先輩インタビュー【小児科】西村 玲先生(前編)
専門医は、日常診療の積み重ねの延長線上にあるものだと思います
小児科専門医を取得するまで
――先生は、現在の臨床研修制度が始まる前の世代ですが、専門医を取るまでのキャリアはどのようなものでしたか。
西村(以下、西):私は鳥取大を出て、そのまま小児科に入局しました。最初は大学の小児科病棟で、様々な分野を回りながら経験を積むのですが、私は2年目に結婚して出産したので、数か月のブランクがありました。
――今で言うと、研修医のうちに結婚・出産をされたという感じですね。
西:そうですね。同期もみんな頑張っているなかで、自分がいったん休むのには焦りもあって、産後2か月で復帰しました。幸い、私も夫も地元の出身で、それぞれの親に頼ることができたのは助かりました。
次の年、つまり3年目には市中病院に出ることになり、小児科医が上司と私しかいないという環境に移りました。重症患者さんが多い所ではありませんでしたが、当直は常に私、というような状況でした。4年目から勤務した米子医療センターは、医師数も症例も充実していて、ここで臨床医としてずっと働いても良いなと思ったりもしたのですが、大学で専門の勉強を深めることも必要ということで、第2子を妊娠した頃に大学に戻ったんです。
――先生は、卒後6年目に日本小児科学会の専門医を取得されていますね。
西:はい。小児科専門医の取得には、5年の臨床経験が必要なので、周囲の医師もその頃に取得していたと思います。小児科に入局後、自然と目標になるのが小児科専門医という感じでしたね。専門医を取得したのは、米子医療センターで働いていた2007年のことでした。小児科専門医の必須症例には、先天性疾患や代謝異常等の難しい病気も入っているので、大学病院等の大規模な病院で勤務する期間も必要です。私の場合は大学で1年強働き、その後市中病院で勤務し、必要な症例を揃えることができました。
――一般的には、小児科専門医の取得のために必要な症例数は、どうやって経験することになるのでしょうか。
西:専門医を取得するためには、その分野について広く診断から治療までできるところまでが求められるため、ある程度幅広い症例を診る必要があります。鳥取大学の場合だと、2年間の臨床研修を経て入局したら、まずは入院患者さんの受け持ちをして、診断・診察・検査・治療を指導医と一緒に行います。後期研修医になると、色々な医師と組んで、さらに幅広い症例を診ることになります。
先天性疾患や代謝異常等の難しい病気も必須症例に入っているので、大学病院での勤務は必要になると思います。私の場合、大学病院と関連病院、市中病院と、1年ごとぐらいのペースで異動がありました。
先輩インタビュー【小児科】西村 玲先生(後編)
専門分野を選ぶ
――先生は最近、内分泌学会の小児内分泌専門医も取得されたとのことですが、小児科の中でのサブスペシャルティは、どのタイミングで、どのように決めたのでしょうか。
西:私の場合は、何かを専門で極めたいというよりは、必要とされる分野で患者さんの役に立ちたい、という思いでしたので、専門分野に関しては、勧められた分野を選んだという形です。結果的には、内分泌は長期入院になるような重症例が多くはないので、子育てをしながら大学での診療を続けるには良かったと思っています。
周囲を見ていると、最初から「自分はがんをやりたい、循環器をやりたい…」など、専門にしたい領域を決めている人もいますが、実際の診療をやっていくうちに、興味がある分野が見えてくるという人も少なくない印象です。どちらにせよ市中病院では様々な分野の疾患を診ることになりますし、当直などで急性期を診ることもあるので、特に感染症や呼吸器疾患などは専門分野を問わず押さえておかないといけません。
――海外の学会で小児内分泌分野の発表もされていると伺いました。
西:教授が「海外で経験を積んだほうがいい」という方針で、私も2回ほどアメリカの内分泌学会で発表する機会を頂き、先天性の小児疾患の症例を報告しました。私は臨床志向で学位も取っていないのですが、研究を熱心にされている先輩が遺伝子や機能の解析を手伝ってくださり、教授にもご指導いただいたことで、貴重な経験ができました。
ずっと診療を続けていきたい
――3人目のお子さんは2012年生まれとのことで、子育てから手が離れるまでまだ時間がかかりそうですが、これからどのように働いていきたいか、長期的なビジョンはありますか?
西:とにかく、ずっと診療は続けていきたいと思っています。難しい病気でもコモンディジーズでも関係なく、患者さんや家族に「先生が担当で良かったです」と言ってもらえるような医師でありたいです。担当する患者さんや家族の求めがあったら、できるだけ自分でそれに応えたいんです。
――そのためには、周囲のサポートは重要になりますよね。
西:3人目を産んだ時には9か月ほど休みをいただいたのですが、私は仕事をしていないとダラダラ過ごしてしまうんです。家事も育児も自分中心で支えるのは大変でもありますが、仕事で必要としていただいている以上は、責務を果たしたいと思っています。しかし、結局どちらも中途半端になってしまい、もどかしく思うこともあります。夫の仕事が多忙なので、もう少し子育てのサポートを得られたらいいなと思うことが多々あります。
――先生は現在、卒後臨床研修センターで研修医の担当もされているそうですが、学生や研修医から、働き方やライフイベントの時期に関する相談をされた時には、どんな風に答えられていますか?
西:学生や研修医に「いつ結婚したらいいですか」というような質問をされることはあります。けれど私自身も、学生の頃に考えていたような時期に結婚・出産をしたわけでもありません。あまり考えすぎなくて良いのではないか、というのが正直なところです。
新たな専門医の仕組みだと、6か月以上休むと最短の3年での専門医取得ができなくなるんですよね。だから、特に女子学生・研修医は、結婚や出産のタイミングが気になっているのだと思います。けれど個人的には、最短で専門医を取得することに、あまりこだわる必要はないんじゃないかなと思います。もしその間にライフイベントがあったのだったら、そのときに必要なだけ休んでしかるべき時に再開すればいいと思いますよ。
これは私の経験に基づくことですが、専門医を取得する前と後とで、何かが大きく変わるわけではありません。専門医の取得は、日常診療の積み重ねの延長線上にあるものだと思っています。学生の皆さんには、専門医は、そこを目指して何か特別に頑張らないといけないようなものではないですよ、とお伝えしたいですね。
西村 玲
鳥取大学医学部 小児科 助教
2002年 鳥取大学医学部卒業
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