10年目のカルテ

地域で幅広く、たくさんの患者さんを助けたい

【消化器内科】長島 多聞医師 (西群馬病院)-(前編)

治療を任された経験から

長島先生

――消化器内科に進むことは、早くから決めていたのですか?

長島(以下、長):初期研修を始めた時点では、内科に限らず広く興味があって、何科に進むか迷っていました。ただ、専門分野を絞ってそれを突き詰めるというより、病院にやってくる様々な患者さんを幅広く診られる医師になりたいという思いはあったように思います。目の前の患者さんをどうにかして助けたという実感が持てるという理由で、救急に惹かれていたこともありました。

――転機はどこにあったのでしょうか。

長:浅間総合病院で働いていた初期研修2年目頃、たまたま消化器内科に肝臓を診る医師が在籍しておらず、肝炎などの治療の大部分を自分が任されるという機会がありました。このときの経験がきっかけになって、消化器内科を志すようになったんです。まだ経験の浅い時期であったにも関わらず、責任を持って患者さんを引き受けなければならない立場に立たせてもらえたことで、助けを必要としている患者さんの姿を、自分のなかでくっきりと描くことができたのだと思います。そして、ここにいる患者さんを助けるために、消化器内科という分野で専門性を身につけるのもいいのかもしれないと考えました。

後期研修では引き続き浅間総合病院に勤務し、一部の患者さんの主治医を担当させてもらいました。もちろん問題があれば上級医に軌道修正してもらえますが、基本的に、治療の大枠は自分が提案します。初期研修の頃よりさらに責任ある立場で患者さんと接するうちに、消化器内科医として技術を身につけなければならないのはもちろんのこと、いずれは全身を診ることのできる医師になりたいという思いを強くしました。

そして、群馬大学の第一内科に入局し、専門分野として肝臓を選びました。消化器内科医として、消化管だけでなく肝臓の治療ができなければならないと思ったほか、肝臓という高機能な臓器に詳しくなれば、全身についての知識も増やすことができると考えたためです。

 

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地域で幅広く、たくさんの患者さんを助けたい

【消化器内科】長島 多聞医師 (西群馬病院)-(後編)

消化器全般を網羅的に診ること

――入局後に3つの病院を回っていますが、そこではどのような経験を積まれたのでしょうか?

長:3か所とも大規模病院だったので、私は肝臓のがんに特化して治療を行っていました。肝臓がんに集中してたくさんの症例を診たことで、力がついたと感じています。

特に3か所目の前橋赤十字病院では、自分の技術を確かに向上させることができたという実感がありました。ここではカテーテル治療を数多く行ったのですが、似た治療を何度も繰り返すことで、完成度を少しずつ上げていくことができたと感じています。薬剤の量や操作の面など、細かいところで試行錯誤を繰り返すことで、だんだんと治療の精度を上げていくことができるんです。治療の助手として入ってくれた医師と、治療が終わるたびに振り返りのディスカッションを行ったことも、スキルアップに大いに役立ったと思っています。

――現在はどのような働き方をされているのですか?

長:西群馬病院では、肝臓に限らず、消化器のがん全般を診ています。10年目近くなって、治療のほとんどは任されるようになりましたし、自分でも一通りのことはできるという自信がついてきたように感じています。

もちろん、自分の力だけで何でも解決できるわけではありません。例えば、消化器だけでなく複数のがんにかかっている方の場合などは、他科の医師へのコンサルトが必要になるので、自分で調べてわかることは勉強して、「こういう治療方針を考えているけれど、どうでしょうか?」と相談しています。

学生時代は興味を持てなかったような分野についても、目の前に患者さんがいると学ぶ必然性が生まれますし、どう役に立つのかということが目に見えるので、勉強していても面白いと感じますね。

地域の患者さんのそばで

――今後のキャリアについては、どのように考えていますか?

長:地域で働くことは私にとって非常に面白いので、これからも地域で医師を続けるつもりです。都会だと病院は専門分化していますが、ここには多種多様な患者さんがやってきます。様々な患者さんと関われるのは、地域医療の魅力だと思います。

消化器内科には、高度に専門的な技術を必要とする、達人技のような治療もあります。もちろんそういう治療もできるに越したことはありませんが、私は、専門技術は達人に任せるという考え方をとるのもいいのかなと思っています。やってくる患者さんをまず診て、必要に応じて専門的なところにつなぐという立ち位置の方が、自分には向いているように思うんです。むしろ、消化器に関係ないことでも、患者さんに医療に関することを聞かれたとき、わかりやすく答えられるような医師でありたい。患者さんにとっての医療の入り口に立っているような、そんな存在でありたいと思っています。

長島 多聞
2006年 岩手医科大学卒業
2015年4月現在
西群馬病院 消化器内科

No.13