手術を安全に行うために(前編)
手術は非常に侵襲的な治療であり、様々なリスクと隣り合わせです。手術そのものによって、患者さんの心身に不利益が及ぶことがないようにするために、どのような管理が行われているのでしょうか。
循環と呼吸を保持するために
手術のために全身麻酔をかけられたとき、患者さんの身体はどのような状態になるのでしょうか。ここでは、手術中の安全を保つ方法について見ていきましょう。
全身麻酔の三要素は、鎮静・鎮痛・筋弛緩です。患者さんの意識を消失させ、痛みを感じなくすることで、疼痛などのストレスから血圧が上昇してしまうことを防ぎます。また、筋弛緩させることで、筋肉がこわばって体にメスが入らなくなることを防ぐのです。
しかし、鎮静・鎮痛を行うと、自律神経が働かなくなり、血圧のコントロールができなくなります。さらに、出血によって血液循環量が減ったり、麻酔が深くなりすぎたりすると、患者さんは低血圧になってしまいます。また逆に、麻酔が浅すぎたり、低酸素血症を起こしていたりすると、高血圧になってしまいます。そのため、手術中は循環管理が必要です。輸液をして血液の水分量を補いつつ、血圧や心拍数、脈拍、尿量、出血量などを常にモニタリングします。もし異常が起こったら、その原因を考えて対処します。また、患者さんが服用している薬のなかには、血圧や麻酔のかかり具合に影響を及ぼすようなものがある可能性があります。例えば、もともと循環器疾患がある患者さんが抗血小板薬や抗凝固薬を服用していた場合、術中に血が止まりにくくなるリスクがあります。そのため、患者さんが服用している薬を事前にしっかりチェックして、必要があれば一定期間休薬するよう、徹底しなければなりません。そのほか、手術中は患者さんは寝返りを打ったり体位を変えたりすることができないため、深部静脈血栓症を生じるリスクも高まります。そこで、血栓を生じるリスクを術前に評価し、重点的にモニタリングを行います。
呼吸管理も重要です。全身麻酔がかかっている間は、呼吸に使う筋肉も弛緩して自発呼吸ができなくなってしまうため、気管挿管をし、人工呼吸器を装着します。また、パルスオキシメーター*1やカプノメーター*2を使って、体内のガス交換が正常に行われているかモニタリングを行います。
今回は、循環管理と呼吸管理の大きく二つの観点から、手術中の安全を保つ方法について概観しました。ただ、手術を行う際は、ここで述べた以外にも様々なリスクに備える必要があります。そのため、多職種で協働し、ダブルチェック・トリプルチェックを重ねて管理していくことが非常に重要なのです。
*1パルスオキシメーター…皮膚を通して動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定する装置。
*2カプノメーター…呼気中の二酸化炭素濃度を測定する装置。
手術を安全に行うために(後編)
呼吸管理
なぜ呼吸管理が必要なのか
・患者が自発呼吸できなくなる
ー手術中は、筋弛緩させて体にメスを入れやすくすることが必要
ー麻酔の筋弛緩作用により、呼吸に必要な筋肉も弛緩してしまう
ー麻酔の鎮静作用や筋弛緩作用、仰臥位により、舌と顎の筋肉もゆるみ、舌根沈下が生じる
対処
・気管挿管して気道を確保し、人工呼吸器を装着する
・患者の体内でガス交換が正常に行われているかモニタリングする
ーカプノメーターで、呼気中の二酸化炭素濃度を測定する
ーーカプノグラムの波形などから、過換気や低換気、気道狭窄、肺塞栓症などを早期発見できる
ーパルスオキシメーターで、経皮的酸素飽和度を測定する
ーー吸入酸素濃度の低下、無気肺、気道トラブルなどを早期発見できる
循環管理
なぜ呼吸管理が必要なのか
・患者が血圧などを自力でコントロールできなくなる
ー手術中は、患者の意識を消失させ、痛みを感じなくさせることが必要
ー麻酔が中枢神経系に作用することで、交感神経が抑制され、患者が自力で血圧をコントロールすることができなくなる
ー手術の出血によって、循環血液量が減少したり、心臓の動きが抑制されることで、低血圧が生じやすくなる
ー麻酔が浅かった場合、痛みなどのストレスから高血圧を生じる
対処
・輸液をして循環血液量を調整する
・血圧・心拍数・脈拍などをモニタリング
ー低血圧や高血圧、頻脈や徐脈、末梢循環不良などを発見する
・手術に影響を及ぼすような内服薬は、術前に休薬しておく
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