医学生×家政系
同世代のリアリティー

家政系学生 編(前編)

医学部にいると、同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われています。そこでこのコーナーでは、別の世界で生きる同世代との「リアリティー」を、医学生たちが探ります。今回は、家政系の学部に在学中の大学生3名と、医学生3名で座談会を行いました。
同世代

今回のテーマは「家政系学生」

様々な学部・学科がある大学。今回はその中でも「家政系」の学部にスポットを当ててみます。大学の授業ではどんなことを学び、どんなところに就職するのか、詳しくお話を聞いてみました。

家政系の学部では何を学ぶの?

山口(以下、華):皆さんはどんなことを学んでいるのですか?

山﨑(以下、可):私たちは生活科学部の人間生活学科、さらにその中の生活文化学講座というところに所属しています。この講座では、服飾の歴史や流行の変遷について重点的に学びます。講座に所属する先生方の専門分野が、日本服飾・西洋服飾・比較文化・民俗学と多分野に及んでいるので、授業内容は学内でも屈指の混沌ぶりです。

梨田(以下、梨):3年生の前期に、先生方の専門とする四つの分野のうち二つ以上を選び、ゼミに所属します。そこで各分野についてより深く学び、後期からは専門を絞り込んで、卒業論文の準備をしていきます。

:私たちは3人とも日本服飾のゼミに所属しているのですが、私は前期でそれ以外に民俗学のゼミも選択していました。

A:民俗学というと、先行研究や文献を読み込んでいくのが主になるのですか?

:先生によると思いますが、私たちのゼミはフィールドワークを中心にしています。生活が時代とともにどう変化しているのかに着目して、聞き取り調査などをするんです。ゼミでは、私たち学生も泊まり込みのフィールドワークを体験しました。

小湊(以下、小):実際に被服を作製する実習もあり、私が受講した時はパジャマや浴衣をミシンや手縫いで作りました。ただ、受講する人は少ないです。実技は、国立大学より家政学部や家政科のある私立大学の方が強いと思います。

福岡(以下、福):医学部は同じ授業をみんなで受けるので、講座やゼミを選ぶというイメージがありませんでした。授業内容も国家試験に向けたもので、大学ごとの違いもそれほどないので、新鮮ですね。

座学だけではなく課題で理解を深める

:印象に残っている授業はありますか?

:服飾史の授業ですね。宮中や宮廷などに属していた人々の間で、時代ごとにどういう服や髪型、装飾品が流行していたかという流れを見ていきます。

:似たような授業名でも、担当する先生の専門分野によって大きく内容が異なることもあります。例えば西洋服飾史の授業といっても、イギリスの服飾史もあればフランスの服飾史もありますし、さらにその中で時代ごとの違いや男女の服装の違いもあります。課題も千差万別で、「赤面」をテーマに取り上げたイギリス服飾史の授業では、期末レポートとして8ページ分の小説を創作することが課せられました。

:小説を書くんですか!?

:「赤面」って…?

:ヴィクトリア朝後期のイギリスにおいて、「赤面」がレディの好ましい表情とされていました。女性たちは、そのたしなみとしての美しさを獲得するべく、努力をしていたんです。

:例えば、化粧やスキンケアをしたり、服の色を利用して顔色を良く見せようとしたり、コルセットで血流を調整したりしていました。当時の化粧品やコルセットの広告に描かれている絵や文言からも、当時の赤面や美しさのあり方が読み取れます。そうした時代背景がわかって初めて小説が書けるんですよ。

:「赤面」や「階級」、「化粧」といったキーワードを盛り込みながら、登場人物に感情表現をさせ、物語として完結させるのは、本当に大変でした。

A:レポートが小説の創作というのは驚きましたが、確かにそういう授業だからこそできる理解度の確認の仕方で、納得してしまいました。僕たちの場合は実験をしてデータを正確にとることや、論理的な分析をすることを重視する傾向にあるので、まったく性質が異なりますね。

:他に、レポートとして壺の絵を描くことが課された授業もありました。

:壺の絵!?

:「好きな茶器を描け」という課題です。授業自体は茶道の歴史を扱ったものだったのですが、先生の意図としては実物を観察してほしかったんだと思います。歴史や変遷を辿るというと、文献を読み込んだり、机上の探求が多くなりがちな印象がありますが、それだけではだめだというのが先生方の共通の教えですね。確かに、文献を辿るだけではわからないこと、例えば着色の仕方や筆遣い、縫い方、使われてすり減ったであろう箇所など、実物を見て初めて理解できる要素も多いです。

:私は日本服飾史の授業で、人間国宝の方が作った十二単や狩衣を見せていただき、実際に着用させていただいたりもしました。それまでは教科書で学んだ知識しかなかったのですが、実際に肌触りや重さを体験して、実物を交えた学びはやっぱり違うなと思いましたね。

:座学だけでなく、課題を通じてさらに興味が広がるなんて、魅力的です。

 

医学生×家政系
同世代のリアリティー

家政系学生 編(後編)

大学で学んだことは就職には関係ない?

:卒業したら、どんなところに就職する人が多いですか?

:年度や学科によって目指す業界は本当にばらばらですね。私たちの学科は特に、自分が興味を持ったことを勉強しに来ている人が多いので、大学で学んだ内容と仕事は別だと考えている人も多いです。私も、今学んでいることと就職は関係ないかなと思っています。

:私もそうですね。就職活動では化粧品会社を中心に受けようと考えています。

:大学による就職支援はあるんですか?

:企業の人事担当者が大学に来て、企業説明会が開催されることもありますが、業界研究や、インターンなどの各種イベントへの申し込みは個人で行います。

:私たちも、就職については最近考え始めたという感じで、まずはインターンに参加してみているところです。インターンも、単に説明会という形のところから、グループワークを何度も行うというところまで、企業によって様々です。グループワークでは、企画を立てたり、それについて議論したりします。そこで大学での勉強を活かせることはほとんどないですね。

:興味深いです。医学部で学ぶことは、業務に直接つながるわけではないですが、下地になる知識や技能ですから。それに、4年間一緒に学んだ同級生が違う仕事に就くというのも、不思議な感じです。

概念を掘り下げるのが文系学部の特徴

A:昨年、お茶の水女子大学はトランスジェンダーの学生を受け入れることを表明しましたが、学生としてはどういう印象なのでしょうか。

:うちはジェンダーの話題に強い大学ですし、そうした内容の講演会も多数開かれています。また、専門の講座や先生もいらっしゃるので、特に違和感はありませんでした。

:私たち医学生は、ジェンダーに目を向ける機会はあまりないんですよね。知らなければいけないはずなのに。

A:医学部の勉強では、その人自身の望む生き方といった視点があまりないように思います。性自認も含め、その人の個性の尊重といった領域は、看護師さんのほうが圧倒的に詳しいような気がします。

:そう思います。看護学生と共同実習をした際に、私たち医学生はすぐ病気を見つけようとしていたのに対し、看護学生はその人の個性やどういう生活をしているのかといった背景、どういう治療を望んでいるのかという部分まで考えていました。

A:僕たち医学生は、人体や臓器、疾患といった、目の前にある実物や現象を見ているので、視野が狭くなりがちなのかもしれないですね。ジェンダーなどといった、現段階で議論の続いている概念について考えることには、あまり慣れていないと思います。

:そうした確定していない概念について、過去の歴史や現在の情勢を踏まえて考えるのが、私たち文系学部の特徴なのかもしれません。ただ、文献からの情報や概念ばかりを追っているだけでは、一つの側面しか見えないのも事実です。例えば、コルセットについて、美しさの表象としてとらえることもできますが、どこの骨や臓器が圧迫され、生理学的にどう悪影響が出るかという問題になると、文系的な視点だけでは不足が出てきます。何かを学ぶときには、実物や現象に注目する理系的な立場と、概念を深く掘り下げていく文系的な立場の両方が必要なのかもしれませんね。

まずは生活があってそのうえに病気がある

:大学での講義やCBTに向けた勉強を通じて、「この症状ならこの病気」といった、問いと答えがある状況に慣れてしまっていたのですが、今回の話をきっかけに、もっと広い視野を持ちたいと思いました。

A:家政学や生活科学で学んでいることは、「生活者」の視点により近いのかもしれないと感じました。学問のあり方についても、理系と文系という二元論で分けているだけではいけないなと思いました。

:医学部にいると、病気を治すことにばかり意識が注がれてしまうのですが、人には生活、衣食住があって、そのうえで病気になるんだということを忘れずに、これから実習に臨もうと思いました。今日はどうもありがとうございました!

 

この内容は、今回参加した学生のお話に基づくものです。