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平成28年(2016年)1月5日(火) / 日医ニュース

年頭所感

年頭所感

年頭所感

 明けましておめでとうございます。会員の皆様におかれましては、健やかに新年をお迎えになられたこととお慶び申し上げます。
 昨年は医療界においてさまざまな動きがありました。まず、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、国民が将来にわたって必要とする医療・介護を過不足なく受けられる社会を構築するため、各地域で地域医療構想の策定に向けた具体的な取り組みが始まりました。
 日本医師会といたしましても、行政と協力して「かかりつけ医」を中心とした多職種連携による、各地域に即した「まちづくり」を推進してきたところでありますが、地域とのつながりが薄れ、高齢者の孤独死が社会問題となっている昨今、地域に根ざした「かかりつけ医」の存在が、高齢者の尊厳を保ち、住み慣れた地域でいつまでも健康に過ごせる社会を実現するカギであると確信しております。これを土台として、生活習慣の改善対策や各種健診などの生涯保健事業を体系化し、健康寿命の延伸を目指して、時代に即した改革を進めていかなくてはならないと考えております。
 この「健康」をキーワードとした取り組みが、見受けられるようになりました。昨年7月に発足した「日本健康会議」もその一つです。経済団体、保険者、自治体、医療関係団体などのリーダーが集まり、健康寿命の延伸とともに今後の高齢化に比例して増加する医療費の適正化を図ることを目指すものであり、先進的な予防・健康づくりを全国に広げるために組織されたオールジャパンによる取り組みであります。
 また、塩崎恭久厚生労働大臣の私的諮問機関である「『保健医療2035』策定懇談会」からは、将来を見据えた保健医療政策のビジョンとその道筋を示すための提言が発表されました。メンバーの平均年齢が40代という若い方々が医療と介護の本質を踏まえながらも将来を見据え、健康増進や地域づくり、更には保健医療システムの持続と国際的な貢献など、多岐にわたる意見を述べております。私も、アドバイザーとして参加いたしましたが、全てが実現できるわけではないとしても、既存の枠にとらわれない柔軟な発想のまぶしさと貴さを実感いたしました。
 昨年9月には、アジア大洋州医師会連合(CMAAO)ミャンマー総会に出席いたしました。各参加国においては、それぞれが独自の歴史的な背景を有しております。カンボジアでは大量の虐殺が行われ、ベトナムではアメリカと長期間にわたって戦争が繰りひろげられた歴史があります。一方、ミャンマーでは社会主義の独裁政権から、現在、民主国家に変わろうとしています。こうした国々の方々が、口を揃えて述べております。「保険制度がないので、病気の時に医療にかかれないのがとても不安である」と。私は会議を通じ、彼らは総じて勤勉であることから、医療体制が整い、国が安定さえすれば、経済発展を実現できると確信すると同時に、わが国の国民皆保険の素晴らしさを再認識いたしました。また、ミャンマー政府とミャンマー医師会との懇談の場においては医療体制に関する相談を受け、日本医師会として今後、ミャンマーにおける国民皆保険の導入や医療人材の能力開発に協力していくと申し上げたところであります。
 世界に誇るべきわが国の国民皆保険は、戦後、まだ発展途上であった1961年、生活のインフラ整備のための相互扶助による保険制度として確立されたものであります。決断された当時の政治家、経済界、労働界のリーダーの方々のご労苦に思いを馳せると、その先見の明に頭が下がる思いです。当時の人口は約9500万人。以後、高度成長も相まって増え続けることになります。すなわち、それ以降の医療政策については、人口増加と経済成長の時代を背景として議論が展開されてきたわけであります。
 わが国の人口は2008年前後の約1億2800万人をピークに減少に転じており、2050年頃には1961年当時の水準にまで減少するとも言われております。世界中のどの国にも先立ち、少子高齢化に伴う人口減少社会を見据えた医療政策は避けられず、過去の経験にばかり頼ってはいられません。何よりも、その時代を生きていくのは、紛れもなく私どもの子や孫の世代です。これらの世代に負の遺産を背負わせないためにも、我々の世代で道筋を立てておかなければなりません。
 昨年10月、前年に引き続き、わが国にノーベル賞受賞者が誕生いたしました。特にノーベル生理学・医学賞の受賞は、利根川進教授、山中伸弥教授に続く3人目の快挙であります。近年、世界を震撼させたエボラ出血熱の感染拡大や韓国で蔓延したMERSなど「感染症に国境はない」と言われている中で、「グローバルヘルス」と呼ばれる全世界的な保健医療に関する課題解決が大きく注目されております。今回の大村智教授の受賞は、「超高齢社会における医療」という未知の領域を切り開き、それを世界に発信していかなければならないわが国に対する最上のエールに思えてなりません。
 世界一の長寿国であるわが国が、健康寿命においても世界一であることが、昨年8月、英医学誌『ランセット』で発表されました。そのベースにある国民皆保険という貴重な財産を、地域医療提供体制を維持する基本的な仕組みとして守り抜き、次の世代に引き継いでいくことこそ、我々世代に課せられた責務です。
 日本医師会は「国民と共に歩む専門家集団」として、世界に冠たるわが国の国民皆保険を堅持し、国民の視点に立った多角的な活動によって、真に国民に求められる医療提供体制の実現に向けて、本年も執行部一丸となって対応して参る所存です。
 会員の皆様方の深いご理解と格段のご支援を賜りますようお願い申し上げ、年頭のごあいさつといたします。

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