閉じる

令和6年(2024年)10月23日(水) / 「日医君」だより / プレスリリース

財政制度等審議会財政制度分科会の議論を受けて

 10月16日に開催された財務省財政制度等審議会財政制度分科会において「財政総論」が審議され、令和7年度予算編成に向けた議論が開始されたことを受けて、松本吉郎会長は10月23日の定例記者会見で日本医師会の見解を表明。政府の賃上げの意向を無視した、社会保障分野で物価・賃金の伸びを給付に反映すべきでないという議論はミスリードであると牽制した。

インフレ下における物価・賃金の上昇への対応を
 松本会長は、「財政総論」の「物価・賃金の伸びを給付に反映した場合、ますますの保険料率の上昇につながり、現役世代の負担が更に増加(可処分所得が減少)することにも留意が必要」との記載に対し、「物価・賃金の伸びを給付に反映しなければ保険料が上昇しないといった説明は国民に対して不誠実であり、財務省の詭弁と言わざるを得ない」と反論。

 医療費の増加については、「医療技術の進歩、高額薬剤等医療費の増加部分は、近年、医療費適正化として相殺され、高齢化の分だけしか反映されていない」とし、そのような状況の中で、インフレ下における物価・賃金の上昇という新たな増加要因が加わっていることから、「財務省が示す資料は、インフレ基調に転じた経済状況を踏まえておらず、デフレ下のコストカット型経済を踏襲したものである」と指摘した。

政府の賃上げの意向を無視した議論はミスリード
 賃上げについては、政府も医療や介護など福祉分野で働く人の賃上げについて必要な対応を図る意向であると強調。「賃上げを進めるといった政府の意向を無視して、財務省財政審で、社会保障分野で物価・賃金の伸びを給付に反映すべきでないという資料を提出し、議論を行うことはミスリードと言わざるを得ず、極めて遺憾」と不快感を示した。

 その上で、2012年からの約12年間における全産業と医療業の賃金の伸びの比較をグラフで示し、「一般労働者の賃金の推移を見れば、全産業と比べて医療従事者はむしろ若干下回っている水準である」と指摘。令和6年春闘の平均賃上げ率とベースアップ評価料による賃上げ率とは2.6%もの差があることを説明した。

 松本会長は、「現在の医療機関の経営状況では、これ以上の賃上げは到底不可能であり、このままでは人手不足に拍車が掛かり国民に適切な医療を提供できなくなってしまう」と懸念を示し、地域医療を守り、地方経済を活性化するためには、必要な賃上げを行い、医療従事者を確保していくことが不可欠であると訴えた。

昨今の物価・賃金の急激な上昇により医療機関の経営は限界に
 物価上昇については、通信費も値上げされるなど、物価高騰の影響は広範囲に及んでいるとして、「昨今の物価・賃金の急激な上昇の中、医療機関の経営は限界にきている。わが国はようやく30年にもわたるデフレ経済から脱却し、賃上げの流れが出来つつあるという極めて重要な局面を迎えているが、こうした流れを医療分野が止めてしまいかねない」と懸念。公定価格である医療分野は、コストアップ分を勝手に価格に転嫁できないことに理解を求めた。

物価高騰・賃上げのインフレ下では、保険料収入も増加する
 更に、財政審が健保組合を例示し、医療保険料率がみだりに伸びているかのように恣意的な見せ方をしているとして、「協会けんぽの平均保険料率は、2012年度から2024年度まで10%に据え置かれており、そちらを例示すべき」と指摘。

 2018年の政府予測に比べ、現在の医療保険料率は、はるかに低い水準にとどまっていることから、これまで医療費の過度な抑制が実施されてきた証左だとし、「昨今のような物価高騰・賃上げのインフレ下では、税収のみならず、保険料収入も増加する。現在の保険料率は2018年の政府予測を約1%下回っており、可処分所得が減少するといったように、国民に対して過度な不安を煽るべきではない」との考えを述べた。

 更に松本会長は、わが国の税収は2012年度の44兆円から2023年度の72兆円へと1.64倍に増え、年平均で4.6%の高い伸びとなっており、財政審が指摘する医療保険給付費等の伸び(+2.4%/年)を大きく上回るとともに、健保組合の保険料収入についても、ここ数年は前年度比で約2.7%の伸びを見せてきていることに言及。こうした財源を、更なる社会保障費、特に医療費へ投入することが、適切な医療を提供する上で欠かせないとした。

今年度の補正予算における医療分野の物価高騰・賃上げへの対応を要望
 この他、石破茂内閣総理大臣が衆院選後に補正予算案を策定する意向を示したことから、補助金や診療報酬など、あらゆる選択肢を含めて機動的に対応を講じることを要請。日本医師会では、医療分野の物価高騰・賃上げへの対応を求め、石破総理に首相公邸において面会し、加藤財務大臣や福岡厚生労働大臣、与党等にも要望するなどの活動を展開していることを報告した。

 松本会長は、「医療機関の経営状況は、コロナ以降、患者数が戻っていないことに加え、さまざまなコロナ補助金が廃止される一方、急激な人件費の増加、食材料費の高騰などによって非常に厳しく、このままでは地域医療が崩壊しかねない」と改めて懸念を示し、引き続き財政審における社会保障等の議論を注視して医療界の考えを発信していく姿勢を示した。

◆会見動画はこちらから(公益社団法人 日本医師会公式YouTubeチャンネル)

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる