医師のみなさまへ

母子健康手帳の開発と普及に関するWMA声明

(日本医師会訳)
THE WORLD MEDICAL ASSOCIATION, INC.
WMA STATEMENT ON THE DEVELOPMENT AND PROMOTION
OF A MATERNAL AND CHILD HEALTH HANDBOOK

  • 2018年10月
    WMAレイキャビク総会にて採択

序文

世界医師会(WMA)は、母と子の健康と福祉の向上のために、母子への継続ケアと家族のエンパワメントの双方が必須であると認識している。妊産婦死亡率と乳児死亡率の減少は、MDGsの重要な目標であった。「持続可能な開発目標SDGs」においても、妊産婦死亡率、新生児死亡率、5歳未満児死亡率の減少は、重要な達成目標である。

MCHハンドブック(以後、母子手帳)は、母子の健康情報を記載するように設計された包括的な家庭向けの小冊子であり、母子の総合的な健康記録を含んでいる。母子手帳は、妊娠、出産、新生児および幼児期の健康記録と情報、さらには子どもの成長と予防接種の情報をカバーしている。そして、妊産婦、新生児、子どもへの保健サービスの統合も支援している。母子手帳の役割は健康教育だけではない。女性や家族に手帳の使い手としての当事者意識を生み出す役割をももたらすものである。

1948年、日本は母子の健康と福祉を守るために母子健康手帳を作成し配布した世界で初めての国となった。

現在、母子手帳は、世界の約40か国で、個々の文化や社会経済状況をそこに反映しながら活用されている。多くの国には、母子保健に関連するさまざまなハンドブックや教材がある。その中で、母子手帳は、母子の健康問題に関する母親の知識を向上させ、妊娠、出産、産後期間の行動を改善することに貢献している。

母子手帳は、継続ケア強化の手段として使用することにより、妊婦、新生児、子どもの健康を向上させることができる。医師は、母子手帳に記録された患者の病歴および健診情報を参照することにより、より良いケアの決定を行うことができる。ただし母子手帳だけで、健康指標を改善できるというわけではない。女性と子どもが手帳に記録された情報に基づいて、適切な医療サービスを受けることによって、最大の利益を受けることができる。母子手帳のそのような利益は、地球規模で共有することができる。

日本では、電子母子手帳が徐々に普及している。電子手帳利用の際は、患者の健康情報の機密性保護に留意すべきである。私立の幼稚園の小学校の中には、入学手続の一環として母子保健関連情報を要求するところがある。それが圧力として作用し、両親や医師が母子手帳に記載すべき内容を捻じ曲げてしまうこともある。

勧告

1. 世界医師会(WMA)は、構成会員としての医師会が保健当局(厚労省など)と各保健機関に働きかけ、母子保健関連情報を入手しやすく、かつ分かりやすくなるように提供してくれるようにしてもらうことを勧告する。母子手帳またはそれと同等のものは、母、新生児および子どもの継続性ケアを改善し、かつヘルスプロモーションにも役立つ重要なツールとなり得る。
2. WMAは、構成会員としての医師会と医療専門職が、個々の現場の環境に適応させながら、母子手帳またはそれと同等のものを利用するように勧告する。SDGsにあるように、誰一人取り残されないよう、特に非識字者、移民家族、難民、少数民族、行政サービスが十分届かない人々や遠隔地の人々のためにもこの手帳や同等のものが使われるべきである。
3. 母子手帳あるいは同等のものをデジタル形式または印刷形式で使用する場合は、個々の健康情報の機密性を確保し、母と子のプライバシーを厳重に保護する必要がある。母子手帳は、母、新生児、および子どもの健康と福祉を向上させるためにのみ使用されるべきである。学校の入学手続きの際に使用すべきではない。
4. 構成会員としての医師会は、現場で母子手帳またはそれと同等のものを利用した際、その効果を評価するための研究を推進すべきである。そして、現場におけるケアの質向上のために研究成果に基づいた提言をすべきである。

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