絶大なるご支援を賜りますよう切にお願い申し上げまして、私からの挨拶とさせて頂きます。 ![]() |
問い合わせ先
日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)