日本医師会の取り組み 新会長インタビュー

2020年6月に新たに就任した中川俊男日本医師会会長が、医学生から寄せられた質問に答えました。

中川(以下、中):私は若い頃から医療や社会の仕組みに問題意識があり、この世界を良くしていきたいという思いを持ってきました。30代で札幌市医師会役員選挙に立候補し、40代からは市医師会、北海道医師会、そして日本医師会の役員として活動してきました。これからは、日本医師会の会長として、覚悟を持って医療を取り巻く課題に取り組んでいきます。

まず、新型コロナウイルス感染症への対応と、その影響で危機に曝されている地域医療体制の維持は喫緊の課題です。また、医学生や若手医師に関わる課題としては、医師の偏在や医師の働き方改革、専門医制度などが挙げられます。これらが複雑に絡み合う状況のなかで、国民の信頼を得ながら、医師自身の自主性・自律性を高めつつ、最善・最良な施策を選択していかなければなりません。その中心的な役割を担うのが、医師を代表する組織である日本医師会です。

――ここからは、医学生から寄せられた質問にお答えいただければと思います。

Q1 私たちは入学式で、『君たちがベテランになる頃には医師が余る時代になる』と言われました。様々なテクノロジーも進化するなかで、これからの医療はどうなっていくのでしょうか。

:医師の養成にはおよそ10年かかります。そのため日本医師会では、10年後の我が国の姿に合った医師養成に関わる政策を、政府と共に考えてきました。

その立案にあたっては、AIやゲノム医療、ICTによる医療連携とデータベースの活用など、現在凄まじい勢いで起きている医療分野でのイノベーションを加味する必要があります。今後それぞれの分野がさらに融合し、次々と新たなアイデアが生み出されるでしょう。その恩恵が、国民の生命と健康を守るための、そしてすべての医師がいきいきと働けるための、大きな力となることを強く期待しています。特に、医師がAIをうまく活用することで時間的余裕が生じれば、医師は医師にしかできない仕事に、より多くの時間を割くことができるようになるのではないでしょうか。

Q2 私は受験で、縁もゆかりもない地域の大学を選びました。大学のある地域に愛着も湧いてきましたが、コロナ禍を経験し、地元に帰った方がいいのではという気持ちも出てきました。
いま、医療界では診療科や地域の偏在を防ぐために、若手医師の選択の幅を狭めることが検討されていると聞きます。地域医療を守ることと若手医師の生き方とのバランスは、どうなっていくのでしょうか。

:以前本誌で行った調査でも、診療科や地域の偏在を問題だと感じている医学生は過半数にのぼり、地域枠については肯定的な意見が多い一方で、法的な強制力によって自身の診療科・地域の選択肢が狭まることについては否定的な意見が多いという結果が出ました。

日本医師会では、この問題について、プロフェッショナル・オートノミーに基づき、医師が自律的に進路選択できることを大前提に議論に臨んでいます。もちろん、医師の偏在を解消するための手段を講じる必要はあります。しかし、強制的な手段を認めてしまっては、混乱や不公平が生じます。あくまでも医学生を含む皆さんの納得のうえで、地域の医師の将来需給データに基づき、偏在対策を進めるべきだと考えています。

Q3 医学生の中には「医師会=開業医の団体」というイメージを持っている人も少なくありません。メディアに出る方も年配の方が多く、「若者は蚊帳の外」という印象があります。医学生や若手医師と医師会の関係について、どのようにお考えですか。

:日本医師会員に占める勤務医の構成比率は49.8%*です。約半数の会員は勤務医であり、決して開業医の団体というわけではありません。

日本医師会の使命は、「国民の生命と健康を守ること」です。その使命を果たすためには、科学的・倫理的に正しいことを、きちんと主張し実現できるように、組織の力を高める必要があります。そのため日本医師会では、より多くの医師、特に勤務医・若手医師に医師会活動に参画していただくことが必要と考え、検討を重ねています。また医学生の皆さんには、我が国の医療制度やその問題点を考え、医師会への理解を深めてもらいたいという思いから、この『ドクタラーゼ』を発行しています。

医学生の皆さんは、将来私たちと共に働く仲間です。日本医師会は、皆さんのような若い方が発言・主張できる場を、できるだけ多く作っていくことが必要だと考えています。そして私は、年長者には「まずは同じ目線で若者の話を聴くように」と伝えています。主張する場が与えられず、何を言っても説教されるようでは、若い方たちが自分で考え、自分で動く機運が失われてしまいますからね。ですから、ぜひ皆さんが感じていることを、臆せず私たちに聴かせてください。そして、より良い医療と社会を、共に創っていきましょう。

*2019年11月1日現在

 

中川 俊男 日本医師会会長