EPISODE #04 在宅医療(前編)
岡山県 奈義町
岡山県奈義町は、鳥取県との県境に位置する人口6千人の山あいの町で、他の過疎地域と同じように、高齢化の進行・要介護認定者の増加といった問題を抱えている。若い世代は町から離れた市街地に住んでいる場合も多く、高齢者夫婦の二人世帯や単身世帯も多い。また町内に大きな医療施設がなく、入院が必要になったら町の外に行かなければならない。
家族で支える力が落ちてきている中、住民が住み慣れた地域や家で支え合いながら暮らせる町をつくるためにはどうしたらいいのだろうか?
問題と解決策
▶訪問診療などにより地域で医療を提供できる体制を作ろう
高齢になると外来通院は難しくなり、在宅医療が重要な役割を果たすため、まずはその体制を整える必要がある。また、本人や家族の考え、家族間の関係などにより、提供する医療の目標は変わってくる。しかし、医師の立場からでは、5~10分の外来や訪問診療でしか患者さんの様子がわからない。より患者さんに適した医療を提供するためには、訪問看護師や介護施設の職員から、患者さんとその周囲の情報を多面的に収集する必要がある。
▷3つのクリニックで協力して診療体制を築く
▷訪問看護ステーション・薬局・介護施設等との連携
この地域の医療を担う奈義ファミリークリニックでは、週に1回、訪問看護師や介護施設の職員を招いて、患者さんの状況を共有しあうミーティングを行っている。
▶困難な事例から逃げずに取り組むことで、チームの一体感や効力感を醸成しよう
単身世帯の高齢者の徘徊など、医療・介護の枠組みがそれぞれ独立して対応するだけでは問題解決に至らないような事例に対して、支援していけるようにする。
▷認認介護世帯・単身世帯への関わりを持つ
保健師であり、地域包括支援センターの職員でもある植月さんは、この地域の連携のキーパーソン。
▶医療・介護・福祉に関わる人たち同士の信頼関係を築こう
地域で医療・介護・福祉に関わる人たちが普段から定期的に会合を開き、顔を合わせることによって、いざというときに連携しやすい「顔の見える関係」を作り、信頼を深める。
▷職種を超えて医療・介護・福祉にかかわる人々が集まり、
問題について議論する「地域ケア会議」の開催
地域ケア会議には、奈義町で働くメンバーに加え、県の職員や実習中の医学生が参加したりもする。
EPISODE #04 在宅医療(後編)
岡山県 奈義町
患者さんの普段の生活の様子を知る
高齢になると足腰が弱り、サポートがなければ外来通院は難しくなるため、訪問診療などによって地域で医療を受けられる体制が求められる。だが、例えば終末期のがん患者と、脳梗塞後に肺炎を繰り返しながら徐々に体が弱っていく患者では、求められる在宅医療の形は違う。また数か月から年単位の経過の中で、本人の意向や家族の思いが変化したり、家族間の関係が変わったりする場合もある。このように、医療の目標はケースによって様々に変化するにもかかわらず、外来や訪問診療で医師が患者さんに接する時間は限られており、患者さんの様子や思いを知ることはなかなか難しい。そこで活用したいのが、訪問看護ステーションや介護施設などといった、普段から患者さんに接する職種が持つ情報だ。訪問看護師や介護施設の職員は、医師が診療する場では見ることのできない、患者さんの様々な背景を知っている。これらを共有することによって、患者さんにとってよりよい医療を提供することができるようになるのだ。
情報共有のミーティングを開催
奈義町の医療を担う奈義ファミリークリニックでは週に1回、訪問看護ステーション職員・介護施設職員・介護支援専門員を招き、医師・外来看護師・クリニック事務が情報共有するミーティングを行っている。受け持ち患者一人ひとりについて、普段の生活で気になる点や家族の状況などを話すことで、診療に反映させている。
「核家族化にともない、従来よりも家族の介護力は低下しています。家族が遠方に住んでおり、月に1~2回だけ見に来るけれどそれ以外は一人暮らしというような高齢者も少なくありません。こうした方々を少ないリソースの中でどう支えていくか、どうやっていいケアを提供するかというところは、医師が頭を使っていかなければならない部分だと思います。」(松下先生)
チームとしての力を高める工夫
認知症の夫を認知症の妻が介護しているといったような、いわゆる「認認介護」の世帯も少なくない。こうした世帯の場合、医療・介護・福祉に関わる様々な職種がそれぞれ独立して自らの役割を果たしているだけでは、問題が解決しない事例もある。奈義町では、敢えてこうした世帯の問題解決に職種を超えたチームで取り組むことによって、チームの一体感や効力感を醸成することを目指している。
「チーム医療と言っても、普段働く中では職種間でのバリアができてしまうものです。そこで、敢えて困難な事例にいろいろな職種を巻き込み、互いに話し合いながら取り組んでいくことで、『そうか、この人たちにはこんな実力があるんだな』と気づくことが狙いです。実際の事例を通して、チームとしての力を高めていこうという試みなのです。」(松下先生)
普段からの信頼関係を築く
このように、地域で医療・介護・福祉に関わる人たちが様々な場面でスムーズに連携できるようにするためには、普段から連絡を取り合い、顔の見える関係を築いていくことが重要である。
そこで奈義町では、地域包括支援センターが主催して、月に1回「地域ケア会議」を開催している。医師・訪問看護師・介護施設職員・介護支援専門員・薬剤師・管理栄養士など、地域の医療・介護・福祉に関わる人たちが定期的に集まって、毎回テーマを決めて議論を行っている。「男性高齢者の引きこもりの解消」「地域の認知症の方の見守り」などテーマも幅広い。それぞれが職種を超えて、町民目線で意見を交換することで、いざというときにも連携できる信頼関係が築けるのだ。
「地域がいきいきするのも、人がいきいきするのも、どちらもコツは同じなんじゃないかと考えています。それはすなわち、目標を持ち、仲間と励まし合い、役割を果たすということ。みんなが健康に暮らしていける町をつくるには、いろいろな人とつながりを持ち、お互いに話を聞いて、支え合っていくことが大事なんじゃないかと私は思っています。」(植月さん)
この地域の医療・介護連携の中心になっているのは、地域の高齢者の窓口を担う奈義町地域包括支援センター。センターの支援のもと、地域ボランティアによる介護予防活動も行っている。
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- 特集:多職種連携の現在と未来 日本医師会副会長・今村 聡先生に聴く
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