「平成29年度地域包括診療加算・地域包括診療料に係るかかりつけ医研修会」が7月30日、日医会館大講堂で開催された。
本研修会は、平成26年度診療報酬改定にて新設された「地域包括診療加算」及び「地域包括診療料」の施設基準にある「慢性疾患の指導に係る適切な研修」の一部にあたる研修会として位置づけられており、かかりつけ医機能における医療的機能を中心として各疾患に関するエビデンスに基づく最新の知見を学習できる内容で、全講義受講者には、後日、日医より「修了証書」を交付する予定となっている。
当日は、日医会館で212名が受講した他、テレビ会議システムにより46都道府県医師会で6500名を超える多数の事前申し込みがあった。
鈴木邦彦常任理事の司会で開会。あいさつで横倉義武会長(中川俊男副会長代読)は、まず受講者に対し日頃の地域医療の確保への尽力に感謝の意を表し、地域医師会は、地域包括ケアシステムの中心的な存在としての役割が非常に大きいとして、その責務を果たしていくことを期待するとともに、日医として継続した支援を行っていくとした。
その上で、「わが国の健康寿命が世界トップクラスにまで押し上げられたのは、いつでも、どこでも、誰もが、良質な医療を受けられるという国民皆保険の成果に他ならない。世界が経験したことのない高齢社会を、真に安心に導く"世界モデル"にまで高めていくためには、国民皆保険を堅持した上で、"かかりつけ医"を中心とした"まちづくり"を進めていくことが重要だ」と指摘。「人類がかつて経験したことのない長寿社会ではあるが、多くの方々の共通の願いは、住み慣れたまちで、安心して、自分らしく年齢を重ねながら、人生を謳歌(おうか)し続けていくことではないか。そのために、①地域医療構想に基づいて明日の医療を描き、持続可能な医療提供体制を構築していく②地域包括ケアシステムによって、質の高い生活を人生の最期まで送れるようにする―ことのいずれにおいても、"かかりつけ医"が中心となって、国民一人ひとりの生と死に寄り添い続けていくことが、人生100年時代に必要な医療のあり方だと思う」とした。更に、「本研修会がかかりつけ医機能の充実に資するものとなり、先生方が地域での"まちづくり"のリーダーとして、地域包括ケアシステム構築に取り組む際の参考となれば幸いである」と期待を寄せた。
午前は、鈴木常任理事が座長となり、(1)脂質異常症(江草玄士江草玄士クリニック院長)、(2)糖尿病(菅原正弘医療法人社団弘健会菅原医院院長)―の2題の講義が行われた。
午後は、市川朝洋・松本純一両常任理事が座長となり、(3)高血圧症(有田幹雄角谷リハビリテーション病院院長)、(4)認知症(瀬戸裕司医療法人ゆう心と体のクリニック院長)、(5)禁煙指導(羽鳥裕常任理事)、(6)健康相談(新田國夫医療法人社団つくし会理事長)、(7)在宅医療(太田秀樹医療法人アスムス理事長)、(8)介護保険(池端幸彦医療法人池慶会池端病院理事長/院長)、(9)服薬管理(白髭豊医療法人白髭内科医院院長)―の7題の講義が行われた。
(1)~(4)では、最新の知見や専門医への紹介のタイミングを紹介しつつ、診断・治療のポイント等が概説された。(5)~(9)では、かかりつけ医に不可欠な知識や最新情報、地域包括ケアシステムの中で現場の専門職として果たすべき役割等が解説された。
特に、(4)では、本年3月12日より施行された改正道路交通法の変更点と診断書作成のポイント等の説明が行われ、日医が作成した『かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き』が紹介された。
また、(5)では、日医が実施している「受動喫煙の防止対策を強化・実現するための署名活動」が紹介され、「タバコフリー・オリンピック」を目指して受動喫煙防止対策の法制化が実現するよう働き掛けていくとされた。
閉会あいさつに立った中川副会長は、現在、全国各地で地域包括ケアシステムの構築が進められているが、地域のかかりつけ医には、"まちづくり"の中心的役割を果たすことが期待されており、健康寿命の延伸に向けての種々の取り組みにおいても、最も重要なのは、かかりつけ医と患者の信頼関係であると指摘。
その上で、日医が昨年11月に実施したアンケート調査によると、地域包括診療加算及び同診療料の要件のうち「かかりつけ医にとって重要と思う項目」の上位2項目として、①患者に処方されている全ての医薬品の管理②患者が受診している全ての医療機関の把握―が、一方、「現在実施していて負担が大きい項目」としては、①②に加えて、③在宅患者に対する24時間対応④常勤医師2名以上―の要件が挙げられていたことを紹介。「次期改定に向けて、かかりつけ医確保のために診療所医師の負担軽減も考慮した現実的な要件にできないか検討していきたい」と述べた。
更に、いまだ、かかりつけ医以外を受診した場合に定額負担を求める動きが一部に根強く残っていることに触れ、制度として国民に強制的にかかりつけ医を持たせるのではなく、国民自らがかかりつけ医を持とうというインセンティブが働くよう、かかりつけ医機能を強化する取り組みを推進していきたいとの考えを示した。
最後に、同副会長は、「地域包括ケアシステムの主役は、かかりつけ医である。受講された先生方には、本日の研修内容を踏まえ、より一層のご尽力を頂きたい」と述べ、閉会となった。
なお、同研修会の内容は、後日、日医ホームページにて映像を配信する予定となっている。