女性医師の働きやすい環境作りは、すべての医師の働きやすさにつながる
~日本海総合病院 病院長 栗谷 義樹先生~(前編)

神﨑先生ご夫妻

今回は、自治体病院同士の統合再編の成功例として有名な日本海総合病院で、勤務環境の向上に向けて様々な取り組みを行っている、栗谷義樹先生にお話を伺いました。

女性医師が働きやすい環境を

三倉(以下、三):栗谷先生は、山形県と酒田市の2つの自治体が共同で設立した「地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構」の理事長として、2つの病院の運営をされています。医師の偏在が叫ばれるなか、機構の設立者である県と市、そして大学が三位一体となって、人材確保に取り組んでいるそうですね。

栗谷(以下、栗):当法人では、急性期病院である日本海総合病院と、回復期リハビリテーション病棟・療養病棟をもつ日本海総合病院酒田医療センターの2つの病院を運営しています。田舎なので、医師をはじめとした医療者の確保は喫緊の課題です。当法人は山形大学と東北大学の医局人事だけでなく、県と市が協力して幅広く医師を募集しています。

:人材確保のため、様々な施策を行っておられると思いますが、女性医師が働きやすい環境を整える取り組みにも力を入れていらっしゃると聞きました。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

:まず、短時間正職員制度を導入しています。これは、週の平均勤務時間が30時間を下回らなければ、すべて正職員として採用するというものです。就業形態は様々なパターンを用意しており、決まった就業時間さえ確保できれば、働き方は自由に選択することができます。正職員ですから、賞与や昇給ももちろん通常通りにあります。

:なるほど。この制度を活用すれば、育児や介護をしながらでもキャリアを積むことができますね。

:はい。例えば育児の場合では、小学校就学前の子どもがいる方なら全員短時間正職員制度を利用できます。他にも、育児特別休暇や院内保育所も設けています。院内保育所では、定時保育に加え、夜間保育や病児病後児保育も行っています。

:かなり手厚い支援ですね。

女性医師の働きやすい環境作りは、すべての医師の働きやすさにつながる
~日本海総合病院 病院長 栗谷 義樹先生~(後編)

人的資源の確保が重要

:現在、院内の女性医師の割合はどのくらいですか?

:常勤医師の総数が120名前後、そのうち女性医師が20名前後です。加えて、研修医が毎年25~28名ぐらいおり、そのうちの4割近くが女性です。研修医を含め、すべての女性医師が制度を利用できるようにしています。基本的に調整はせず、希望する就業形態をすべて許可するという方針で制度を運用しています。

:時短勤務を希望する医師にとっては、とても助かる制度ですね。しかし、全員が支援制度を利用することで業務が回らなくなったり、「時短勤務の医師が多くて、常勤医師にしわ寄せがくる」といった不満が出るようなことはないのですか?

:この制度が当院での就業ルールの最上位にあると認識してもらっているので、そういった不満はあまり聞きません。また、こういった制度は「医師の数の確保」のために非常に重要なのです。というのも、短時間勤務をしようとする側は、常勤医師に対して引け目を感じていることが多い。そんな状態で制度の利用が制限されてしまったら、その医師は一時的には勤務を続けられても、最終的には病院を辞めてしまうかもしれない。そうなるよりは、割り切って支援制度を運用し、医師の総数を確保した方が、結果的にすべての医師の負担が減るという考え方です。広い目で見れば、すべての医師の働きやすさにつながっているのです。各診療科の長にもそのように説明し、理解を得ています。

:ワーク・ライフ・バランスを保った働き方を実現する上では、まずは人的資源をしっかり確保することが重要ということですね。

:その通りです。そして、人的資源の確保のためには、経営状態を良好にしなければなりません。人的資源というのは、医師だけではありません。例えば代行入力者や補助者も、非常に重要な存在です。そういった人材を雇用する予算を設けることができないような病院では、人材が集まらないどころか逃げていってしまいかねません。逆に、予算をつける余裕ができると人は集まってくる。これは相互作用のようなもので、どちらかが欠けてしまうと、うまく機能しないものなのです。

医療の集約で経営に余裕を

:人的資源の確保が重要とはいえ、その予算を設けられるほどの経営状態を維持できる病院ばかりではないというのも事実なのではないでしょうか。

:そうですね。地方では少子高齢化に伴って急性期医療のニーズは減少していますので、過疎化が進む地域の医療機関などは、今後ますます経営が厳しくなることも考えられます。それならば、中小規模の病院が競い合うよりそれを集約化して、大規模な医療機関に機能を集約するのも有効な手段なのではないかと私は考えています。

実際のところ、私たちの運営する病院が安定経営を続けることができている大きな要因として、地方にしては病院の規模が大きく業務量が多いということが挙げられると思います。病院全体の業務量が多ければ、例えば時短勤務の医師に検査を専任で担当してもらい、診療報酬の加算を取るといった経営上の工夫ができます。

:なるほど、ある程度広域で連帯し、医療の機能を集約することで、経営を安定させることができるというわけですね。

地域の中小病院で医長が1~2人といった診療科では、女性医師が産休をとるだけで診療科が立ち行かなくなる…といった話もよく聞きます。医療を集約すれば、経営の維持に加えて、安定した医療提供体制を築くことができるというメリットもありますね。

:そうですね。これからは、「医師の働き方」は女性医師だけの問題と捉えるのではなく、地域の医療を担う医療機関と、そこで働く医師全体の問題として、もっと広い視野で捉えていかなければならないでしょう。医療を集約することによって経営を安定させ、人的資源に余裕を持たせることができれば、すべての医師が働きやすい環境の実現に近づくのではないかと私は考えています。

:そうして働きやすい勤務環境を整えれば、入職を希望する医師も増え、先生がおっしゃった人的資源と経営の相互作用もさらに強まりそうですね。

今日は病院経営の観点から、女性医師支援に留まらない奥深い話を伺うことができてよかったです。どうもありがとうございました。

語り手(写真左)
栗谷 義樹先生
地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 理事長
日本海総合病院 病院長

聞き手(写真右)
三倉 剛先生
日本医師会 男女共同参画委員会 委員
大分県医師会 常任理事
オアシス第一病院 院長

No.17