コロナ禍における避難所の開設・運営のあり方をめぐり意見交換
「"新型コロナ時代"における災害時避難所対策」をテーマとした令和2年度都道府県医師会災害医療・感染症危機管理担当理事連絡協議会が6月17日、テレビ会議システムを用いて日医会館で開催された。
協議会は、石川広己常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長は、「例年、豪雨・台風災害が集中的に発生し、その被害も激甚化しつつあるが、こうした状況に加え、"新型コロナ時代"において、『3密』が避けられない避難所における保健医療対策は極めて重大な問題である」と強調し、忌憚のない協議を求めた。
石川常任理事は、JMAT活動の概要について説明した上で、新型コロナウイルス感染症についても新たな災害の一つと捉え、「COVID-19 JMAT」としてクルーズ船、宿泊療養施設、発熱外来、地域外来・検査センターなどに派遣したことを報告。近年、台風や豪雨による災害だけでなく、地震も頻発していることから、避難所における新型コロナウイルス感染症対策の重要性を訴えた。
釜萢敏常任理事は、新型コロナウイルス感染症をめぐる国内外の動きと日医の対応を時系列に述べた上で、日医が2月から5月にかけてテレビ会議システムで毎週行っていた「都道府県医師会新型コロナウイルス感染症担当理事連絡協議会」において都道府県医師会から寄せられた情報を、国の会議でも共有してきたことを説明。今後の感染拡大の兆候をいち早く察知するためにも、検査体制の充実が肝要であるとした。
「新型コロナウイルス感染症時代の避難所マニュアル」を公表
山口芳裕日医救急災害医療対策委員長/杏林大学高度救命救急センター長は、地域医師会や行政が避難所を設営する際の参考となるよう「新型コロナウイルス感染症時代の避難所マニュアル」を取りまとめたことを報告。構造的に「3密」が避けられない避難所において、同マニュアルを地域の状況に落とし込み、安全な避難所運営ができるよう期待を寄せた。
同マニュアルは、(1)避難所の開設、(2)医療資機材の準備、(3)避難者の健康状態の確認、(4)自宅療養者や重症化リスク因子を有する避難者、(5)実際の避難所運営―からなり、(1)では、可能な限り多くの避難所を開設し、指定避難所の入所人数制限を行って、ホテルや旅館に分散避難すること、(2)では手指消毒に必要な資材や個人防護具(PPE)などを備蓄することを勧めている。
(3)では、避難所入所時の健康状態や日々の健康状態の確認方法を列挙するとともに、巻末には「避難所等における症候群サーベイランス用紙(COVID-19 Ver.)」を収載。
(4)では、自宅療養を行っている新型コロナウイルス感染症の軽症者等への対応について、避難計画、避難所運営計画、生活再建支援計画を事前に策定し、自然災害の危険性が高い地域では極力自宅療養を行わないようにすべきとしている、一方、高齢者や基礎疾患のある避難者には、要配慮者として専用の避難所や専用スペースを設けることなどを提案している。
(5)では、簡易ベッド(段ボール)とパーテーションを用いたゾーニングでスペースを確保することや、食事・物品受け渡し用の台の設置、トイレや手洗い場等集合スペースへの動線の明確化、2方向の窓・ドアを開けた換気など、具体的な運営方法を記している。
石井美恵子日本災害医学会理事/国際医療福祉大学大学院教授は、日本災害医学会が医療・保健福祉に関連する専門職及び防災業務に従事する行政職員に対して開催している「BHELP(Basic Health Emergency Life Support for Public)標準コース」を紹介。避難所の設営と運営の留意点として、手洗い装置や避難所のレイアウトなどの具体例を示した他、教室の活用や、物を直接受け渡ししないなどのシステムづくりが必要であるとした。
櫻井滋日本環境感染学会災害時感染制御検討委員長/岩手医科大学附属病院感染制御部長は、避難所到着時のトリアージとして、発症者と疑い者は「専用保護エリア」に、健常者はプライバシーを確保して家族単位で配置するとし、無症候感染者検出のために検査体制を充実させ、リネンを熱水洗浄するなどの管理も重要であると強調。また、医療従事者自身が感染源とならないよう、出動前後の自己検疫を求めた。
また、特別発言として、植田信策避難所・避難生活学会代表理事/石巻赤十字病院副院長が、東日本大震災の災害関連死者の51%は避難所等における生活の肉体的・精神的疲労が原因となっていたことを指摘。避難所での雑魚寝が避難者に二次被害をもたらすことから、簡易ベッドやパーテーションの備蓄を進め、計画避難開始に先立つ開設時に設置できるよう、タイムラインでの行動計画を策定すべきだとした。
協議では、行政やテレビ会議で参加した都道府県医師会も交え、車中泊のあり方や避難所におけるインフルエンザ予防接種、検査キット備蓄などに関して意見交換が行われたが、厚生労働省からは、コロナ禍においても災害拠点病院が機能を発揮できるよう備蓄等を進めることや、災害を見越した訓練を各都道府県において実施することについて要請がなされた。
また、内閣府からは臨時交付金によって都道府県ごとに段ボールベッド、パーテーション等の備蓄を進めていることや、避難所として利用可能なホテル・旅館を全国に1,200以上用意したことについて報告がなされた。
最後に、総括として中川俊男副会長が、「災害医療における感染対策は、大変重要かつ困難なテーマだが、"アフターコロナ"の時代では避けては通れない」と述べ、本協議会の内容が各地域医師会の災害医療活動に反映されるよう期待を寄せ、協議会は閉会した。
なお、出席者は340名で、そのうちテレビ会議システムでの出席者は301名であった。災害時、現場で直接対応しなければならない郡市区医師会からは99名が出席した。
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