
地域包括ケアを支える取り組み SCENE03
在宅医療を支える(福岡県宗像市)(前編)
医師に必要以上の負担がかかることなく、在宅医療を継続して提供するための取り組みとして、福岡県にある宗像医師会の取り組みを紹介します。

自宅のベッドを病室にする
地域包括ケアシステムには、「最期のときを自宅で過ごしたい」という要望に応える仕組みも求められます。しかし、終末期には痛みや呼吸などに関して医療的な管理が必要なため、設備や人員が整わない自宅で最期を迎えるには、そのための体制を整えなければなりません。ここでは、在宅看取りの体制整備が進んでいる、福岡県宗像地区の事例を紹介します。
病院と違って当直体制のない在宅医療では、かかりつけ医に24時間対応が求められがちです。その負担ゆえか、宗像地区も在宅医療を担う医師が足りないという問題を抱えていました。そこで宗像医師会では、こうした医師のために連携などのバックアップ体制を構築しました。普段から在宅患者の診療情報を共有して夜間や不在時に代診できる仕組みを作り、緊急時に優先的に受け入れるベッドを医師会病院に整備しました。また、医師会立の訪問看護ステーションは24時間のオンコール体制を敷き、夜間は訪問看護師が初期対応し、必要に応じて医師に連絡するという体制を築いています。また、がん終末期の在宅緩和医療に対応できるよう、地域の薬剤師会と連携して、24時間いつでも訪問薬剤管理ができる体制も整備しました。
これからは、地域全体がひとつの病院のように機能し、自宅のベッドが病室となって必要な医療を受けながら暮らすような仕組みが求められます。そのために、かかりつけ医・訪問看護師・薬剤師・病院勤務医などが、互いに情報を共有し支え合って在宅医療の体制を整えるという形も、地域包括ケアの一つのありかたなのです。
訪問看護師とは
疾患や障害がある方が住み慣れた地域や家で暮らせるよう、一人ひとりの住まいに訪問して看護をします。患者さんとその家族に対して、身体面だけでなく精神面のサポートも行います。

地域包括ケアを支える取り組み SCENE03
在宅医療を支える(福岡県宗像市)(後編)
訪問看護ステーション
宗像地区で在宅看取りに対応した訪問看護の体制作りや訪問看護師の育成に関わる、宗像医師会立訪問看護ステーションの管理者、阿部久美子さんにお話を伺いました。
「当ステーションでは、がん末期の患者さんなど、在宅での看取りに力を入れています。終末期のケアや看取りに不安を抱く訪問看護師も少なくないのですが、当ステーションでは終末期に注意すべき医療的観点や、ご家族に伝えるべきことを記したチェックリストを作成し、どの看護師でも対応できるように工夫しています。例えば、亡くなる1週間ほど前になると、だんだん声が弱くなり、食事がほとんどできなくなります。こうした段階になったら、看護師がチェックシートを記入していきます。チェックシートには、いつの段階でどのような対応・説明をするべきか明記されており、それを参考に看護師はケアを行うのです。ご家族に連絡をし、自宅で看取るかどうか、救急車を呼ぶかどうかなどの意思決定をしてもらい、ご家族に介護疲労や動揺があればそのケアも行います。ご家族には、臨終に向かう際の身体の変化や、ご家族にできることなどを記したリーフレットをお渡しします。亡くなる3日前ぐらいになったら、医師に連絡してスケジュールを確認します。そしてご家族には『呼吸が止まったときには、慌てずに訪問看護にご連絡下さいね』とお伝えします。訪問看護のニーズが高まるなか、訪問看護の経験にかかわらず、誰が受け持ってもきちんと看取りを行うことができるような工夫をと思って取り組んでいます。」
看取りの前にご家族にお渡しする書面より(抜粋)
これからのこと ~癒された日々でありますように~
(略)少しでもご家族の方が落ち着いて、介護にあたる事ができるように書かせていただきました。
ここに記したことが、すべておこるとは限りませんが、私たちの長年の経験、知識によるものです。
(略)
*ご家族にできる事
手足が冷たい、唇の色が悪い…暖める、手を握る、足を擦る等
呼吸が不規則になる…顔をなでる、胸を擦る
*ご家族にしかできない事
思い出を語る
これまでの感謝の言葉を述べる
これからの生き方を伝える
少ない提案ですが、ご参考になれば幸いです。
在宅医が安心して診療できる体制を整える
宗像地区では、在宅医療を担う医師が少ないことが課題となっていました。そこで宗像医師会では、在宅医療に安心して取り組める体制を整えるため、医師同士の事例検討会・交流会などを通じて、ルールづくりを行いました。
まず、一人診療所で在宅医療を行う医師の負担を軽減するために、医師同士が情報を共有する「在宅用診療情報提供書」のフォーマットを作成しました。これによって代診をお願いすることがスムーズになり、在宅医が休息をとったり、学会のために外出したりすることが可能になりました。 また、緊急時の受け入れベッドを確保するため、患者さんに了承を得たうえで、医師会病院を受診したことのない患者さんの情報も医師会病院に事前に登録できるようにしました。これによって在宅医は、いざというときでも医師会病院が引き受けてくれるという安心感を持って診療にあたることができるようになりました。
さらに、医師が在宅医療に臨む際のマニュアルとして「在宅支援ネットワークマニュアル」を作成し、代診の依頼、緊急時の受け入れ、薬剤や医療・衛生材料の供給、在宅がん治療などについて明記しています。
薬剤師による24時間の対応体制
宗像地区では薬剤師会によって、訪問薬剤師が当番制で24時間365日対応することのできるネットワーク「宗薬ネット」が構築されています。これによって、疼痛緩和に必要な麻薬などをいつでも供給できるようになりました。医師が処方せんをFAXすると、それを受けて訪問薬剤師が患者さんの自宅まで薬剤を届けます。




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- 医師への軌跡:近藤 豊先生
- Information:April, 2015
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- 特集:地域包括ケアシステムとは
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- 特集:対談 地域包括ケアを担う一員として医師に求められることとは?
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- 同世代のリアリティー:自治体で働く 編
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