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平成29年(2017年)4月5日(水) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

『かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き』の活用を求める

 鈴木邦彦常任理事は3月8日、記者会見を行い、日医がこのほど作成した『かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き』(以下、『手引き』)の内容について説明。今後、かかりつけ医の先生方が、診断書の作成に関わることが多くなることが予想されるとし、「その際にはぜひ、この『手引き』を活用して欲しい」と呼び掛けた。

 改正道路交通法が3月12日に施行されたことに伴い、免許更新時に受けた認知機能検査によって、認知症の疑いのある「第1分類」と判定された75歳以上の高齢者は全て、臨時適性検査または医師の診断書の提出が必要になった。
 全国では、「第1分類」に判定される高齢者が年間5万人を超すことが予想されることから、日医ではかかりつけ医による診断書の作成の参考となるよう、粟田主一東京都健康長寿医療センター自立促進と介護予防研究チーム研究部長、篠原彰静岡県医師会長、瀬戸裕司福岡県医師会専務理事、渡辺憲鳥取県医師会副会長らをメンバーとする作業委員会を設置して、今回の『手引き』を取りまとめ、3月1日開催の都道府県医師会介護保険担当理事連絡協議会別記事参照で公表。その後、全文を日医ホームページに掲載している。
 『手引き』は、全4章で構成、第1章では、かかりつけ医が診断書作成の依頼を受けた場合の対応について、フローチャートなどを提示(図)。第2章では、都道府県の公安委員会に提出する診断書を作成する上での留意点、改正道路交通法のポイントに加え、警察庁より提示されたモデル診断書や診断書記載ガイドラインを掲載している。
 また、第3章では、実際に診断書を作成する場合の参考となるよう、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、軽度認知障害の3つのモデル事例を取り上げ、記載例を示している他、第4章では認知症と診断された高齢者が、運転免許の取消しや停止などの行政処分を受けた場合の、かかりつけ医に求められる対応についてまとめている。
 『手引き』の内容を説明した鈴木常任理事は、「今回の改正により、かかりつけ医もこれまで以上に診断書を作成する機会が増えることが予想されるが、診断書作成の際には、この『手引き』を参考にして欲しい」と呼び掛けるとともに、法施行後も現場に問題や混乱が生じる可能性もあることから、引き続き、警察庁、厚生労働省などの関係省庁とも協議を継続していく意向を示した。
 記者との質疑応答の中で、同常任理事は、診察・検査費用に関しては、「認知症の疑いのある方の受診であり、厚労省とも協議を行い、保険請求できることになっている」としたが、診断書の発行に係る費用については保険請求できないとした。
 診断書を書くことについて、医療現場から不安の声が上がっているとの指摘に対しては、「今回の『手引き』では、少なくとも1年以上定期的に診察を行っており、患者の心身の状態、生活状態を、可能であれば家族からの情報も含め、よく把握できている患者に対して、診断書を書くことを求めている。診断しにくい場合には、専門医療機関を紹介して欲しい」と述べ、理解を求めた。
 診断した患者が交通事故を起こした場合の医師の責任に関しては、「適切な判断をしていれば、通常刑事責任を問われることはないことを警察庁と確認している」と説明した。
 また、会見に同席した松原謙二副会長は、「かかりつけ医が、本人、家族とよく話し合うことで免許証を自主返納してもらうという方法もある。車がなければ生活できない地域もあり、免許を失った人を支援していくことも必要であるが、その役割を担うのも、かかりつけ医であると考えている」として、協力を求めた。

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※1:少なくとも1年以上定期的に診察を行っており、患者の心身の状態、生活状況を、可能であれば家族からの情報も含め、よく把握できている患者。また、認知機能の障害について、患者自身にもよく説明し、理解を求めることが重要である。(⇒※5②参照)

※2DATのように、緩徐に進行する認知機能の低下が、日常の継続的な診察で確認される場合、臨床所見とともに受診時の認知機能検査(HDS-R、MMSE等)の点数を総合して診断を行う。患者が承諾すれば、他の医療機関に保険診療として画像検査を依頼し、その所見を加えてもよい。

※3:認知症としての診断を行う場合、患者に検査結果が良くないことを伝え、診断書の提出によって、公安委員会の審査で免許証の更新が認められない可能性が高いことを説明する。その際、患者から免許証の更新を断念する旨の申し出があった場合、診断書を作成しないで、運転免許証更新の手続きの取り下げを指導するのも一法である。
 境界域の患者をMCIと診断することも可能である。この場合、免許証の更新は認められるが、半年後に再検査が求められる。

※4臨床所見、家族からの本人の生活状況の情報を総合しても認知症とは判断しにくいが、HDS-R、MMSE等の点数が著しく低いケース、また、これらの点数が高いが、人格変化、行動の障害が目立つ、幻覚妄想症状がみられる、躁状態またはうつ状態を伴っている、一過性の意識障害のエピソードがみられる等のケースは、専門医療機関で診断を受けることを勧める。
 紹介受診に同意が得られない場合、専門医療機関の受診方法につき警察の運転免許担当部局に相談する。

※5:①全くの初診、または、極めて不定期の受診で、病状、生活状況の把握がほとんどできていないケースについても、本人及び家族が診察に対して協力的で、十分な診察を行うことができれば、HDS-R、MMSE等を実施の上で、家族等から日頃の生活状況を確認の上、総合的に診断を行ってもよい。
 ②一方、認知症が強く疑われるも、認知機能低下を強固に否認する、または、認知症ではない旨の診断書発行を強く求めるケースについては、極めて慎重な対応が求められる。これらのケースにおいては、診断書作成に係る診察、検査を保険診療で行うこと自体が適切でない場合もある。この場合、専門医療機関の受診方法につき警察の運転免許担当部局に相談する。
 また、患者の求めに応じて、医学的根拠なしに、認知症ではない旨の診断書を作成することは厳に慎まなければならない。

※61回の診察のみで、しかも普段の生活状況とその障害の有無、更にこれらの継時的推移について、家族等からの情報が全く得られないケースにおいては、専門医療機関で診断を受けることを勧める。紹介受診に同意が得られない場合、専門医療機関の受診方法につき警察の運転免許担当部局に相談する。
 臨床所見、認知機能検査、家族等からの情報を総合しても、診断が困難な場合も同様である。

緑色部分は診断・医学的判断、 青色部分は患者への対応についての留意点

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