はり師・きゅう師
鍼灸と西洋医学は協働できるか(前編)

チーム医療のリーダーシップをとる医師。円滑なコミュニケーションのためには他職種について知ることが重要です。今回は、東洋医学の国家資格である、はり師・きゅう師を紹介します。日本でも数少ない鍼灸学部のある明治国際医療大学で、はり師・きゅう師の福田晋平助教と、学長であり医師の岩井直躬先生にお話を伺いました。

鍼灸とは何か

先生 ――まず、鍼灸とはどんなものかお教えいただけますか?

福田(以下、福):鍼灸は、体表にある経穴(ツボ)に刺激を与える物理療法です。鍼(はり)は細い金属の針をツボに刺す方法で、灸(きゅう)はモグサに火を付けてツボに乗せる方法です。鍼灸の効果として、痛みや筋肉の緊張を緩和したり、血行を改善したり、自律神経を整えたりすることが挙げられます。副作用が少なく、服薬とも併用できるため、幅広い年齢層の方々に用いることができます。スポーツ障害などの運動器疾患、老年病、内科疾患など、様々な分野で応用可能です。

岩井(以下、岩):「東洋医学においては、内科的アプローチとして漢方薬が、外科的アプローチとして鍼灸や按摩、マッサージがある」と捉えていただけたらわかりやすいかと思います。

――鍼灸を行うには、資格が必要なのでしょうか?

:鍼灸にはそれぞれ「はり師」「きゅう師」という別々の国家資格があり、はり師・きゅう師と医師のみが施術を認められています。資格を取るためには、専門学校や大学の養成課程で3年以上学ぶ必要があります。多くの人は、はり師・きゅう師の両方の資格を取得しますね。資格取得後は、鍼灸院などに勤務して技術を学び、その後独立して開業するのが一般的です。

鍼灸における診断

――鍼灸では、どのようにして患者さんを診断するのですか?

:多くの人は不調を訴えて来院されますので、その人の主訴をじっくり聞きながら診断を行います。東洋医学で用いられる「八綱弁証」という指標を用いてその人の体質を診断したり、舌診や脈診、腹診といった東洋医学的な診察技法によって、硬さや熱、冷えなどがある場所を確かめ、そこが五臓六腑のどこにつながる経路かを診断したりします。治療は、浅くて細い鍼から始め、効果を見ながら太い鍼に変えたり、灸を併用したりします。灸は温熱製品でもありますので、冷えが強い場合は灸を使用することが多いですね。感受性を見極めながら、その人に合った刺激を模索していきます。一人あたりの施術に、長い場合は1時間~1時間半ほどかけることもあります。

:鍼灸では、東洋医学固有の理論だけでなく、西洋医学の知識もかなり取り入れられています。例えば、筋肉や臓器の場所を知るために解剖学を、刺激による生体の変化を知るために生理学を応用していますし、病理や疾患の概要についてもしっかり学んでいます。切り口やアプローチは違うものの、患者さんに対する接し方は医師と似たところがあると感じますね。時間をかけて問診を行うのは、西洋医学で採血や心電図など多様な検査を行うのと同じような感覚なのかもしれません。

はり師・きゅう師
鍼灸と西洋医学は協働できるか(後編)

臨床研究も進んでいる

――明治国際医療大学では、鍼灸学の博士号を取得することができるそうですね。

:はい。3年制の養成課程も多いなか、本学は4年制の大学を経て、修士課程・博士課程へと進学することができます。

――福田先生も鍼灸学の博士号を取得されているそうですね。大学院ではどのような研究をなさったのですか?

:「パーキンソン病の歩行障害に対する鍼治療」という研究です。パーキンソン病の症状の一つに「すくみ足」という、前に進めなくなる歩行障害があります。私は学部4年の頃から神経内科のゼミに所属し、パーキンソン病の患者さんに施術をしていたので、鍼でその症状が改善されるのではないかという仮説を持っていました。そこで大学院に進んでから、神経内科の医師や患者団体に協力していただきながら臨床研究を行い、客観的指標で効果を示すことに力を入れました。運動機能の改善を客観的なデータで示すことができたのは、大きな成果でした。

:このような研究ができる大学は日本では珍しいです。中国やアメリカなどに比べ、鍼灸の研究はまだまだ進んでいないのが現状ですね。エビデンスに基づいた治療を行い、信頼性を保つためにも、本学が先導して鍼灸分野全体の研究レベルを上げていきたいと考えています。

医師とのコラボレーション

――鍼灸は鍼灸院で施術されることがほとんどで、これまで西洋医学との協働の機会は少なかったと思います。今後、医療と鍼灸とは、どのような分野で連携の可能性があるでしょうか?

:鍼灸には痛みを緩和する作用があるので、緩和ケアなどの分野に鍼灸治療が入っていく可能性はあるでしょう。また、慢性疾患や、特定の薬が使用できない場合など、西洋医学を補完する形で鍼灸治療が行われるようになるかもしれません。

:現在、五十肩・リウマチ・腰痛症・神経痛・頸腕症候群・頸椎捻挫後遺症の6疾患については、医師の診断と同意書があれば保険適用が可能で、それ以外は自由診療になっています。

鍼灸の学会でも、チーム医療・多職種連携の話は話題に上りますが、なかなか進んでいないのが現状です。本学の附属病院のように、病院の中での鍼灸治療がもっと増えていけば、連携も進むと思うのですが。

――医師や医学研究者が鍼灸の分野に参入することについては、どうお考えですか?

:大歓迎です。私自身、大学院時代に指導教官から「鍼灸治療の効果は医学で用いられる評価のなかで示さなければならない」と言われたことが非常に心に残っており、今もその言葉を胸に研究を進めています。ただ、私の研究分野であるパーキンソン病もそうですが、はり師・きゅう師だけでできることは限られてきます。医師の先生と連携し、疾患への鍼灸の有効性の研究をともに進めていけたら嬉しいですね。海外では、医師が主導で鍼灸の研究を進めていることも多いです。ぜひ日本の医師の方々にも鍼灸に興味を持っていただけたらと考えています。

:本学には毎年、夏休み期間などに海外から見学者が来ます。医学生の皆さんも、鍼灸に興味があれば、京都観光も兼ねてぜひ見学に来てください。

info

岩井先生今回お話を伺った先生
岩井 直躬先生

明治国際医療大学 教授・学長
京都府立医科大学 名誉教授
専門領域:小児外科学







福田先生 福田 晋平先生
明治国際医療大学 はり・きゅう学講座 助教
鍼灸学博士

 

No.21