産業医の役割

労働者が健康で快適な環境のもとで
働けるようサポートします。

産業保健に求められる役割

みなさんは、医師としての働き方を考えたとき、産業医として仕事をするという選択肢を考えたことはありますか? あるいは、産業医という仕事に対して、どのようなイメージを持っているでしょうか。

日本医師会は、国民が生涯にわたって健康に過ごせるための医療・保健制度の充実を図っています。乳幼児期の母子保健、学齢期の学校保健に続き、産業保健は、労働者が健康で安心して働くことのできる職場づくりを支えるものです。この産業保健に関連して、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事を行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う役割を果たすのが産業医です。具体的な任務としては、産業保健の理念や労働衛生に関する専門的知識に精通して労働者の健康障害を予防することや、労働環境を整備することなどにより、労働者の心身の健康を保持増進することを目指した活動を行うことです。

では、産業医は実際どのような現場で働いているのでしょうか。労働安全衛生法によると、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医を選任する義務があり、常時1千人以上の労働者を使用する事業場と、有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場には、専属の産業医を選任する義務があることが定められています。

1996年、産業医の専門性の確保という観点から労働安全衛生法が改正され、産業医として働くためには、厚生労働大臣が定める研修を修了するなど法令に定められた要件を満たすことが必要となりました。

法改正の際、厚生労働大臣が定める研修として、日本医師会が1990年に創設した「日本医師会認定産業医制度」に基づく基礎研修(50単位)が指定され、法定要件のひとつとして定められました。日本医師会認定産業医制度では、所定のカリキュラムに基づく基礎研修を修了し、申請した医師に日本医師会認定産業医の称号を付与しています。また、認定産業医の質を維持するとともに時代の変化に対応するため、 5年ごとの更新制度を設けています。

現代の産業医に求められること

高度経済成長期は、有機溶剤中毒や鉛中毒などの職業病が主でした。一方、近年の産業保健では、産業医の職務範囲は、より広がりつつあります。過重労働による脳・心臓疾患や、心理的負荷によるメンタルヘルス不調が増加してきており、産業医にはこれらの問題への対応が求められているほか、喫煙対策やセクハラ・パワハラ問題対策なども職務に含まれるようになっています。産業医は、自身の専門にかかわらず、産業保健に関する幅広い知識を身につけることがますます必要とされています。

「労働安全衛生法が改正されるより前から、地域の診療所の先生が、その地域の中小企業の労働者の健康に関して相談を受けるようなケースはあったと思います。同じように、現在の厚労省の枠組みの中でも、地域に根づいた産業医が増えていくことが望ましいです。小さな事業場には専属の産業医がいないために産業保健が手薄になりがちですが、地域の中の労働者と顔の見える関係のもとで、労働者の健康管理や職場環境の整備に携われる産業医が増えてくれればと思っています。」(道永麻里常任理事)

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