医学生 × 1型糖尿病の皆さん
同世代のリアリティー 番外編

1型糖尿病 編(後編)(1)

このコーナーでは医学生が、別の世界で生きる同世代のリアリティーに触れる座談会を行ってきました。今回は番外編として、慢性疾患と共に生きることのリアリティーを探るべく、1型糖尿病の皆さん3名と医学生3名によるセッションをお送りします。
同世代

今回のテーマは「1型糖尿病」

1型糖尿病は若年者の発症が多い疾患です。今回は、20代から40代までの1型糖尿病の皆さんと医学生が語り合いました。内容が盛りだくさんのため、2回シリーズでお伝えします。

医大生としてできること 研修医としてできること

中安(以下、中):私たちはまだ実習が始まっていない学年なんです。疾患のことは一通り学ぶんですけど、どうしても教科書の中の話としてしか理解することができなくて。

岩住(以下、岩):それに、実習が始まったとしても、医学生にできることは限られているんです。だから、どうやって患者さんと関わっていけばいいのか、想像がつかないというのが、今の率直な気持ちです。

藤田(以下、藤):学生さんにしかできない、患者さんとの関わりもあると思いますよ。私は中学生の頃に発症したのですが、入院していた時、看護学生さんがついてくれていたんです。これからの私の生活がどうなるのかを解説した紙芝居みたいなものを作ってくれて、すごく感動しました。

:そういう風に、身近なお兄さんお姉さんみたいな関係を作れるのは、医学生のうちだからこそかもしれませんね。

大場(以下、大):今回こうして患者さんご本人の体験談を伺えることを、私たちの今後の学びの糧にしていきたいです。

:私は歯科医師なのですが、大学に入ってすぐに教授から「自分と同じ業種じゃない友達をたくさん作ってください」と言われました。医療者として社会に出る前に、世界を広げてほしいという意味だったんだと思います。今回の対談がその機会になることを期待しています。

ときには「放任主義」 医師と患者の多様な関係

:皆さんの主治医はどんな先生ですか?

能勢(以下、能):私の主治医はちょっと特殊かもしれません。患者本人に任せるタイプの先生で、「私は患者じゃないから、患者さんのインスリンの単位数なんか決められませんよ」って言うんです。

秋永(以下、秋):すごいことをおっしゃる先生ですね。

:「あなたは自分の生活のなかで一番いいと思うインスリンの単位数を考えて決めて打ってください。それが患者の仕事です」みたいなことを言われます。でもそれはたぶん、29年という私の病歴や、これまでの付き合いのなかで見えてきた私の性格を考慮して言っていることで、患者さん全員に同じように接しているわけではないと思います。場合によっては手取り足取り、細かく指導なさっているんじゃないかと。

:私の先生も能勢さんの主治医の方と同様に放任主義で、3か月に一度くらいしか伺わなくても大丈夫なんです。それでも私の体調に合わせてちゃんとインスリンの調整をしてくださるので、とても信頼しています。

:普段はどのようなことを相談されているんですか。

:例えば女性の場合、月経周期が血糖値に深く関わってくるんですね。女性ホルモンは、インスリンの作用効果にも影響を与えています。エストロゲンはインスリンの効きを良くし、プロゲステロンは効きを悪くすると考えられています。そのため、個人差はありますが、月経の始まる2週間くらい前の週は血糖がどーんと上がるけれど、始まり出す2~3日前から急激に落ちる印象があります。他にも、休みの日と働いている日では、運動量もストレスがかかっている量も全く異なってきます。それに合わせてインスリンの量を調整しなさいと言われました。自分で自分の血糖を測っているんだから、それに合わせて量を調整しなさいと。大変そうに聞こえるかもしれませんが、私の場合はそういう方針に変えてから、検査の結果が一気によくなりました。

 

医学生 × 1型糖尿病の皆さん
同世代のリアリティー 番外編

1型糖尿病 編(後編)(2)

患者一人ひとりに合わせたコミュニケーションの方法

:医師と話す時、心がけていることなどはありますか?

:医師ってやっぱり科学者だからか、データに基づいた話をよく聞いてくださる印象があります。「大変なんです」とか「困ってるんです」という主観的な話も大事ですが、それに加えてデータがあると、自分の状態をより理解してもらいやすくなるはずです。そういう話し方の工夫を患者側も心がけた方が、コミュニケーションはうまくいくように感じます。ただ、患者の中にもそれが得意な人と不得意な人がいると思うので、難しいところですよね。

:発症当初の中学生の頃は、毎日データを書くのが面倒で、なかなか続きませんでした。血糖値が落ち着いている方がお医者さんによく思われると思って、データを少し直して書いていたこともあります。すぐに嘘だとばれてしまうんですが(笑)。

:糖尿病は、患者さんご自身の努力によって結果が左右される病気ですよね。自発的に治療に取り組んでもらえるよう、いかに支援できるかが大事になってくるのかな、と思いました。

:そこに配慮していただけると嬉しいです。例えば、私は機械やデータが好きなので、先生がデータを見ながら一緒に考えてくださるのが嬉しいんです。自分で血糖測定器を使えることも楽しくて、治療のモチベーションになっています。私は発症してまだ1年程度ですが、それまで病院に行ったことがあまりなかったんですね。定期的に通院するようになって初めて、「お医者さんに会うということは、データを見たりディスカッションしたりすることなんだ」と考えるようになりました。

:皆さんは積極的に治療に取り組まれていると思うんですが、そうでない患者さんもいらっしゃいますよね。

:なかなか治療に対するモチベーションを上げられないという方も多いと思いますよ。私たちは同じ患者グループに入っていて、患者同士で情報交換をするのが当たり前になっていますが、そういう活動に参加されない方もたくさんいらっしゃいます。本当は、そういう人たちにまでつながりを広げて、より多くの1型糖尿病患者が、治療に積極的に取り組めるようになればいいな、と思っています。

患者でないと分からない? 医師の限界と挑戦

:こうして患者さんご自身の体験談を聞いていると、究極的には医師自身もその病気にかかった方が患者さんの気持ちが分かるんじゃないかと思ってしまいます。

:それはかなり極端な考え方ですが、たしかに、藤田さんのように自分が1型糖尿病になったから医療者を志したという方もいます。でも、患者でなければ優秀な医師になれない、なんてことはないですよ(笑)。

:私は医療者でもあるので、日々が勉強だと思って、患者としての自分が感じたことを大切にしています。例えば、医師に何か言われるとき、自分を肯定してくれる要素を一つでも盛り込んでもらえると、モチベーションの維持につながるんです。「前はこういうときに低血糖になってたのに、今回はならなかったね。何か努力したの?」みたいな問いかけがあると、患者の側も自分のことを医師に語りたくなる。そういうことを学べるのは、医療者の視点と患者の視点、両方を持っているからこそなのかな、と思います。

:ときには、医師のアドバイス通りにいかないこともあると思うんです。そんなときに原因が何か一緒に考えてくれる姿勢で対応してもらえるとありがたいですね。いろんな患者から情報を得られて、医師自身の経験も豊富になり、双方にとってメリットがあると思います。

体験談から考える目指すべき医師の姿

:今の主治医に感謝しているのは、次の月にやるべきアクションを一つ決めてくださることです。例えば「同じ位置に注射しないようにしましょう」とか、そういう具体的な行動レベルで。あとは、「今月はどうですか?」「他に質問はないですか?」などの、オープンクエスチョンもとても助かりますね。

:私は、治療のことはほとんど話さなくて大丈夫なので、大概世間話をしています。患者の状態や経験によって、理想の形も様々ですね。

診察室の中でできることってやっぱり限られているんですよ。医療機関に行くのは1か月に1回、時間で言えば5分とか10分じゃないですか。その時間内で、自分が診ていない時間の患者さんにいかに動機づけできるか、というのがポイントなんじゃないかな、と思いますね。

:一人ひとりの患者さんがどういう性格で、どんなことが行動の引き金になるのか、思いを馳せるのが大事なんですね。

:そうですね。患者が興味関心を持つことにフォーカスして、それに合わせてコミュニケーションを取ってもらえるとありがたいなと思います。すみません、大変ですね(笑)。

:私は、大きな責任を伴う医師という職業に憧れて頑張っているので、おっしゃることはむしろ当然だと思います。

:最初にも話したように、学生の頃にいろいろな医療者以外の方のお話を伺って、視野を広げることが、患者さんの立場になって考えることにつながるのかな、と思いました。

:急性疾患や感染症に罹患した場合は、専門知識を持っている医師にほとんどお任せすることになりますが、慢性疾患は患者自身でやらなければならないことも多いんですよね。お互い学び合う関係を作っていけばいいのかなと思います。

:ありがとうございました。

※医学生の学年は取材当時のものです。

 

No.21