日本医師会の取り組み
今後の医師需給
皆が納得して進路選択できるような情報提供や制度変更に努めたい
医師の地域別・診療科別の偏在等について、今村聡日本医師会副会長に聞きました。
医師の地域別・診療科別偏在
皆さんは、医師不足が長年問題となっていることは既にご存知だと思います。とはいえ、平成28年度に厚生労働省が発表した今後の医師需給推計*1では、約10年後には日本の人口減少によって医師が供給過剰になると発表されているのです。ではどうして、医師不足が声高に叫ばれているのでしょうか。
医師不足の本質は、医師の絶対数ではなく、地域別・診療科別の偏在にあります。例えば、平成28年度の厚生労働省のデータ*2によると、都道府県別に見た人口10万対医師数は、最も多い徳島県が315.9人であるのに対し、埼玉県では160.1人と、大きな差が見られます(ただし、徳島県の中でも都市部と郡部で偏在があり、埼玉県では東京都等への患者の移動もあるので、一概に人口比だけで判断できない部分もあります)。また診療科別の医師数の割合は、最も多い内科が20.0%なのに対し、産婦人科は3.6%となっています。
そこで、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」(以下、検討会)では、偏在を解消する方策が議論されており、今村副会長をはじめ、日本医師会からも委員が参加しています。
納得できる制度変更を
ここで、地域別・診療科別の医師の偏在について、医学生はどのように考えているのか見ていきましょう。今年、医学生が医学生向けに行った調査によると、都会に医師が集中することや診療科の選択に偏りが出ることを問題だと感じている医学生は過半数にのぼり、地域枠制度については肯定的な意見が多く見られます。しかし、制度等の強制力によって自身の診療科・研修地域の選択肢が狭められることについては否定的な意見が多いという結果になりました(表)。
しかし検討会においては、「長年続く医師の偏在は強制的な方法で解消すべき」という意見も少なくありません。日本医師会は、プロフェッショナル・オートノミーに基づき、医師が自律的に進路選択できることを大前提として議論に臨んでいます。このことについて、今村副会長に聞きました。
「医師の偏在を解消するためには、もちろん何らかの手段を講じる必要があります。しかし、混乱や不公平さを減らすためにも、急に強制的な手段を取るよりは段階的な方法を考えるべきでしょう。私は、今の状況で医学生に調査をしたら、このような結果が出るのも当たり前だと思います。診療する地域や診療科を自由に選べると思って入学したにも関わらず、突然制度が変わってそれが制限されてしまったら、不公平感を覚えるのは当然のことだからです。日本医師会は、皆さんが自律的な進路選択ができるという前提を崩すことなく、そのうえで、マクロな視点から見たときに結果的に偏在がなくなるよう、情報提供や制度変更といったアプローチを必要に応じて取っていきたいと考えています。
大切なのは、入学前から制度を明示し、納得したうえで医学部に来てもらうということではないでしょうか。実際、地域枠制度について肯定的な意見が多いのは、入学時点で示された条件に納得したうえで医学部に入る学生が多いからだと私は考えています。なお、地域枠制度を利用して医師になった人のその後を見ていくと、若干の例外はあるものの、地元に定着する人が多く、医師の地域偏在解消に効果があると言えます。
今後も、医学生を含む皆さんが納得したうえで進路を選択できるような制度を整えていくことが、地域・診療科の偏在解消に必要ではないでしょうか。」
若手医師の立場もふまえて
さて、今年3月、前述の検討会における議論の中間取りまとめを基に、「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、7月に成立・公布されました。医師の偏在のみならず、医師養成等にも関わる様々な内容が盛り込まれていますが、この法改正で特筆すべきこととして、「一人ひとりの医師のキャリア形成を支援する内容が明記されたこと」が挙げられます。内容について簡単に見ていきましょう。
この法改正では、地域枠の医師について、まず地域医療支援センターがその医師の中長期的なキャリア形成プログラムを作ること、次に医療勤務環境改善支援センターが勤務環境をきちんと整備すること、最後にこれらのセンターが相互連携して医師のキャリア形成を支援することの3点が明記されました。この連携によって、医師の少ない地域に派遣された医師が良い勤務環境で働けることを担保できます。医師の少ない地域でも、医師が働きやすい環境を作るための土台が整えられたのです。
そして検討会は、今回の法改正にとどまらず、その効果を検証したうえでさらなる対策を検討すべく、議論を重ねています。このように、医師の偏在を解消するため着実かつ前向きに制度の改善が進められているのです。今後の展望について、今村副会長に聞きました。
「日本医師会は、日本全国どこでも国民が平等に医療を受けられるよう、医師の偏在の問題について引き続き国に様々な提言を行っていきます。これからも日本の人口構成は刻々と変化していきますから、それに伴って制度も変えていく必要が出てくるでしょう。時代の変化に合わせて、かつ現場が混乱しないように、医師の立場から発言するのが日本医師会の使命です。これからの医療を担う若い医師・医学生たちの立場も考えて、今後も改善を進めていきます。」
*1…平成30年「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会 第3次中間取りまとめ」より
*2…平成28年「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」より
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