日本医師会の取り組み
有床診療所の役割

地域包括ケアシステムの中で新たな役割が期待されている有床診療所について聞きました。

今回は、秋田県医師会会長でもある小玉弘之日本医師会常任理事に、地域包括ケアシステムの中で新たな役割が期待されている有床診療所についてインタビューを行いました。

有床診療所の現在

――まず、有床診療所とはどのような医療施設なのでしょうか?

小玉(以下、小):有床診療所とは、19床以下のベッドを持ち、通院治療ならびに必要に応じた入院治療を行う小規模な医療施設のことです。対して、無床診療所とは、入院設備を持たない医療施設のことを言います。

有床診療所にはいくつかメリットがあります。まず地域の患者さんのニーズに柔軟に対応できる点です。有床診療所では分娩や手術も行えますから、患者さんに密着した様々な医療を提供することができます。また、入院患者さんの満足度が高い点もメリットとして挙げられます。大病院よりも患者さんと医療従事者とのふれあいが多く、より密接に患者さんやご家族と向き合えるからでしょう。このように、有床診療所は、地域で様々な医療を受けられる身近な存在であるとともに、地域医療の根幹を担う医療施設として大きな役割を担っています。

――そうした重要な存在であるにもかかわらず、有床診療所は現在も減り続けていますよね。

:はい、これは深刻な問題です。秋田県でも、私が役員に就任した頃は100か所ほどあった有床診療所が、現在では50か所を下回ってしまいました。有床診療所が増えない原因を探るために、無床診療所を開業した秋田県の医師にアンケートを行ったところ、有床診療所の減少の背景には、経済的な問題や、夜勤を行う看護師の不足等があることがわかりました。

――先生ご自身も、整形外科医として有床診療所を開設されていますね。

:はい。患者さんが入院を希望した際に、他の病院を紹介するのではなく、自分で全て診たいという思いがあったためです。こうした完結型を目指す有床診療所は眼科や耳鼻科、産婦人科に多く見られます。ただ、有床診療所のあり方は、今後大きく変わっていくかもしれません。

地域包括ケアシステムの中での有床診療所の役割

出典:日医総研ワーキングペーパーno.394 「平成29年 有床診療所の現状調査」

これからの有床診療所

――これから求められる有床診療所とは、どのようなものになるとお考えですか?

:単に病院のみと連携するのではなく、他の診療所とも連携し、より地域に密着した医療を提供する体制の核として有床診療所が必要になってくると思います。具体的には、無床診療所に通っていたものの入院が必要になった患者さんを有床診療所で受け入れ、同一の医師から一貫して治療を受けられるような体制が望ましいと思います。

こうしたシステムを実現するには、開業医同士が一丸となって地域の患者さんを診るという姿勢や、有床診療所のベッドを地域のベッドとして共有・活用するという視点が重要です。実は現在、この構想を実現させようと各所と協力している最中です。難題も多いですが、精力的に推し進めています。

私と医師会活動
尊敬する先輩や恩師の言葉が医師会活動の原点です

医療機関の看板が背負っているもの

――小玉常任理事は他の進路は考えず、最初から医学部を目指されたのですか?

小玉(以下、小):家庭の事情で医学部を目指すべきではあったのですが、高校時代はとにかくラグビーに熱中していました。全国大会に出場した際、ベスト16の試合は同点で引き分けとなりました。次の試合の出場権は抽選で、キャプテンであった私は「出場権あり」を引くことができませんでした。悔しがっていたら、慶應義塾大学のラグビー部の次期キャプテンに、「一緒にラグビーをやらないか」と誘っていただきました。その言葉に心が動いた私は、医学部は難しいだろうからと法学部に出願し、運良く受かってしまったのです。そこで、2年間は法学部に所属しながらラグビーに明け暮れ、その後に医学部に入りました。

―─医師会活動に関わるようになったきっかけを教えてください。

:実は私自身も、ここまで医師会活動の中核的な役割を担うことになるとは思っていませんでした。開業する際に入会しましたが、当初は真面目に参加しているとは言い難い状況でしたね。ですが、憧れていた尊敬する先輩が大きな病気をされ、お見舞いに伺った時に、「俺の後はお前が継げ」と言われたのです。その言葉を胸に、2006年に秋田県医師会の常任理事になりました。就任した当初は右も左もわからず、色々な方に助けていただきながらでしたが、役員として医師会活動に取り組むうちに、その重要性が明確に見えるようになってきました。

もう一つ、忘れられないエピソードがあります。私が役員に就任してから1週間ほど経った頃、当時の筆頭理事から突然、「開業医の看板の後ろには何がありますか?」というメールが送られてきたのです。この質問がどういう意味かわかりますか?つまり、「地域の医療機関を継続させなければ、その地域の医療は崩壊してしまう」「開業医の看板はその病院だけでなく、その地域の医療を背負っている」という意味だったのです。その言葉を受け取った時は非常に衝撃を受けました。あらゆる力を活用し、地域の診療所を守っていかなければならないと気付かされましたね。このように、先輩方からのお言葉に励まされながら、次第に医師会活動にのめり込んでいったのです。

──精力的に医師会活動を継続されていますが、その原動力は何なのでしょうか。

:秋田県医師会のモットーである「利他主義」の姿勢です。これは秋田県医師会前会長の小山田雍先生の言葉で、小山田先生もまた私にとっては忘れられない恩師です。小山田先生には、医療機関や医師の利益を度外視して考え、発言することを学びました。言葉にすると月並みな表現になってしまいますが、「世のため人のため」という気持ちで務めてきたからこそ、現在まで医師会活動を継続できたのだと思います。

──最後に、これから医師として社会に出る医学生へメッセージをお願いします。

:これまで皆さんは医学知識を蓄え、目の前の患者さんを診るための勉強に専念してきたかと思います。しかし、私たちが相対する患者さんには背景があり、社会には仕組みがあります。その人が本当に望む治療を適切に提供するためには、その背景と仕組みを知らなければなりません。そのためにも医師会活動や、医療と政治、医療と経済の関係などについて、ぜひ関心を持ってください。医師会の役員が大学に出張してそういった内容の講義を行うこともありますが、皆さんも身近な先生方に積極的に話を聞いてみてください。そこで得られる学びは、きっと意義あるものとなるでしょう。

小玉 弘之
日本医師会常任理事